夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑥
さて、そんな風にいつも通り夢での交流を行っていたセシリーンとブラハントにとって予想外のことが起きた。
「私とカーデン様の噂が出回っている!? なんで!?」
それは、何故だかセシリーンとブラハントが親しくしていると言う噂である。確かにこの前の社交界では助けられたが、それ以外ではほぼ現実ではセシリーンはブラハントとかかわりあっていない。
だというのにも関わらず、ブラハントとの仲を噂されるなんてセシリーンには驚きだった。
「私も驚いたよ。セシリーン。……これにはきっと色んな意図があるのだと思う」
「お父様、意図って?」
「カーデン宰相の事を蹴落としたい人間は多くいると言うことだよ。それにセシリーンが王宮に行った事も少し噂になっているね。王宮にセシリーンが他の令嬢たちと一緒に上がったことはそこまで噂になるべきことはないはずだけど……、これは王太子殿下を眠らせた存在がカーデン宰相をどうにかしようとしているのかもしれないな」
「流石に私の魔法まではバレてないよね?」
「バレてないと思うが……、セシリーンは王太子殿下にかけられていた魔法をどうにかしたから、あの状況に陥らせた相手にセシリーンの存在は感知された可能性もあるだろう」
「えー」
セシリーンはソドアの言葉を聞いて、嫌そうな顔をする。
動きやすそうな部屋着を身にまとっているセシリーンは、ソファに腰かけ足をぶらぶらさせている。なんとも貴族令嬢らしくない態度であるが、家の中というのもありソドアはそれに対して何か言うことはない。
(うーん、なんで私とカーデン様の噂が出回っているのだろう。正直言って、少し嬉しい気持ちもあるけれど……そもそもカーデン様にはきっと迷惑だよね。カーデン様はこの国の中の権力者だからこそ、そういう風に蹴落とそうとしている勢力がいるってことだよね。本当にこの王侯貴族の社会は色々とややこしいなぁ。私も貴族の令嬢だけど)
セシリーンは貴族の令嬢だけれども、両親が寛容なのであまり現実でそういうことを経験してきていないため、何だかどのようにしたらいいのかと悩んでしまう。
だけど、悩んだところでどうしようもないというのがセシリーンの結論である。
「お父様。私が悩んだところでどうしようもないので、カーデン様に相談します!」
「ああ。それがいいだろう。……それにしてもセシリーンはカーデン宰相と仲よくしているんだね。彼も中々罪作りな人だから、深入りをして傷つかないように」
「もー、大丈夫だよ。お父様。私だって身の程をわきまえているから。カーデン様は宰相として有能ですし、かっこいいから」
その発言からして、セシリーンがブラハントのことを気にしていることが丸わかりである。
セシリーンは、年頃の乙女であるが、誰かと恋愛関係になることは今までなかった。そのセシリーンが誰かを気にしているのがソドアからしてみれば嬉しくもあり、その相手がブラハントであることに心配もしている。
なんせ、相手はブラハント・カーデンである。その気持ちが届くなどとはセシリーン自身もソドアも思ってはいない。
さて、セシリーンがブラハントと噂になっているという影響は社交界や友人とのお茶会にも広まっていた。
セシリーンは結婚相手を探して社交界に顔を出しているわけだが、ブラハントとのことが噂になっているのもあり、注目を浴びていた。
セシリーンが望んでいなかった嫌な注目の仕方である。
(あー、こんな風に注目を浴びるなんて思っていなかったんだけどなぁ。仕方ないにしても……何だか嫌な視線多いなぁ。やっぱりカーデン様ってとても人気者。カーデン様みたいに有能で、綺麗な人相手だと誰だって結婚したいって思うだろうし。そう考えると私みたいなちんちくりんな令嬢と噂になるなんて、周りからしてみれば驚くべきことなのかもしれない)
セシリーンはそれを考えると、ブラハントに対して申し訳ない気持ちになってしまった。
セシリーンを見て、こそこそと彼らは話している。セシリーンのような令嬢がブラハントには似合わないとか、どうしてあんな子がといった声がささやかれている。好奇心に満ちた瞳を向けているのは男性で、睨むようにセシリーンを見ているのは女性である。
セシリーンの友人たちに関しては、セシリーンを守るように周りにいてくれている。
それを見てセシリーンは、良い友人に囲まれているとそのことを実感する。
ちなみにこの社交界の場には、ブラハントもきている。噂になっているブラハントとセシリーンのことを視界に留めている人は多いが、敢えて此処で会話を交わすことはしない。ただ視線が合ってしまった。そういう視線が合っただけでも、周りで噂になってしまうのでセシリーンはブラハントの方を見ないように気を付けることにする。
噂が出回っているからこそ、ちょっとしたセシリーンが起こしたことでブラハントに迷惑をかけてしまうのだ。
セシリーンは社交界の場でブラハントに近づくことはしなかった。
ブラハントだってセシリーンに近づいてくることはなかった。
それでも驚くべきことに、ブラハントとセシリーンの噂は出回っていた。
誰かが意図的に広めているかのように、ただただ広まっていく。ブラハントとセシリーンが誰も知覚することの出来ない夢の世界でしか邂逅していないとしても広まる噂。
――それはきっと、ブラハント・カーデンという若き、有能な宰相を蹴落としたいという勢力が動いている。
セシリーンがおもっている以上に、この国は大国だからこそ闇の部分があると言えるのだろう。幾ら平和的に見えていたとしても、王太子が眠りにつかされていたり、ブラハントが噂で蹴落とされそうになっていたり――色んな陰謀が渦巻いている。
この短期間でセシリーンはその事実をより一層実感している。




