瑠璃
朱祢は私の部屋に行き、長椅子に私を下ろす。
続いて使用人が部屋に入り、冷えた水を用意し、出て行った。
朱祢は器に入った水を私に持たせ、飲ませた。
一口、二口、冷えた水が喉を、身体を潤すたび、心も冷え、落ち着きを取り戻した。
朱袮は空になった器を私の手から取り机に置くと、私の向かいの長椅子に移動した。
「姉様」
迷いのない綺麗な目を私に向ける。
私は姿勢を正し、朱祢の視線を受け止める。
「今夜日付の変わる頃、ここに、姉様の部屋へ参ります」
「わかりました」
私は淡々と返事をした。
もう話は終わったはずなのに、朱祢は動こうとしない。
「どうしたの朱祢。何かして欲しい事があるのなら言いなさい」
何故かこの子はいつも自分から求めようとしない。
いえ、求めているけど口に出さないで、視線で、表情で求めるのだ。
自分にもっと構って欲しいと。
素直に口に出して強請ればいいものを。
……でも、いつからこうなったのかしら。
幼い頃はこうではなかったのに……。
「姉様」
朱祢は立ち上り、私の隣へ移動した。
「姉様。先程言った通り、僕は姉様も兄様もお慕いしています。だからこそ姉様には後悔して欲しくないのです。行き着く未来は同じでも」
「朱祢……」
可愛いお強請りかと思っていたが、思いもよらない言葉を受け、思考が止まる。
朱祢は私の返事を待つことなくすっと立ち上り部屋を出ようとした。
「朱祢!」
襖に手をかけた朱祢は振り返り「失礼します、姉様」と言い、部屋を去った。
「朱祢……」
私は……どうすればいいのだろう――。