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夢渡り令嬢と腹黒宰相と国家機密 ⑦

 目を覚ました時、セシリーンの耳には騒がしい話し声が聞こえてきていた。

 セシリーンは自分の手を握る存在は誰だろうと、視線をずらして……、それがドバイデンで慌てて手を離した。




「も、申し訳ございません。王太子殿下!!」

「ん? 何を謝ってるんだい? 君は僕を目覚めさせてくれた英雄なんだから、そんな風にかしこまらなくていい」

「いやいや、英雄なんかじゃないです!」




 起きたばかりでセシリーンの言動は中々怪しかった。平常時であれば不敬だと言われても可笑しくない態度である。そんなセシリーンの様子を見て、ドバイデンは楽しそうに笑っている。

 意外にも古株の侍女もドバイデンが目を覚ましたことが嬉しいのか、注意をすることなどなかった。




「君、落ち着きなさい。ほら、深呼吸をするんだ」

「はい!」



 ブラハントから声をかけられて、セシリーンは大きく深呼吸をする。その様子を父親であるソドアが微笑ましいものを見る目で見ていた。


 自分を落ち着かせてから、セシリーンは改めてベッドに腰かけているドバイデンを見る。





「王太子殿下。改めまして初めまして。私はセシリーン・ジスアドと言います。今回は許可もなく夢の世界に入ってしまい申し訳ございませんでした!」

「それはいい。宰相の頼みで私を目覚めさせてくれたのだろう。私はこんなに自分が眠ってしまっていたとは思ってもいなかった。目覚めさせてくれて感謝する」

「い、いえめっそうもない!」

「ははは、ジスアド嬢は夢の中ではあれだけ勇ましかったのに、現実ではそうでもないのだな」




 ドバイデンはそんなことを言いながら楽しそうに笑っている。



(そういえば夢の中とは言え、王太子殿下に不敬な態度を沢山してしまったわ! 本来なら王太子殿下にそんな姿を見せるわけにはいかないという一面まで見せてしまったわ! 今後の令嬢生活に支障をきたさないといいけど。でもまぁ、王太子殿下も怒ってはなさそうだから大丈夫かな)





 なんて思いながらセシリーンは思わず、固まってしまっている。

 そんなセシリーンに声をかけるのは、ブラハントとソドアである。




「君、王太子殿下に返事をしなさい」

「セシリーン、大丈夫かい?」

「あ、はい! 申し訳ございません。王太子殿下!! 中々みっともない姿を見せてしまいました!」

「大丈夫だよ。君が目を覚まさせてくれなければ、私は眠ったままだっただろうからね。また後日、礼は宰相経由で届けよう。エグデーレを待たせているんだろう」

「はっ、そうでした!!」




 セシリーンは王太子であるドバイデンを目覚めさせることに一生懸命で、お茶会の事をすっかり忘れてしまっていた。

 しかしセシリーンはお茶会を抜け出してきているのだ。




「カーデン様!! 王女殿下たちの所から私が抜け出してどのくらい経ちましたか!? 戻らないと!!」

「少し経っている。もうお茶会は終わっているが、君は準備に時間がかかっているということになっている。エグデーレ殿下とブロット公爵令嬢は残ってくれているが、他は帰っている」

「そうなんですか!! じゃあ戻らないと……。王太子殿下、失礼します!」

「ああ」




 セシリーンは礼をして、王女殿下のドレスを借りて着替えると、そのまま侍女の一人に連れられて、お茶会の会場へと向かう。その最中に、セシリーンは一人の男性とすれ違う。それは王弟殿下である。……その王弟殿下は、一瞬セシリーンに視線を向けたが、その後、すぐに去っていた。

 ただ一瞬だけ見つめられただけなのに、セシリーンは何だか嫌な予感がしてしまった。





(こんなに嫌な予感がするなんて……あの人には何かあるのだろうか。私の予感って結構あたるからなぁ。……ちょっとカーデン様に言っておいて、それから夢を見に行けたら見に行く?)



