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夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑦

「カーデン様、噂出回ってますね」

「ああ」



 夢の世界でセシリーンがブラハントに会いに向かった時、ブラハントはその美しい顔を考えるようにゆがめている。

 王都の広場のベンチに腰かけているブラハント。ブラハントをまじまじと見つめるセシリーンは、その端麗な顔立ちに綺麗だなと思ってしまう。

 やはりセシリーンはブラハントに惹かれているのだろうと感じていた。




「君には迷惑をかけてしまっているな」

「いえ、大丈夫です。気にしないでください! これだけ噂になっているのは明らかに意図的にですし。カーデン様のことをどうにかしたいと思っている人がいるってことですし」

「まだ、噂になったのが君で良かったのかもしれないな」

「それはどういう意味ですか?」

「いや、君じゃなければもっと面倒なことになっただろう。君は下手に暴走したりもしないし、夢の中で私とあっていてもそれを喧伝することもないから」



 セシリーンはブラハントのその言葉を聞いて、それもそうだよなぁと考える。




 ――ブラハント・カーデンは、有能で、美しい宰相だ。その宰相閣下に近づきたいと思っているものは、男女問わずに多い。セシリーンはブラハントに惹かれている一面はあるものの、夢の世界で色んな情報を知っているからこそ、そんな自惚れをすることはしない。

 そうなったら――という思いがないわけではないけれども、セシリーンはブラハントという人間がそんな簡単に誰かに惹かれるわけではないというのは分かる。





「――それで、どうします? カーデン様のことをどうにかしようとしている勢力がいるのは分かるんですけど、このまま私とカーデン様が表立って接触しなかったとしても私たちの噂は出回り続けますかね?」

「そうだな。恐らくそうなるだろう。不自然なほどに君との噂が出回っているのは君を使って、私の地位を落とそうとしているからだ。そう考えると、君は社交界に出るのをやめた方がいいかもしれない。社交界に出れば好奇心に満ちた視線を向けられてしまうだろうし、今よりも危険な目に遭うことが確定している」




 ブラハントがそれを口にしているのは、セシリーンのことを考えての言葉と言えるだろう。




 幾らセシリーンに『夢渡り魔法』という特異な魔法を持ち合わせていても、それ以外はセシリーンは普通の令嬢である。

 王太子を目覚めさせるために危険な綱渡りをしたものの、現実でこれ以上セシリーンが大変な目に遭う必要はないのだ。




(やっぱりカーデン様は何だかんだ優しい。人道に反したことはしない。私をもっと利用したほうがきっとカーデン様は動きやすい。それでもそういうことを私に提案している。でもそれもここが夢の世界だからかな。夢の世界だとその人の本音や本心が出やすいから)




 セシリーンはそう考えて笑った。



 笑みをこぼしながら、セシリーンはブラハントに問いかける。




「カーデン様は私の事を考えてそう言ってくれてるんですよね。でも私が社交界に出ない間もカーデン様は、社交界に出続けるつもりですよね?」

「それは当然だろう。私が社交界に出ないということがあれば、益々付け入らせることになる」




 当たり前のようにブラハントは、自身は危険な目に遭っても構わないといった態度をする。

 このトートイズ王国の宰相として、誰かに狙われることも日常茶飯事なのだろう。誰かに苦難を与えるだけではなく、自身もその渦中にいることを当たり前としている。

 そういうブラハントだからこそ、セシリーンは次の言葉を口にした。




「――カーデン様、私は貴方がそういう風に真正面から敵対する人たちと向き合うことをするなら、私だって逃げないです! 私だって危険を承知で、カーデン様の手伝いをするって決めたんです。危険を承知で、その危険料も含めてカーデン様から報酬をもらっているんです。私に出来る事なら、何だってしますよ。この国のためにもこの国の貴族として私は全力を尽くします」




 そう告げた言葉の裏には、ブラハントの役に立ちたいと言う思いも当然あった。だけど流石にそれは恥ずかしいからセシリーンは告げることはない。

 セシリーンの言葉にブラハントは驚いたように目を見開いた。




「だから、私は逃げませんよ! カーデン様と共謀するって決めたのは私ですもの」

「……そうか。君がそういうなら、それもありだろう。ただし……、危険な真似はさせない。ジスアド伯爵にも顔向けが出来なくなる」

「お父様には私の方でちゃんと言っておきます。だからカーデン様はもっと、私の事を共謀者として利用して全然いいんですよ!」

「いや、君も年頃の令嬢だろう。そんなことをしたら結婚に支障が出るだろう。……今も十分支障が出ているかもしれないが……」

「いいんですよ! 私だって伯爵家の令嬢ですし、お父様が有能だから結婚しようと思えば妥協すればどうにでもなりますし。それに私はこういう国の事情に関わって……結婚なんて考えられませんし」





 セシリーンは真っ直ぐな少女である。一つのことに熱中していると、他のことに夢中になれない。

 そう言うタイプの人間なので、国の問題にかかわっている中で、結婚なんて考えられない。

 自分は引かないというその意志を持ってして、セシリーンはブラハントを見ていた。その強い意志を見たからだろう。ブラハントは諦めたように頷いた。




「……じゃあ、君には不穏分子のあぶり出しを手伝ってもらおう。ただし勝手な行動はしないように」

「はい!」



 そしてセシリーンはブラハントの言葉に勢いよく頷くのであった。




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