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夢渡り令嬢と腹黒宰相の出会い ②

 街に侍女と護衛と共に顔を出すセシリーン。





「セシリーちゃん、こんにちは」

「セシリーちゃん、今日はどうする?」




 街のものたちとは、セシリーンはすっかり顔なじみである。ちなみに街の人たちは暗黙の了解として、セシリーンが伯爵家の娘だとは知っているが、街娘として接している。



 それはソドアとセシリーンがそうすることを望んでいるからである。もちろん、セシリーン・ジスアドとして街に下りた時は、かしこまった様子をされるが、今はただの街娘の“セシリー”として此処にいる。




(今日は何処に行こうかしら。男爵の夢の中でお花をプレゼントしていたから、お花屋さん行こうかな?)





 セシリーンにとって、夢渡り魔法で向かった夢の世界というのは、現実にも影響を及ぼすものであった。その年の割にセシリーンが様々なことを知っているのは、他でもない夢の世界でそれを見ているからである。




「お花屋さんにいきましょう!! 花を買いにいくわよ!!」




 伯爵夫人である母親にお花をあげようと意気揚々とセシリーンは歩き出す。




 通常、伯爵家ほどの上位の貴族は自ら買い物に出かけない。基本的に商会の方から屋敷に来てもらい、買い物を済ませるものである。だからこそ貴族令嬢というのは、お金というものを見た事がないものが多い。



 ――しかしセシリーンは普通の令嬢とは異なるので、こうして買い物も自分の手で行っている。とはいえ、少し変わった令嬢であろうともセシリーンは貴族令嬢であり、平民からしてみれば十分に箱入り令嬢であろうが。




 花屋に赴いたセシリーンは、ご機嫌な様子で店内を見て回っている。




 ジスアド伯爵領は花の栽培が盛んな街である。元々、開拓される前からこの土地には様々な花が咲き誇っており、綺麗な自然の花畑は保存地区に指定されており、ジスアド伯爵家によって代々守られてきている。

 自然豊かな場所というのは、精霊が住まう土地とされているのもあり、精霊信仰の深いこのトートイズ王国では自然を保護することは王侯貴族に義務付けられている。




 さて、そういう伯爵領であるためこの場所には花屋というものが多い。ジスアド伯爵領名物の花祭りではそれはもう美しい花々で町中は飾り付けられるものである。

 セシリーンもこのジスアド伯爵領で生まれ育った身として、花というものが好きである。





「今日のお勧めの花を教えてくれる?」

「セシリーちゃん、ようこそ」




 その花屋の店員も当然、セシリーンが伯爵令嬢と知っているが、街娘風のセシリーンを見て、いつものようにセシリーちゃんと呼び掛けていた。




「そうね。今日のお勧めの花はこちらよ」

「まぁ、綺麗な赤だわ!! 私、この花好きだわ」



 お花を勧められて、セシリーンは嬉しそうに微笑んでいた。

 そして勧められるがままにその赤色の花弁の花を花束にしてもらって購入する。




(お母様に似合うお花を手に入れることが出来て嬉しいわ!!)



 セシリーンは花束を手に入れることが出来てご機嫌であった。にこにこと笑う様子を、街の人々は嬉しそうに見ている。



 思わずご機嫌でスキップまでしそうになっていて、侍女に止められるまでがセットである。そのまま屋敷へと戻ったセシリーンは、ジスアド伯爵夫人の元へと向かう。




「お母様、ただいま戻りましたわ!!」

「あら、セシリーン。また出かけていたのね。着替えもせずにどうしたの?」

「ふふふ、お母様に似合う花束を持ってきたのですわ!! 是非もらってくださいませ!!」

「あらあら、ありがとう。セシリーン」





 お転婆な娘にジスアド伯爵夫人――ケーテ・ジスアドは困ったように、だけど嬉しそうに微笑む。

 ケーテはセシリーンに似た茶色の髪を持つ、美しい女性である。セシリーンは残念ながら顔立ちは父親似で、その美しさを引き継ぐことはなかった。そのことを社交界では残念に思われているが、セシリーン自身は父親に似ていることは嬉しいので気にしてはいない。






 人の夢に魔法で向かい、そして起きている間は元気に動き回る。




 セシリーン・ジスアドの日常はそんな風に過ぎて行っていた。――その日常は永遠と変わることがないと、セシリーンは信じていたのだが、人の日常なんてふとしたきっかけで変化するものである。



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