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夢渡り令嬢と腹黒宰相の危機 ③

 さて、早速、セシリーンは現実世界で目を覚ますと父親であるソドアの元へと向かった。そしてソドアの書斎にある本を読んでいいかと問いかける。

 ソドアはその言葉に驚いたような表情を浮かべていた。





「セシリーンがそんな本を読もうとするなんて珍しいね。どうかしたのかい?」

「カーデン様がこういうのを読むのも楽しいって言ってたから」

「夢渡り魔法でまたカーデン宰相の元へ行っていたんだね。そうだね。こういう知識を身に着けることは良いことだよ。読みやすい本を見繕ってあげよう」

「ありがとう。お父様!!」




 セシリーンが夢の世界でブラハントの元へ行っていることは限られたものしか知らないことである。父親ぐらいにしか話せないことだからこそ、セシリーンはにこにこしながらブラハントと話したことを父親に語っている。




 ソドアはそんなセシリーンを横目に、本棚から幾つかの本を取り出す。

 ソドアは中々の読書家である。実用書をよく読んでいる。その実用書の中でセシリーンが読みやすいものを取り出している。それは比較的イラストなどが多いものである。




「セシリーン、これらはセシリーンでも読みやすいと思うよ」

「ドレスの歴史に、稲作について、世界の料理……うん、私が興味持ちそうなものが多い! 流石、お父様!」

「比較的イラストなども多くて、読みやすくまとめられているものを選んだから読んでみるといい。こういう教養をもっと深めることが出来れば嫁ぎ先も見つけやすいからね」




 早速、セシリーンはソドアから受け取った本を持って自室へとこもった。そして読書に励み始める。文字がおおくてすぐに挫折しそうになったものの、ブラハントの言葉を思い出して読み進めていく。




 時間はかかったものの、興味がある章を読み終える。




 セシリーンが読み終えたのは、ドレスについてのものである。本のすべてを読んだわけではない。それでも一章分読み終えたというのはセシリーンにとってやり切ったと言えることだった。





(ドレスについて沢山知る事が出来たわ! 文章がおおくて読むのを躊躇っていたけれど……こうしてどのデザイナーさんがこういうドレスを作ったかとかそういうのを知れるのは楽しいわね。それにしてもこの方、うちの国出身だったのね……。ある程度の産地の情報は知っているけれど、このことは知らなかったわ。私って結構色んな事を伯爵令嬢として知っているつもりだけれど、それでもまだまだ知らないことが沢山あるんだなぁ。……カーデン様はもっと色んなことをきっと知っているんだよね)






 セシリーンは本を抱きかかえてベッドに横になり、そんなことを思考していた。


 ――また次に夢の中で会った時には、ブラハントに実用書を読み始めたことを報告しようとセシリーンは微笑むのであった。












 王太子を目覚めさせても、その報酬をもらったとしても――セシリーンの日常は変わらない。ただ社交界に参加しながら、結婚相手を探していく。

 セシリーンは、王太子であるドバイデンを目覚めさせることが出来、その成果として結婚相手を見繕う事も出来るとソドア経由で聞いていた。





 ……けれど、セシリーンはそれには頷かなかった。ドバイデンの紹介で結婚相手を決めた方が貴族としては良いだろう。ただセシリーンは、今は紹介を頼む気持ちにはなっていなかった。




 いつでも紹介してほしい時に声をかけてほしいというのを伝えられている。




 セシリーンはその日も社交界に参加していた。友人たちと会話を交わしながら、時折、婚約者のいない貴族子息と和やかに会話を交わす。セシリーン・ジスアドという令嬢を結婚相手として見ている子息もそれなりにいるものである。




 セシリーンに対して婚約を申し込む手紙もそれなりに来ているらしい。……とはいえ、セシリーンはひとまずそれを保留にしている。

 ソドアはセシリーンの「王太子殿下が危険な目に遭った犯人も分かっていない状況だから、一旦、落ち着きたい」という言葉に頷いてくれたのだ。なので今シーズンの社交界はのんびりと参加することを決めていた。





 そうとなればセシリーンも大分、落ち着いて社交界に参加出来ていた。

 今回、結婚相手を急いで探さなくても問題はないというその気持ちがセシリーンを穏やかな気持ちにさせていた。






 さて、セシリーンはそう言う軽い気持ちで社交界に今シーズンは参加していた。





 ある社交界の会場でのことである。

 セシリーンは、一度パーティー会場の外――その会場の踊り場に出て一息をついていた。社交界というのは疲れるもので、時々息抜きがしたくなってしまうのだ。




 月明りの下で、グラスを片手にのんびりと過ごすのは中々楽しいものであった。

 踊り場には、時々一息を吐くためにパーティーを抜け出したものや、逢引をしている男女などの姿が時々見かけられる。




 セシリーンはそんな人たちを横目に、ふぅと息を吐く。

 そうしていれば、セシリーンは声をかけられた。




「ジスアド伯爵令嬢」

「まぁ、ごきげんよう。どうなさいました?」





 それはセシリーンと社交界の場で何度か話したことがある子爵家の子息である。子爵家の長男であり、子爵家に嫁いでくれる相手を探しているという噂である。



 年はセシリーンと変わらないほどだが、頭の方は少し寂しい。子爵家当主もツルツルの頭なので、遺伝が早速出ているのかもしれない。

 噂では結婚相手を探すためにあらゆるパーティーに参加しているとセシリーンも聞いている。

 そんな子爵に話しかけられて、セシリーンは此処で息抜きをするのは失敗だったかなと内心思う。




「ジスアド伯爵令嬢、貴方はかわいらしい人ですね」

「はい?」



 セシリーンは突然、嘗め回すような視線を受け、そんな言葉を言い放たれて意味が分からないとでもいう風に訝し気な表情で彼を見る。




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