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夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑫

7/24 二話目


 セシリーンは、不思議な感覚に陥っている。

 ブラハントと楽しく過ごしていて、ブラハントに笑いかけられている。両親や友人たちもいて、この場で楽しい人生を歩んでいる。

 ――そのはずなのに。




『セシリーン!』



 声が聞こえる気がするのだ。目の前のブラハントではない、ブラハントの声が。



(どうしてだろう。何故、こんな風に声が聞こえるのだろうか。……私は幸せに過ごしているのに。そもそもカーデン様は私をセシリーンなんて呼び捨てにしないのに。……あれ、そもそも何で、恋人同士って立場でそうなんだろうか)



 ブラハントは、基本的に君としかセシリーンのことを呼ばない。それを知っているから、セシリーンもその世界で恋人同士という設定であろうとも呼び捨てにしていなかった。



(……あれ、どうやって私はカーデン様と恋人なんてものになったんだっけ。なんだかモヤがかかったように思い出せない。私は王太子殿下を目覚めさせてそれから――……そもそも、私はカーデン様に近づけないと思っていたんじゃなかったっけ。なんだっけ……)



 セシリーンは思考する。試行しているセシリーンに、幻想の中のブラハントは微笑みかけている。



『セシリーン!! 聞きなさい。そこは――』




 声が聞こえる。

 そんなはずないのに、必死そうなブラハントの声が。




「どうしたんだ?」

「……声がするんです」



 声がする。ブラハントがセシリーンを呼ぶ必死な声が。



(……カーデン様はこんな風に必死にならないはず。だけどなんだろう、目の前のカーデン様が不自然に感じてくる。どうしてだろう。そもそも疑問点が多い。……私は本当にカーデン様と恋人なんてものになれたのか?)



 その必死なセシリーンを呼ぶ声が、セシリーンに思考を促す。



『セシリーン!!』




 その声が、他でもないブラハントの声だと、なんとなく理解している。



(じゃあ、目の前のカーデン様は? この私に優しくしてくれているカーデン様はなんだろう? ……私はどうしてここにいるんだっけ)



 自分で自分のことが分からない。その状態に不安を感じながらも目の前にいるブラハントを見る。




『セシリーン!! そこは夢の――』



 そして聞こえてくる声が、セシリーンのことを引き戻してくれる。





 セシリーンは目の前のブラハントを見る。何故かセシリーンの傍に当たり前のようにいて、当たり前のように笑いかけているブラハント。




(うん……やっぱりおかしいよね。カーデン様が私にこんな風に笑いかけているのも、カーデン様が私の傍にいるのも、違和感がある。何で私、これが現実だと思っていたんだろう? そしてここが現実でないというのならば――、此処はきっと夢だ)



 セシリーンはそれを自覚した。それと同時に、周りの世界が崩壊していく。セシリーンが敢えて壊していった世界。

 そして破壊されていく世界の中で、ブラハントの姿を見つける。




「セシリーン!!」

「はい……?」




 そしてそのブラハントは、切羽詰まった様子でセシリーンの名を呼んで、思わずといったように抱きしめられたので、セシリーンは驚く。



「ちょちょちょ、どうしたんですか! というか、本物ですか?? 此処って私の夢の世界ですよね? おそらく。何でそんなところにカーデン様がいるんですか!! カーデン様が名前を呼んでくれたから、何となく違和感感じたけど、そもそもカーデン様って私のこと呼び捨てにしてなかったでしょう!!」




 セシリーン、思わず驚きながらそんな風に早口でそんな言葉を紡ぐ。



 こんな場であるにも関わらず、セシリーンが相変わらずだったので思わずといったようにブラハントが笑った。





「……君が中々目を覚まさないからだろう。君が目を覚まさないから、私は此処まできたんだ。そもそも私が此処までこなかったら、君はそのまま死んでしまっていたかもしれないんだぞ。何故、君はそんなに能天気なのか……」

「ええ? 私、そんなに危険だったんですか? というか、私、自分の夢の世界に入ったの初めてなんですけど。何だか面白いですね。あとさっきまで呼び捨てだったので、呼び捨てでいいですよ。それにしてもカーデン様、私のこと、そんなに心配してくれてたんですか?」



 セシリーンはとても口が回る。ちなみに先ほどまで抱きしめられていたので、セシリーンは結構心臓がバクバクしている。だけどそれをごまかすように口を開いている。



「……そうだ。君は、セシリーンは危険だった。あのままでいれば衰弱し、死んでしまったことだろう。だというのに、能天気すぎる。それにそもそも何で私の姿があったんだ?」

