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夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ⑤

「君はもう少し危機感を持った方がいい。この前王都を探索していた時だって、君は危機感がなさすぎる。今回も人気のない場所に君が行ったからこそ、ああいう輩に付け込まれてしまったんだ」

「はーい。分かってます」

「……本当に分かっているのか? 君は伯爵令嬢なのだから、もう少しどうにかしたほうがいい。君は世間知らずすぎる」

「はい! 分かってます。今度から同じような目に遭わないように気を付けます!」





 ブラハントはセシリーンのことを心配しているのか、そのようなことを言っている。



 夢の世界を訪れたセシリーンは、想像通りにブラハントから注意を受けていた。ブラハントは夢の世界でセシリーンのことを見つけると、すぐにそういう話をした。



「……本当に分かっているのか? 私が来なかったらどうするつもりだった?」

「カーデン様が来てくれたから事なきを得て、私はとても感謝しています! 今度から同じようなことにならないように、私、気を付けます!」

「ああ。そうしてくれ」




 セシリーンの言葉に、ブラハントはそう告げる。

 その言葉からして、セシリーンのことを心配していることが分かるから、その小言もセシリーンは受け入れていた。





「君は伯爵令嬢として結婚相手を見つけるのは重要だと思うが、ああいうのには捕まらないようにした方がいい」

「そうですよねー。この国って離婚がないわけではないですけど、離婚する人って少ないですし。ちゃんとした人にしないと。結婚相手候補の夢の中には入りたいですね。その人の本質が分かりますし。カーデン様も結婚していないですよね? 結婚する予定はあるんですか?」

「今の所ないな」




 はっきりと言い切るブラハントに、少しだけほっとする。



 ――ブラハントが結婚してしまえば、こうして夢の世界とはいえ、会話を交わすのは難しくなるかもしれない。



 ブラハントは気にしないかもしれないけれど、それでも奥さんがいる相手の夢に何度も何度も顔を出して、二人きりで会話を交わすのはまた別な気がセシリーンはしていた。






(……結婚について、深く考えられないのよね。お母様とお父様みたいに仲が良い感じがいい。政略結婚だったとしても、どこか分かり合えるというか、一緒に過ごせて行ける形の方がいい。あの子爵子息みたいなのはとりあえず無しとして……私の『夢渡り魔法』を受け入れて、悪用しないでくれる人……駄目だ、やっぱり目の前のカーデン様が思い浮かんでしまう! けど、却下! だって、絶対に無理だし)





 思わずセシリーンは首を横に振る。




 その様子にブラハントは怪訝そうな顔をする。目の前にいるこの人は、セシリーンがそういうことを考えているなんて思いもしないだろうということが見て取れる。

 宰相としてこの国のために尽くし、それでいて恋なんてものに現を抜かすことのない存在。




「ところでカーデン様、結局王太子殿下をあんな状態にした相手は見つかったのですか?」

「いや、見つかっていない。候補は絞れたが、まだ明確に誰があんなことを起こしたのかは分かっていない」

「まぁ、そうなんですか。そのあたりも私も夢渡り魔法で探すことが出来そうなら探しますね」

「……それは構わないが、危険な真似はしないように。私のように君の姿を見て、君が何らかの力を持っていると悟られる可能性もあるから」

「カーデン様って優しいですよね。何だかんだちゃんとしているっていうか。私、お父様たちにこの能力について知られたら利用されることもあるから気を付けるようにってずっと言われてたんですよね」

「それはそうだろう。君の能力は使い勝手が良すぎる。それでどのようにでも出来る。君が悪人ではなくて良かった。君の両親もだが」

「……んー、そんなに色々出来ます?」

「出来るだろう。例えば、毎日同じ人の夢に入り込むこと。まず同じ人の夢に入り込むとその夢の主が体調を崩すと言っていただろう。それは言ってしまえば君は秘密裏にその相手を殺害出来るということ。君はやろうと思えば暗殺者にだってなれるだろう」

「え、嫌ですよ!」





 恐ろしいことを言われてしまって、思わずセシリーンは大声をあげてしまう。




 そうすればブラハントの夢の中にいるうさぎが驚いたようにびくついた。その様子を見て、セシリーンは「ごめんね」と口にしながらうさぎを撫でる。あくまで夢の中の存在でうさぎ本体がいるわけではないが、夢の中の世界のうさぎとはいえ、申し訳ない気持ちになっていた。





「そうやって嫌と言える良心を持っていたからこそ良かったと言うべきだろう。君がそうではなければ、もっと人を殺すことにやりがいや喜びを感じるような存在だったのならば、大惨事になっていただろう」

「……そういう人が私と同じ魔法を使えていれば確かに大変です。私の魔法ってその人の夢の中で自由に出来ますから、ある意味洗脳のようなこともやろうと思えばできます。例えば、こうやって――」




 セシリーンはそう言って、この場に悪魔のような恐ろしい生き物を出現させる。




 ブラハントは、それを見ても平然としていた。セシリーンが渾身の想像力で生み出した悪魔に対してそういう態度をされて、セシリーンは何だか面白くない気持ちになってしまう。

 どうせならブラハントのまだ見た事ない一面を見れたら……とそう思っていたのに拍子抜けしてしまっていたのだ。



「カーデン様、怯えたりしないんですね」

「君が生み出したものは私を害する事がないだろう」

「……はいはい。そうですね」



 何だか恥ずかしいことを言われたので、セシリーンはごまかすように軽口をたたくのであった。


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