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なんてこった

はじめまして、のりくるんです。

星の数ほどある作品群の中から私の作品を見ていただけて、本当に嬉しいです。

感謝カンゲキ雨嵐です(∩´∀`)∩ワーイ


この場をお借りしまして、ありがとうをお伝えしたく思いました。

どうぞ今後ともよろしくお願いいたします_(._.)_

 俺は結構なピンチを迎えていた。

 山から降りてきて直ぐのことだ。

 ギルドへ向かう道中、襲撃にあったのだ。


 何処で何を間違えたかすらわからないが、目の前には魔力を暴走させたエルフの女騎士が立ちふさがっている。彼女の魔力の奔流に吹き飛ばされ、ここは地上数十メートルの上空だ。


 彼女は風魔法の使い手だった。

 俺は見よう見まねで宙に浮きつつ、対峙していた。


 ――一応顔見知りだ。

 

 いや、語弊がある。俺との面識は一切ない。

 彼女が前世の俺の死に際に立ち会っていたのだ。

 名前はトルチェス。前世の俺に使えていた護衛騎士の一人。

 いわゆるトラウマの光景だけがトルチェスとの繋がりだ。

 冴え冴えとする純白の鎧と真珠のように透き通った白い肌が紅く染まっていた。

 俺の血がトルチェスを紅く汚していた。


(俺が一方的にトルチェスを知っているに過ぎないはずだが……)


 何の因果か今日突然押しかけられた。

 だが、言葉は交わしていない。

 ただ、出会い頭に猛烈なキスをされた。

 俺は羽交い締め状態で一切身動きできない状態でだ。


 トルチェスが出会い頭のキスを性癖にしているキス魔ならともかく、初対面の俺に対して常軌を逸したアプローチを仕掛けてきた意味がわからない。

 その理由を前世にしか見い出せない。


(いや、今はそんなことよりも眼の前の危機だ)


 眼の前のトルチェスは魔力を暴走させている。

 自身の魔力で周囲に風が巻き起こり気圧が下がりすぎている。

 恐らく呼吸ができていない。早く沈静化させなければまずい。


(いや、俺の対応に不満があって怒り心頭というわけじゃない)


 その時は正気……いやキス魔が正気とは思えないが、それでもその時はトルチェスの意思があったように思う。目と目が合ったときにそれは感じた。


 今は何者かに操られている様子で、目は開いているがそこに意志の光は宿っていない。

 虚ろで焦点も合っていない上に、対峙している俺を見てはいない。


 見ず知らず……関係がいまいちわからない他人のような彼女だが、前世の死に際、涙を流してくれていた……ここでむざむざ死なせられないと思った。


(だから一肌脱ごうと思ったわけだ)


「おいっ、何か良くないものでも食べたか?」


 …………返答は無い。


 だが反応はある。トルチェスが左手を前に突き出した。


 魔力がそこに集約され、閃光が放たれる。


(――ッ⁉)


 舞い上がった木の葉がその軌道を報せた。


 俺とトルチェスの間にあった幾つもの木の葉が寸断された。

 木の枝ですらスパッと切り刻まれている。その間コンマ数秒。

 極限の集中力で引き伸ばされた時間感覚をもってしてもあまりに速すぎだ。

 巨大な鎌鼬が三つ、上下からは弧を描き、ど真ん中は大地と水平に最速で迫ってくる。


(本当の非常時以外は使用しない……したくないっ! 今がその本当の非常時だ――だから仕方がないんだっ。避けれるものなら避けたかった――理解してくれ『俺』!)


 誠に遺憾だった。

 俺は内心では、スキルなんかに絶対に頼りたくないと思っている。


 俺の得た天職とスキルが前世由来なのだ。

 本来はそれらは家業や自身の才能に依るものが多い。

 なのに俺ときたら……(家業は農家だ!)

 なのに『淫魔王・羞恥王・愚賢王』なんて天職を授かった! 実家は王城ではない!


 ――おっと、恐ろしい鎌鼬が三発も飛んできてる。


(……魂の慟哭はこの辺で……はぁ……やだなぁ……できることならすべてを避けたかったが、人命優先だあああああ!)


避恁具ラヴ・グラヴ!」


 薄桃色の等身大のリングを出現させた。

 縁のある丸い鏡の様な形状だ。リングの中央部分には薄桃色の皮膜が張っている。


 またまた魂の慟哭なのだが、観察したくないという意思とは裏腹にむちゃくちゃハッキリとそのスキルの仔細が脳に刻み込まれていく。


(集中力の為せる技だ。クソッタレ!)