「能天気能天気言い過ぎですよ! ……何でって言うか、ある意味、一種の願望というか」



 ぼそぼそとそんなことをいうセシリーンの声は徐々


に小さくなっていく。だけどブラハントが笑っているのを見て、セシリーンは意を決したように言う。

「ああ、もう!! 私の夢の世界をとっくに見られてしまったから、ごまかせないですし!! カーデン様、私はカーデン様のことが好きですよ!! ああいう願望を夢の世界で見てしまうぐらいには!! だけど、分かってますからね。カーデン様は宰相って立場ですし、一介の伯爵令嬢である私のことなんて相手にしないでしょう!! そんなこと分かっているので、カーデン様はただ私の『夢渡り魔法』を利用すればいいんですよ! そういうの得意でしょ!!」



 セシリーン、開き直っている。



 開き直ったままにいって、セシリーンはそっぽを向く。そもそもの話、あの願望のようなセシリーンが見ていた夢は、あくまでセシリーンが見たいと思った夢でしかない。

 それを理解しているからこその言葉にブラハントのおかしそうな声が、それにセシリーンは不服だとでもいう風にブラハントを見る。



「何を笑っているんですか!! 私は本気で言っているんですよ。冗談ではないですからね!」

「冗談だとは思っていない。ただ、別に『夢渡り魔法』で役に立とうが、立たないとしてもあの願望のように傍にいればいい」

「はい?」

「私も君のことを好ましく思っている。だからあの噂を現実にすればいい」

「本当に!?」



 セシリーンはよっぽどそういうことを言われるなんて思ってなかったらしく、そんなことを言いながら驚いたようにその黄色い目をブラハントへと向ける。



 そしてまじまじとブラハントを見る。その顔は少し赤い気がする。それを見て、セシリーンも顔を赤くする。そうしながらもからかうように笑う。




「ふふ、何時の間にカーデン様、私のこと気になってたんです? 恋人なんて今まで作りもせずに、過ごしていたでしょ。結婚する気もなさそうな感じで。なのに、私のことを好ましく思っているなんて」



 ほとんど照れ隠しも含めて、そんなことを早口で言うセシリーン。



 その場所では、セシリーンが今まで見てきた夢の世界の風景や、現実で経験した光景などが映っている。そんな不思議な空間の中で、二人は会話を交わしている。



「――ついこの前だ。ただ、セシリーン、もし私と共にいるのならば、今のような危険な目に遭う可能性も十分ある。その覚悟はあるか」

「誰にそんなことを言っていると思っているんですか? そもそもカーデン様の下についた段階からその覚悟ぐらいできてますよ。私はカーデン様の傍にいたい。例えそれで何かがあったとしても、それは私が選んだ道だから、後悔なんてしませんもの! 誰にも文句は言わせないし、誰かに何を言われたとしても正々堂々戦いますよ!!」



 その言葉に、またブラハントは笑った。いかにもセシリーンらしいと言った風な笑みだ。



「君らしいな」




 その後、ブラハントはセシリーンの名を呼ぶ。そして「なんですか?」と振り向いたセシリーンに口づけをした。

 すぐに口をはずされたそれに、セシリーンは驚いたように目を見開く。




「なななな、なにしているんですか!! しかも、此処、夢の中ですよ。私の夢の中でのキスが初めてのキスとか、現実でもちゃんとしてください!!」

 挙動不審のセシリーン、思わずといったようにそんなことを言いきった。その言いざまにまた、ブラハントが笑った。

「セシリーン、現実で君を待っている者がたくさんいる。此処からでようか」

「はい!! 行きましょう」



 セシリーンが手を差し出せば、ブラハントもその手を取った。



(自分の夢の世界、はじめて入った此処をもっと探索したい気持ちはあるけれど、私は死にかけてるって話だし、外に行かないと。お父様とお母様も心配しているだろうし。……それに願望の世界じゃなくても、カーデン様の傍に居ていいっていってくれたから)



 セシリーンは、自分の夢から出て目覚めようとするタイミングで後ろを振り返る。そこには初めて見た、自分の夢の世界が広がっている。



(もっと私が『夢渡り魔法』が得意になったら、またこの自分の夢の世界に来れるだろうか。うん。その時にまた此処は楽しもう)



 セシリーンはそんな未来への楽しみを考えながら、その夢の世界からブラハントと共に出るのであった。



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