 セシリーンはそんなことを考えながら、お茶会の会場へと向かうのであった。




「お待たせして申し訳ございませんでした!!」

「ふふ、よろしくてよ。本日はありがとう。セシリーン様、そのドレスとても似合っているわ」

「……本当に今回はありがとうございますわ。セシリーン様」

「い、いえいえ! 王女殿下、このドレスは我が家で洗濯して綺麗にして返しますわ!」

「いえ、そのドレスならあげますわ。今回のお礼もこめてですもの」




 セシリーンは王女と公爵令嬢にそう言われて慌ててしまう。そんなセシリーンのことを、面白そうな顔をして二人は見ている。


 流石にこの場でドバイデンが眠っていて、セシリーンが目覚めさせたということを広めるわけにはいかない。




 その後は、他愛もない会話を三人で交わしてお開きになった。











 王都の別邸に帰宅したセシリーンは、疲れたように息を吐く。





(ああ、王太子殿下の事を目覚めさせれて良かった。でも根本的な問題が解消されたわけではない。ならば、まだまだ終わりじゃない。……正直言って、現実でそういうことが起きていると思うと恐ろしくて仕方がない。それでも私はもう関わってしまっている。この大きな出来事に私はもうすっかり関わってしまっている。それならばもっと関わることがあるのかもしれない)





 セシリーンは、夢の世界で幾らでも色んな経験をしている。それでもそれはあくまで夢の中の出来事だ。

 セシリーンにとって、現実は甘い出来事ばかりではないことだ。それをセシリーンは理解している。だけれども、セシリーンは現実だとしっかり実感できていない部分があったのだろう。セシリーンにとって夢はあくまで夢で、自分自身に関わるものではなかった。



 セシリーンは夢に渡る魔法を使えるとはいえ、普通の令嬢である。――王太子であるドバイデンが、眠りにつかされ、命の危険に瀕していた。

 その事実がセシリーンには重くのしかかる。





(なんだか正直言って、私は……カーデン様からの頼み事と、私が与えた情報で与える影響を甘く見ていてしまっていたのかもしれない。そういう所が覚悟が足りないのかもしれない)





 セシリーンは、それを実感する。

 自分が今関わっていることは、この国を左右するものなのである。そのことを改めて実感し、恐ろしさも感じていた。




 けれども自分の行動によって、この国に影響を与えるというのはそれはそれで嬉しさも感じている。

 だけどセシリーンが何を思おうとも、既に歯車は動いてしまっている。セシリーンは既にこの大きな問題にかかわっている。





(うん。自分で選んで、私は王太子殿下を助けた。それで王太子殿下を眠らせた存在に目をつけられたとしてもそれは仕方がないこと。私は考えることは得意でないし、そういうのは私の仕事ではないよね。よし、色々考えていても仕方ない。カーデン様はそういう判断が出来る人だから、カーデン様にそのあたりは任せよう。もちろん、何も考えずにただ人形のようにはなりたくないけど!)





 セシリーンは、ブラハント・カーデンという存在のことを信用している。





 それはブラハントの夢に何度も顔を出しているからこそと言えるだろう。セシリーンは、ブラハントの事を分かっていると言えるだろう。夢というのは、その人自身を映す鏡のようなものだ。

 ――だからこそ、セシリーンはブラハント・カーデンという存在が悪い人間ではないと知っている。





(というか後から報酬くれるって言ってたけど、何をくれるんだろう? 今日は疲れたし、のんびり楽しそうな夢だけ見に行こうかな)




 セシリーンは、王城に行き、王城で王太子を目覚めさせることをやって疲れていた。そのためセシリーンは、今日はブラハントの夢には行かずに楽しい夢に遊びに行くことにした。




 その日、セシリーンが見に行った夢の扉は、子供の夢だ。無邪気で、かわいらしい夢。動物の沢山いる夢。その世界は何処までも幻想的で、かわいらしくて、ほのぼのとした気持ちになる。




 この世界は優しいばかりではないけれど、優しい世界というのは確かに存在している。セシリーンは夢の世界で、驚くほどにどす黒い欲望も見てきている。それでもセシリーンが前向きで、いつだって微笑んでいるのはこういう優しい世界を知っているからと言えるだろう。



 そういう優しい世界をセシリーンは愛している。

 穏やかな世界がずっと続くことを望んでいる。

 セシリーンは両親に愛され、守られ――そして生きている。

 その優しい世界を、守る側にセシリーンは足を踏み入れているのだろう。




(――よし、一旦寝よう。考えても仕方がないし、私は私の出来ることをやる!!)



 セシリーンは、そう決意するのであった。



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