……鏡の中央に大きな水滴が垂れて乾いた痕のような――ペッタンコになったグローブの指先のようなものがペッタンコに張り付いている。

……被膜は全体的に潤っている。油でコーティングされたかのような艶やかさだ。


 集中力が、しっかり見せてくる。

 好奇心が、じっくり観察させてくる。

 目を背けたかった――肉体の反応を遥かに凌駕する視認能力が先に理解を呼び込んでいる。


(――クソがああああああああ! 受取拒否させろおおお!)


……リングがくるくると展開していく。

 リングには薄被膜が巻きつけられており、それが実際にはコンマ数秒以下で展開され、平面から立体へと変貌を遂げていく。


……展開しきると、円筒状のドームになった。

 胴部分の太さは一様ではなくて天頂部分が丸みを帯び若干膨れていた――蛇の頭のような形状になった。亀の頭のようでもある。



――それは俺にすっぽりと覆い被さった。


……内部は両手を広げてもぶつからない程度の空間だが、足元は吹き抜けで、リングの中央にあった被膜は皆上部の膜として展開している。


……俺はその中央部分に陣取っている。見様見真似の風魔法で浮いていた。


(――クソっ)


 過去に山でどうしようもなくなった時、一度だけ発動したことがあった。

 あの時よりも遥かにデカい……。

 俺は成長しているのかもしれない。――ナニがかは理解が及ばない。


(――もう分析はたくさんだっ!) 


 始動キーとなるスキル名を唱えるだけのお手軽さだ、魔力はほぼ不要。

 当時の俺はこのスキルに縋った。

 結果、致命傷を避けられた。

 だが、心に深い傷を負った。


(――クソぉおおお! もうこのスキルは使わない、今日だけ、今日だけだ!)


 俺の慟哭は向こう側には伝わらない。

 

(何故この膜は足元だけ開放されてるっ! 覆うなら全身を覆い隠せ! この天頂部分、なぜ突起物がついているっ! なぜヌルヌルしている! クソがああああああああ!)


 そしてようやく、最速の鎌鼬の第一陣が到着した。


――ぷるんっ!


◇◇◇


――その時、極限の集中力が眼前に迫った極大の鎌鼬を生命の危機と誤認した。

避恁具ラヴ・グラヴから目を逸したい一心と相まってその場に顕現したその防護膜を無いものとして扱ったのだ。


つまり――――走馬灯が駆け巡った。


その瞬間……俺は過去の記憶に飛ばされた。


◇◇◇


(あれっ? 死んだ? いや……こんなタイミングでトリップか……)


 俺にはよくあることだった。

 死にかけることが日常茶飯事だったからだ。なので理解は早い。

 そして状況確認に余念はない。

 周囲を見渡そうにも過去の追体験となるため、俺の意思が反映されない過去の自分の目を通してという条件の下、そこから状況を順次把握していくことにした。


(ここは……山か? ……前世ではないな)


 過去の俺は山か森の中を彷徨い歩いていた。

 腹具合まで再現されており、相当な飢餓感、強烈な喉の乾きすらも感じた。


(こんな腹を空かすことなんて……山籠りの間際の記憶か?)


 俺は諸事情で山に逃げ込んだ。

 五年間山で暮らしていたのだが、その間は天涯孤独の魔物たちとの共同生活だ。

 その仲間たちが俺に食料や水などを恵んでくれるようになったため、野生児生活は結局一年半だけ済んでいた……この飢餓感は実はあまりないことだった。


 辺りは一切を闇で覆われている。

 広葉樹に覆われた人外魔境と言われる山の森は、昼であっても夜のような暗さになる。現在も同様だ。頭上が大きな木の葉で隙間なく埋め尽くされており、昼夜の判別がつかない。


(それにしても、えらく間延びした走馬灯だ……ん?)


 俺の目が捉えたのは、幽かな白い光だった。

 乱雑に犇めく木々の僅かな隙間に一条の光が差し込んでいた。


(あの時かッ!)


 内心とは裏腹に、俺の身体は白光に誘われたかのように、警戒しながらも茂みと蜘蛛の巣を掻き分けながら突き進んでいく。


(まずいッ!逃げろおおおおおお!)


