兄妹(姉弟)・ニ
近親ものです。
性的な事を匂わせる描写もあります。
後から気配が近づいてくる。
その気配が近づくごとに、私の身体は益々固くなる。
だけど動かなければ。
何ともないように、普段通りの姿を装わなければ。
私は朱祢の頬に添えた手をゆっくりと戻そうとしたが。
「朱祢!? んっ……」
朱祢が離れようとする私の手首を掴み、その手を自分の唇にあて、あろうことか舐められた。
「どうしたの、朱祢、やめなさい、んんっ……!」
注意しても朱祢は舐めることをやめず、あろうことか強弱をつけ始めた。
快楽を呼び起こすかの様に。
私は朱祢から手を戻そうとするが、朱祢の力が強く、引き戻せない。
「嫌っ、止めなさい、朱祢。止めてっ、朱祢……!」
どうしよう、どうしよう…!
嫌、嫌、嫌っ!
こんな姿、見られたくない! 見られたくないの……!
「あか、ね。おねがい、やめ、て……」
後からの視線を感じる。
見られているという羞恥のせいで、身体は熱くなり涙声になる。
だが朱祢は止めない。
掌から手首へと、朱祢の温かく柔かな舌がゆっくりと滑る。
(嫌っ…!)
すぐ後であの人の気配が止まった。
「…………!」
嫌、嫌!
お願いだから見ないで!
だけど、それは無理なこと。
あの人の視線を痛い程感じる。
それを認識する程、私は羞恥と怖ろしさが増し、比例して身体も萎縮し続ける。
「いい加減にしろ。聞こえなかったのか。するなら部屋でしろ。見苦しい」
「――――!」
その言葉に心を貫かれた。
叱責された。
軽蔑された。
失望された。
そう感じたと同時に身体から力が抜けた。
立っている事が出来ず、そのままゆっくりと座り込む。
朱祢が手首を掴んだままだったので、衝撃も痛みもない。
とにかくこれ以上無様な姿をあの人に晒すのは耐えられないので、立とうとしたけれど、本当に力が抜けてしまった私は、己を支えることも出来ず、みっともなく朱祢の足に前のめりに倒れた。
「瑠璃、朱祢を連れて部屋へ戻れ」
「…………」
声が出ない。
ちゃんと返事をしたいのに。
あの人の――、兄様の視線を感じただけで身も心も竦み上がってどうにも出来ない。
恥ずかしい。
もうこんな不様な私を視界に入れないで。
「朱祢、部屋へ戻れ。ここから逃げることは許さない。……ああ、瑠璃も連れていけ」
私が使い物にならないと判断した兄様が朱祢に告げた。
「いいのですか、兄様。僕が姉様を連れて戻っても」
「瑠璃はお前のものだろう。今更何を言う」
「本当にそう思っているのですか、兄様」
朱祢の声音が強くなった。
「何が言いたい」
対する兄様の声は冷淡だ。
「僕が姉様を殺してもいいのですか、ということです」
「……お前が殺せるのか、瑠璃を」
「ええ。殺せますよ。貴方方が感じているよりも、僕の毒はとても強いのです」
「そうか」
さして興味も無さそうに兄様が答えた。
「兄様、僕が姉様と契れば、絶対に僕から姉様を奪うことは出来ません。誰であろうとも」
朱祢が念を押す。
兄様がふ、と息を吐く。
「誰にものを言っている。全てを理解した上でお前に言っている」
「納得もしているのですよね?」
「当然だ」
「…………!」
兄様は躊躇いなく言い切った。
わかっていた、わかっていたけれど……。
胸が、心が……苦しい。
「姉様。今の言葉、聞きましたね」
朱祢が私に話を向けるが、直ぐに答えられなかった。
何だか頭がくらくらする。
おまけに息も苦しくなってきて、はっはっと呼吸も荒くなる。
「姉様」
「瑠璃」
少し様子がおかしいと感じた二人が私を呼ぶ。
朱祢はしゃがみこみ、私の肩を抱きながら顔を覗きこんで来た。
「姉様」
私は視線で大丈夫だと朱祢に伝えた。
あとはこんなみっともない顔を、姿を見せないように、隠す様に朱祢の胸に全身を押し付けた。
朱袮は私の気持ちを察して、きびきびと動き出す。
「兄様、姉様を連れて部屋に戻ります。失礼します」
朱祢は私を抱き上げると踵を返し、兄様の前から去った。