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夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑪

 そして目を開けた時に見えたのは、不思議な世界。まるで夜の世界にいるような黒い世界。その中に一つだけ扉がある。黒い何かによっておおわれている扉。その扉がセシリーンの夢の扉だということはブラハントには分かった。



 ブラハントはその扉を開けようとする。硬く閉ざされているその扉は、中々開かない。でもだからといって諦める理由にはなりえない。



 勢い任せに扉を開こうとして、夢の世界だというのに手に傷を負う。だけどブラハントが治るように想像すればその傷は消えた。何度もそういうことを繰り返して、ブラハントはその扉を開ける。




 その先で見えた光景は、不思議な光景だった。

 統一感のない光景が、まだらに並んでいる。『夢渡り魔法』の才能がある令嬢だからこその、不自然な夢だと言えるのかもしれない。

 その不思議な光景は、セシリーンが今まで見てきた夢の世界や現実で関わりのあるものばかりである。その中には様々な経験をしているブラハントであろうとも不愉快な気持ちになるような光景もあった。




 そういう光景を夢の世界でセシリーンは見続けていたのかと思うと、ブラハントは少し眩暈がする。

 そしてブラハントはその夢の中を歩き続ける。




 時折セシリーンの姿も見えたが、それはあくまで本人ではなくその思い出が映し出されているだけのようだった。

 その中から、本物のセシリーンを探す必要がある。




 ブラハントはドバイデンから、夢の世界に囚われている間、どういった状態だったのかというのを聞き取りしている。その時にドバイデンは、夢と現実の区別がつかなかったと供述しているのだ。――セシリーンは、この場所が夢の世界だと気づいているのならば、『夢渡り魔法』を行使して、この世界からとっくに抜け出しているだろう。それだけ彼女は夢に関する魔法に長けているから。ただそこが夢の世界だと理解出来ないからこそ、そのまま囚われているのだ。




(……色んな光景が目に映る。これが、彼女が夢の世界で見続けている世界か)




 ブラハントは『夢渡り魔法』のことをセシリーンから聞いていて理解していたつもりだった。

 だけれども言葉で聞いているだけでは、理解出来ないものというのは多い。こうしてこの夢の世界に来たからこそ、ブラハントは『夢渡り魔法』について深く知ることが出来た。

 その夢の世界を歩き回り、不思議な空間を見つけた。

 黒い何かに覆われた不思議なドーム状の場エリア。その場所にブラハントは近づく。その黒いモヤの隙間から、セシリーンの姿が見えた。加えてその傍に自分の姿が見えてブラハントは驚いた。




(……私の姿? 私が出ている夢を見ているのか?)




 自分の夢を見ている事実にブラハントは驚いた。その場にいるセシリーンは、夢の中のブラハントに話しかけて嬉しそうだ。

 その様子を見て、ブラハントはその覆っているものを叩く。――自分は此処にいる。そこにいるのは自分ではない。そういう気持ちを込めて叩くが、それはびくともしない。




(確か彼女は王太子殿下を救う時に無理やり、これを壊すか、その世界が現実ではないというのを分からせないといけない。そのためにどうしたらいいのか。……ここは彼女の夢の中。その夢の中だからこそ、『夢渡り魔法』の影響をこの場所は受けているはず。それならば彼女が出来てたことが、私も同じことが出来るかもしれない)





 ブラハントは、夢の中のブラハントとセシリーンが笑いあうのを見ながらそれを思考する。

 セシリーンの『夢渡り魔法』の影響をこの場は受けている。無意識のうちにセシリーンは魔力を使い、『夢渡り魔法』が行使されている。――だからこそ、この空間はある程度『夢渡り魔法』の影響を受けている。




 夢の中だからこそ、『夢渡り魔法』を行使すればどうにでも出来る。

 ブラハントは宰相という地位だからこそ、荒事は得意ではない。だけれどもそういう想像をする必要がある。



 ブラハントは、想像する。このドーム状の何かを壊すためのものを。想像する。そしてその想像したものが、その場に顕現する。剣のようなものを出現させる。だけれどもそれはあくまでセシリーンの力なので、そこまでブラハントがその力を使いこなせるというわけではない。

 その歪な形で作られた剣は、それを破壊することが出来ない。




「……セシリーン・ジスアド嬢! 聞こえるか?」




 破壊が中々出来ないので、声をあげる。だけれども実際のブラハントではなく、彼女が見ているのは夢の世界にいる都合が良いブラハントを見ている。

 それはブラハントにとっていら立ちを感じることでもあった。

 それはそういう都合のよい幻想の中のブラハントではなく、実際のブラハントを見ればいいのにとそう思ってしまうのは、ブラハントがセシリーンに特別な感情を抱いているからと言えるのかもしれない。




「――セシリーン・ジスアド嬢! セシリーン!!」



 声をあげながら、ブラハントはドーム状のそれを壊すための想像をする。その声は、夢の世界に囚われているセシリーンには、聞こえていない。




(……聞こえないか。このまま、夢の世界に囚われていれば、いずれ彼女は死んでしまう。死なせてはいけない。死なせたくはない)



 ――この慣れない夢の世界で、ただ一人でセシリーン・ジスアドを救わなければならない。そして下手をすればこのまま夢の中へと囚われたままになるかもしれない。そういう危険性のある場所で、だけれどもセシリーンを死なせないためにブラハントは此処にいる。




「セシリーン!!」




 呼び捨てになってしまっているのは、それだけ必死であると言う証である。



 何度も何度も声をあげながら、それを壊そうと行動し続ける。そうすれば、その合間に隙間が出来る。その合間から見えるセシリーンは、何処までも楽しそうに笑みをこぼしている。




「聞こえるか。そこは現実ではない!!」



 柄にもなく、ブラハントが声をあげる。だけれどもその声は、セシリーンに響いていないようだ。彼女は目の前の世界を見続けて、ブラハントの方を見ない。



「セシリーン!!」



 大きな声をあげれば、一瞬だけセシリーンが目を瞬かせる。




 声が聞こえていないわけではないらしい。ただセシリーンにとって、その世界は現実だから。現実と思い込んでいる世界で、空耳のような呼び声が聞こえてきたところでそこが現実だとは思えないのだろう。

 ブラハントの声は、セシリーンに響いていない。



 セシリーンは、幻想の中のブラハントやソドアたちのことを見ている。『夢渡り魔法』を行使できるセシリーンだからこそ、その幻想の中での人々もまるで本物のようである。夢の世界であればなんだって実現できるセシリーンが現実だと思い込んでいる世界だからこそである。




「セシリーン!! そこは現実ではない」




 その場が現実ではないと分からせなければならない。そのために、なりふり構ってなどな出来ない。



「セシリーン!! 私は君に生きていてほしい!! その場に囚われ続ければ君は死んでしまう」




 声を上げ続け、そのセシリーンが現実だと思っている世界を壊すためのものを想像し続ける。少しずつ隙間は出来ている。だけれどもそれはセシリーンの『夢渡り魔法』が作用しているか、修復しようとしている。



 セシリーンがその場を現実だと思えば思うほど、その世界は現実味を帯びていく。



「セシリーン!!」



 その世界を壊すために、ブラハントは声をあげた。



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