夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑧
そういうわけでセシリーンは、社交界を休むことなく、社交界に顔を出していた。流石にブラハントと本当に恋仲のようにふるまうのは、危険すぎるということで却下されていた。
セシリーンは、そういうふりをしたほうが不穏分子をどうにかできるのではないかと思ったのだが……、自分を心配して口にされた言葉を否定することなどセシリーンには出来なかった。
(それにしても社交界で必要最低限話すだけの私とカーデン様を親密だと噂し続けるって何をしたいんだろうか?)
そんなことを考えながら社交界に参加していたセシリーンは、令嬢たちに絡まれてしまった。
「貴方、どうして貴方のような方がカーデン宰相と噂になっておりますの?」
「この前王城にも招待されておりましたよね? 調子に乗っているのではなくて?」
セシリーンのことをそんな風に問い詰めるのは、美しいドレスを身にまとった令嬢たちである。まだ未婚の令嬢たちは、よりよい結婚相手と結婚したいという野望に燃えているのだ。
ギラギラとした目はさながら獲物を狙う肉食獣のようである。そんな風に肉食獣のような目を向けられると、セシリーンは少し怯んでしまう。
(大丈夫。怖がらないでいける。だって目の前のこの人たちは、夢の世界で見た怖い人達よりも怖くないんだから)
夢の世界では、様々な危険な様子を見せられる。その夢の世界でセシリーンは誰よりも現実で起こりうる危険な行為を知っている。
それを知っているからこそ、セシリーンは恐れない。
「調子になど乗っておりませんわ。そうですわね。私がカーデン宰相と噂になっているのは、ただの偶然ですわよ?」
セシリーンはこうやって誰かから害意を向けられることはあまりなかった。だからこそ、こうして害意を向けられると少し緊張してしまう。
(不穏分子のあぶり出しを手伝ってもらうとカーデン様は言っていたけれど、私が危険な目に遭わないようにはしてくれている。そもそもこうして未婚の令嬢に絡まれるぐらいは、まだ可愛いものだと思うし)
セシリーンはそんなことを考えながら、目の前の女性たちと対峙する。彼女たちは礼儀正しい令嬢たちだったのか、その後、その場から去っていく。結局のところ、こういう人目につく場所で、そういった行動を起こそうと思うだけの度胸は彼女たちにはない。
セシリーンがブラハントに近づくことを面白くないとは思っていても、こういう社交界の場で騒ぎになって結婚相手が見つからなかったら困るのだろう。ブラハントとあわよくばとは思っていても、他の結婚相手もちゃっかり探しているわけである。
(こういう令嬢たちは正直言って大きな行動はおそらくしないはず……でも貴族令嬢を利用しようとしている人がいるのならば、その人は踊らされる可能性が高い。でも踊らされるにしても……私みたいな世間知らずな令嬢だろうか。王太子殿下を眠らせて、カーデン宰相を陥れようとしている存在……。流石に私もそういう存在の思考が分からない)
セシリーンは、そういう思考の存在と現実で関わることがほとんどなかった。だからこそセシリーンは、彼らがどういう風に行動を起こすのか分からない。
私利私欲のために王太子を眠らせ、そしてブラハントを貶めようとしている。王太子であるドバイデンも、宰相であるブラハントもセシリーンの目から見て、有能な存在である。
そういう存在だろうとも、周りは彼らを蹴落とそうとさえする。誰にでも好かれ、もてはやされる存在というのはいない。ドバイデンやブラハントという存在でさえもそうなので、セシリーンは色んな人がいるものだなと実感する。
セシリーンは、社交界で人々に遠巻きにされながら過ごした。思ったよりも人に絡まれることは少なかった。セシリーンでも十分に対応できる範囲の絡まれ方だったので、セシリーンはほっとしたものである。
(カーデン様は、私以上に悪意などを向けられているんだろうなぁ。それでもそれと向き合っている。なら、私だって逃げるわけにはいかないよね。やれるだけ頑張るぞ)
そしてセシリーンはそんな風に決意して、不敵に笑うのであった。




