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こどく  作者: 水瀬 りお
1/9

兄妹(姉弟)・一

近親ものです。

後々、性的な事を匂わせる描写もあります。

急いだ足音が此方へ向かってくる。

こんな風に足音を立てるなんてどれだけ急いでいるかが窺えるというもの。


「姉様!?」


足音の主が驚きの声を上げる。

廊下を曲がり、出合い頭に姉である私が座っていれば当然でしょうね。

だが、弟は直ぐに冷静さを取り戻す。

「姉様、退いてください」

弟は真っ直ぐな視線を私に向け、言った。

私は立ち上り、同じように真っ直ぐに弟の目を見つめ答える。

「退きません」

お互いこう答えることはわかっていた。

数秒、見つめあったまま、先に私が口を開いた。

「戻りなさい、朱祢あかね。今なら見なかったことにしてあげます。さあ、早く……」

「姉様。それは僕と結婚するということですよ。いいのですか?」

私の言葉を遮って朱祢も口を開く。

「ええ、理解しているわ。当然のことでしょう?」

「『理解している』だけで納得はしていないでしょう」

どくりと心臓が跳ね上がる。

「……全て理解した上で言っているのです」

朱祢の言葉が胸を刺し、直ぐに言葉を継げられなかった。

「納得した、とは言わないのですね」

「私のことなどどうでもいいでしょう。己のことより家のことを考えなさい」

少しきつい言い方になってしまったが仕方ない。それよりも早くこの子を部屋に戻さなければ。

「ならば尚更、僕は家を出なければ。藍子あいこと一緒に」

「藍子と一緒に!? 何を言っているの、藍子は兄様の許嫁なのよ! 兄様から藍子を奪うなんて。……絶対に、駄目よ」

私は一歩、前に踏み出し、押し戻すように朱祢の胸に入る。

「駄目よ」

「姉様……」

朱祢は己の肩口に顔を埋める私を押し返そうともせず、抱きしめようともせず、ただ立っている。

それならば。

私は背伸びをして、朱祢の唇に自分の唇を重ねた。

(いつもと同じ)

私を突き放そうとも受け入れようともしない。

……でも、それでいい。

私達はただ、務めを果たせばいい。兄様のために。

(もういいか)

一、二分程そうして、離れようとした時。

(えっ!?)

朱祢の腕が離れようとした私の身体を引き寄せ、頭を掴む。

(んんっ!)

私は間近にある朱祢の顔を見る。

何の感情も見えない普通の表情。だけど、自分から離れないようにと、私の身体をしっかりと抱き留める。

どういう意図か、何を求めているのかはわからない。

ただ、私が何かをしなければいけないということはわかる。

困った子だ。それでも、そんな弟が愛おしい。

私は両腕を朱祢の背中に回して抱きしめた。

すると頭と腰にある朱祢の腕が緩む。

唇をゆっくり離し、両足を床につけ、朱祢の顔を見上げる。

「これでいいのかしら、朱祢」

「はい、姉様」

「そう。それならもう戻りましょう。いい子だから、ね」

私は前に零れた朱祢の横髪を耳にかけてあげ、甘えるように朱祢の胸にしなだれた。

これでいい。少なくとも今はこれで部屋に戻ってくれるはず。また逃げ出そうとするだろうけれど、そのときはまた捕まえればいい。

「他にも何かして欲しいことがあるなら部屋でしてあげる。だから部屋へ戻りましょう、朱祢」

私は朱祢の気が変わらないうちに早く戻るよう促す。

だが、朱祢は動こうとしない。

ここまですればいつもなら、ちゃんと言うことをきくのに。どうしたというの。

「朱祢、どうしたの。甘えたいの? 甘えて欲しいの? 貴方のしたいことをしてあげるから部屋へ戻りましょう。姉様の言うことをききなさい。私の可愛い朱祢」

私は朱祢の滑らかな頬を優しく撫で、もう一度口付けようと顔を寄せたとき。


「――そういうことは部屋でやれ。お前達」


低いがよく通る、冷ややかな声。


その声が聞こえた瞬間、私の身体は凍りついたように動くことが出来なくなった。

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