 明かりが一際強くなった。木立の隙間から漏れ出る光が多くなったからだ。

 そして――白く輝く『麒麟』と呼ばれる神獣の姿を目にした。


 馬のような胴体には白い鱗がびっしりと艶めかしく並んでいる。

 頭部から尾の方まで続く金色に輝くたてがみは、その背に月や星々を背負っているようにも見えた。ただ血のような真紅の角が額の中央と頭部の両脇から生え、そこだけが殺意を振りまいているように思えた。


(ダメだダメだ駄目ダメだ! 痛みまであるんだ! 勘弁してくれッ!)


 暗黒の世界で唯一の光源となる白い麒麟は、森の泉の中央に浮いていた。

 ――いや水面に立っていた。何をするでもなくただそこに在った。


(今直ぐその場から離れろッ!)


 俺はどうしようもないほどの喉の乾きを覚えていたはずだった。

 だが水場を発見したことよりも初めて見る神獣の神秘性に心と視線を奪われた。

 そして掠れる声で一言呟いた――


「綺麗だ……」


――怒りをかった。


「ヴォオオオオオオオオオオオ」


 瞬時に白い稲妻が殺到し一瞬で視界の全てを埋め尽くした。


――目を瞑る直前に、麒麟が水面を駆け始める光景が覗いた。

――目を開けた直後、眉間から生えた紅い角が俺の胸部を貫く寸前の光景に変わっていた。


 瞬き一つで命が散る寸前まで追い込まれていた。


 瞬間的に体感時間が引き伸ばされる。

 身体の反応すらが緩慢になる中、稲光でさえも遅く緩やかになった。


 だがお構いなしに麒麟がそこに割り込む。

 紅い角が俺の肌に触れるまで拳一つ分の距離にまで迫っていた。

 そしてその距離が徐々に狭まっていく。

 距離が縮まる。死が迫る。

指四つ分。

指三つ分……。

指二つ分…………。

指一つ……分…………。

爪…………一枚………………分…………。


 肉薄する間に、俺の知覚がどんどん引き伸ばされていくがそれでも殺意が停滞しない。

 俺の緩やかに引き伸ばされていく時間を切り割いて、俺の時間を永劫の彼方に葬り去ろうとしていた。


 全神経が凶悪な紅い角の先端に注がれる。

 そんな中、たった一つだけ逃れ出たものがあった。

 

――口が自動的に言葉を紡ぐ。

 脳裏に言葉が浮かんでいた。瞬時に本能が訴えかけていた。これを使えと。


ラヴ――――」


 当時の俺はこのスキルをまだ使ったことがなかった。

 と言うか十二歳時に天職を授かったその直後に山に逃げ込んだ。

 だから初見だった。その本能の訴えに疑うことすらしなかった。

 

 声帯が震える間すら無い、口の動きを借りただけの意思を発するという行為。

 その間も神獣の紅い角が動き続けていた。

 殺意の紅が俺の紅と混ざっていく。


「――グラ――――――」


 無限の時間が痛みを引き伸ばしていた――死ぬほど痛い。

 体内を刺突の痛みと白雷の痛みが駆け巡っていた。

 口以外は動いていない。

 胸骨が砕け、血が沸騰しはじめた――


「――――――――」


 凶悪な赤い角が致命傷に届く紙一重の距離、僅か数ミリメートル手前に達した時――体内に桃色の盾が顕現した。脳裏によぎったイメージがそう告げた。

 神獣の角が桃色のソレに触れたのは、俺の体内、心臓から〇・〇三ミリメートルの地点だった。


――その瞬間、雷以上の速度で突進してきた麒麟の体躯ごと、異物が弾き飛ばされた。


 俺は微動だにできないでいた。

 全身が骨を砕かれる痛みと全身を駆け巡る白雷の痺れに襲われていたからだ。

 眼の前の光景を眺めることしか許されない状況だった。

 吹き飛んだ麒麟が着地するのを呆然と眺めていた。


 同時、俺の体内に発生したスキル『避恁具ラヴ・グラヴ』が空間固定の能力であることを理解させられた。脳裏にその説明が流れたからだ。


『特性:リング部分はその空間に固定される』


 だが、それは任意だった。俺はそれを体外へと排出する。

 改めてその形状を目にした。


「この能力は……一体?」


 過去の俺が時間を取り戻すと同時、苦痛に悶ていた今の俺が悲鳴を上げた。

(やめろおおおおおおおおお! 理解するなあああ)


「展……開? ……クッ……血が……回復は後回しか」

(理解も後回しで良いからッ!)


――眼の前の麒麟が蹄を地面に叩く動作をしていた。


「威嚇だ。もう一度イケるのか? イケそうだな」

(使うなああああああああ!)


