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借金の取り立て人は爆乳お姉さま

 特に何も起きず、可もなく不可も無く、平和に一日が過ぎて、俺は自宅のマンションへ帰った。


 エレベーターに乗って七階のボタンを押して、チンという電子レンジみたいな音がして開くドア。あとは右へ歩いて廊下の角を曲れば『お帰り』と言ってくれる家族のいない我が家だ。


 今日もまた、病院に入院中の妹と二人でゲーム三昧の日々を送るだろう。

 すると、


「オラ出てこいや狩谷ぁああ!」

「いるのは解ってるんだぞ!」

「刺すぞゴルァッ!」


 俺の家の前で、黒服サングラスのお姉さま方が物騒な事を言っていらっしゃる。

 すごくこわい……

 俺の家に何の用かは知らないが、今は出て行かないほうがいいだろう。

 近くの店で時間を潰してから、


「あん?」


 三人組の中央、ロングヘアーの女性が振り返り、サングラスをくいっと下げた。


 同時に目が合って、俺は全身を硬直させ、るのは一〇〇分の一秒だけ。


 前を向いたままバックステップ。

 バックステップしながら回れ右。

 回れ右をしながら非常階段へ向かって疾走。


 一〇〇メートル一二秒の足が全力疾走して、目の前に三セット、合計六個の爆乳がボッと現れた。


「のわぁああああ!? むぐっ……」


 正面の爆乳と正面衝突して、右手と左手が、それぞれ右隣と左隣に現れた爆乳をわしづかむ。


 やべぇ、まじでキモチイ……


 ブラ越しどころか、黒服越しでも三人の爆乳はそのやわらかさと弾力性を主張。

 しかも、顔をうずめてしまった胸の谷間からは、やたらといい匂いがする。


 香水とか、アロマ的な香りではない。

 これはなんていうか、女性の匂いだった。

 黒服サングラスのお姉さんは、見た目によらず、信じられないくらい心地よい、幸せの香りで俺の鼻腔を刺激してくる。


 まずい、離れられない。


 いけないと解っていても、ほら、こっちは高二男子なわけで、自分の意志で自分からこの天国を手放すなんてできま、


「おい」


 天国から顔を上げた、絶対零度の夜叉が俺を見下ろしていた。


「ひぃっ!」


 俺は悲鳴を上げて、背筋をシャキーンと伸ばす。


 俺から見て右側に立つ、ショートヘアーの女性が、サングラス越しに殺意のこもった眼光を飛ばす。


「私は右の玉を潰しましょう」


 俺から見て左側に立つ、ミディアムヘアーの女性が、サングラス越しに殺気を孕んだ視線を放つ。


「私は左の玉を潰しましょう」


 真ん中に立つ、ロングヘアーの女性がサングラスを外して、確実に人を殺した事のある目で俺を射抜く。


「じゃあ私は真ん中のを千切ろうかねぇ」

「いやあああああああああああああああああああああああ!」


 俺は両手で股間を押さえたまま、腰砕けになって後ろへ倒れた。

 ぶざまに床を這いながら逃げようとする俺の頭を万力のような力が絞め上げる。


「おいてめぇ、狩谷の関係者か?」


 ロングヘアーの女性が、頭上から俺にドスの利いた声を下ろす。


「ひぃいいいい、ちがいますぅううううう! ぼくは山田太郎! 善良な一般市民で今日は休んだ狩谷君のところにプリントを届けに来たんですぅぅ!」

「おい」

「「はい」」


 ロングヘアーの女性がアゴをしゃくると、残りの二人が俺の学生服に手をかけた。


「いやああ! やめてぇ! 脱がさないでぇ! 俺の貞操がぁあああ! 初めてだから優しくしてぇ!」

「黙ってろ童貞野郎! おいあったか?」


 二人の女性は俺を全裸にすると、俺の上着やズボンのポケットを漁る。

 前世でどんな悪行をすればこんな目に遭うのか、俺はパンツも履かせて貰えず、マンションの廊下でヨヨヨと泣き崩れた。


「ありました、学生証です」


 一時は電子身分証が流行ったらしいが、電気が使えない場面、LLGが故障した時、免許証や身分証が使えずトラブルが発生したらしい。


 その為、うちの高校では電子学生証とカード状の物理学生証を持ち歩くのが決まりとなっている。


 ロングヘアーの女性は、ショートヘアーの女性がから俺の学生証を受け取ると、舌打ちをした。


「どれどれ、○×高校二年、狩谷刀利……って何が山田太郎だふざけてんのかてめぇ!」

「違うんですぅ! それは狩谷くんの落とし物なんですぅ! 僕が届けてあげようと!」

「この顔写真はてめぇのだろうが!」

「僕と狩谷君は奇跡的に顔が同じなんですよ、ほら世の中には同じ顔をした人が三人はいるって」

「おい、ペンチを持ってこい」

「「はい!」」

「潰されるぅ!」


 俺は、股間を抑えて正座した。


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