――麒麟が地を蹴り、突撃する――


(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………)


避恁具ラヴ・グラヴ! 展開!」


――小さな円形の鏡のような桃色の膜が、瞬時に立体へと変貌していく。


 すぐさま辺縁部に丸め込まれていた薄い被膜が展開された。


(…………目蓋を閉じろッ! 今すぐにッ!)

「なにっ⁉ 大きくならない――だとっ⁉ なぜ棒状⁉」


――完成形は薄い被膜でできたドーム状の円筒だった。

――突進してきた麒麟の紅い角がドームの先端に触れる。


(間に合うっ! ギリギリ間に合うからっ目を伏せて!)

「間に合ったのか? いや破られ――何っ⁉」


 全身を発光させながら突進してきた麒麟。

 その勢いに負けたかと思いきや、麒麟の赤い角を内包しながらドームが反転した。

 先端をこちらに向けている。


「反転⁉ ハッ⁉ ……この形状……大きさ……まさかっ⁉」

(………………)


 麒麟はもがいていた。

 抜け出せなくなっていたからだ。

 あまりの勢いで突進したため、奥深くまでソレに角がハマり込んでしまった。


 空間固定の能力は、雷のごとく駆けてきた神獣の脚力さえも抑え込み、いまも微動だにしていない。また紅い角にとてつもなくフィットしており、多少のアングルを変えたとてソレに合わせて脈打つように伸び縮みしていた。蠢く蛇の頭のようだった……いや……。


「…………これって……ちん◯んに被せるアレ……なの……か?」


 数年前、風のうわさに聞いていたモノにそっくりだった。


――ボキッ


「ヴォオオオオオオオオオオオ」


 神獣の断末魔が夜闇の森に響き渡った。

 山彦となって周囲にこだまする。

 ずっと叫び続けている。


 息の続く限り雄叫びを上げた後には、呆然と立ちすくむ俺と内股でぷるぷるぷるぷる震える子鹿のようになった『薄桃色の神獣』が、その状況に取り残されていた。


 神獣の白色というアイデンティティが脆くも崩れ去った瞬間だった。

 だが、史上初の桃色の神獣が世に誕生した瞬間でもあった。


「…………もうこのスキルは使わない……」

(………………ごめん。今使ってる……)


 深い絶望感に苛まれた時、今の俺の意識が暗転しかけた。

 仮初の肉体からその意識が引き剥がされようとしていた。

 薄れゆく意識の中でその後の顛末を思い浮かべつつ、仮宿から離れていった。


 その後は――

 薄桃色の明かりと甘い匂いに誘われた魔獣たちが殺到した。

 背を擦りながら手厚く介抱してやった桃色の神獣(?)が俺を背に跨がらせ、脱出劇が展開された。そして間一髪、窮地を脱した。


 その際に慌てて立ち去ったため、折れた紅い角が薄い桃色の膜に包まれたまま、その場に取り残されてしまった。手を伸ばしたが……届かなかった。宙に浮かび続けたままとなった。


 ねぐらへ帰還した後、そのスキルを解除するには一定の範囲内に立つ必要があると判明した。

 それはもう後の祭りだった。

 後日、数年にわたって何度もその場所を探り当てようとしたが、結局、二度と辿り着かなかった。


(忘れよう……忘れられるかな……頑張って忘れよう……)


◇◇◇


意識が鎌鼬が到着した後の時間軸に戻っていった。


この時の走馬灯――過去の追体験の記憶は、心の平穏を保つために忘却の彼方に投げ捨てられた。


だが少しだけ――


◇◇◇



(くっなんて高性能なんだっ! 見たところこの膜は非常に薄い――前回見た時は〇・〇三ミリメートル程だったくせに……進化してやがる! ……今じゃ〇・〇一ミリメートルだとぉおおおおお! なぜ破れない! トルチェス、腑抜けてんのかァああああ!) 


 くそう、憎い。この動体視力が。

 この寸分の差すら看破するこの観察力が……。


――ぷるんっ、ぷるんっ!


 その間に到達した第二陣・第三陣の鎌鼬も弾かれた。

 そして明後日の方向に飛んでいった。


――三発の脅威は去った。


    (――以降は十三話『桜花乱舞』へと繋がる~)


面白いと思われた方は、お星さまをお恵みください。

それだけで毎日更新がんばれます。(●´ω`●)

超嬉しくなって爆速で更新しちゃいます。

ご評価のほど、よろしくお願いします~v(´∀`*v)


↓の★★★★★を押して応援してください!



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