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夢渡り令嬢と腹黒宰相と国家機密 ⑥

 そして目の前には……ついこの前まで近づくことさえもできなかったドバイデンの夢の扉がある。その夢の扉には、ドバイデンを眠らせている魔法の影響か黒い何かが巻き付いている。なんとも不気味な扉である。


 その扉に手をかけると、その黒い何かが私の手に絡みついてくることが分かった。




「――ひっ」




 思わず悲鳴をあげてしまうが、此処はセシリーンの力が大きな影響を及ぼす夢の世界。セシリーンが望めば、その黒い何かは引っ込んでくれた。



(はぁー……ドキドキした。まさか、絡みついてくるなんて思ってなかったもの。でもここは現実ではなく、夢の世界。私の力でどうにかなるものなんだもの。大丈夫よ!)



 気合を入れて、セシリーンは黒い何かを振り払いながら扉を開けた。



 扉を開けた先の世界も異質だった。やはりこの場所はその眠らせるための魔法の影響を強く受けているのだろうということがよく分かる。

 その場は、真っ黒である。

 ――黒い何かが、その夢の世界を埋め尽くしている。見ているだけで気持ちが悪くなるようなそれに影響力を与えられているドバイデンはどれだけ辛い思いをしているだろうかと考えただけでセシリーンはぞっとしてしまっていた。





(この黒い空間のどこかに王太子殿下がいる? いつからこの魔法みたいなのをかけられているのか分からないけれど、ずっとこの中に居たらきっと精神が病んでしまう。はやく王太子殿下を助け出さないとっ)




 こんな異常な場所から、ドバイデンの事を助け出すことが出来るのだろうか――そんな不安は当然ある。それでもセシリーンは、心が強い令嬢であった。




(よし。やってみよう。出来ないにしてもなんとか目覚めさせる手がかりは手にしないと!!)




 セシリーンはそう決意して、その不気味な空間を動き始める。



 そのドバイデンの夢の世界は……セシリーンが今まで夢の世界で見てきた世界とはがらりと雰囲気が違った。その世界は人っ子一人見当たらない。誰かの夢の世界というのは、少なからず、その人にとって関係する人の姿や生き物の姿が見られるものである。だけれども、この不気味な世界にはそれらが見られない。



 存在するものを阻害するような、黒い何かがうごめいている。



 じっとその黒い何かをセシリーンが見ていれば、驚くべきことが起こった。その黒い何かが、セシリーンに襲い掛かってきたのである!

 セシリーンは思わず悲鳴をあげながらも、自分と黒い何かの前に透明な扉を生み出して、それが自分に近づくのを阻害する。




(うわ……怖かった。なにこれ。全部なんか意志みたいなのとかあるの?? 不思議すぎるんだけど。あと怖すぎる)




 セシリーンはドキドキしながら、その手を胸に合わせて自分を落ち着かせる。



 それからセシリーンは、ドバイデンを探すためにドバイデンの夢の世界を徘徊する。夢の世界というのは、現実とは違う世界なので、その面積も人によって違う。無限に広がっていくとも言えるかもしれない。



 ただの夢であるのならば、観光気分で楽しみながら人の夢を徘徊することは出来るのだが、こんな黒いもやのようなものが徘徊しているような場所を動き回ることは恐ろしいことである。



 セシリーンははやくドバイデンを見つけてしまいたいと思っていた。




「あー、もう!! うっとおしい!!」




 セシリーンにまとわりついてくる黒いもやをセシリーンは振り払う想像をする。そうすれば、セシリーンの周りの黒いモヤはセシリーンの周りから黒いモヤがなくなっていく。



(お、結構どうにかできそう? 良かった良かった)




 セシリーンはそんなことを考えながらその黒いモヤの世界を動いていく。




 この場所、黒いモヤに覆われているけれども王都らしい。王太子というのだから王城にいるのではないかとセシリーンは王城に侵入した。夢の世界とはいえ、王城の中に無断で入るのにはセシリーンはドキドキしてしまっていた。



(……夢の世界だし、問題なし。あとこれはカーデン様の許可を得てやっていることなんだから咎められることもないはず……)



 そんなことを考えてセシリーンはドキドキしながら王城の中に入った。王城の中は特に黒いモヤが沢山あってセシリーンは驚いてしまう。



「――王太子殿下! いらっしゃいますか?」



 セシリーンは声をかけながら、人っ子一人いないその場所を移動していく。



 セシリーンは何だか、肝試しをしているような気持ちになる。平民の中には、肝試しだっていって廃墟を探索したりする遊びがあるって街の人たちが言っていたのをセシリーンは知っていた。それを決行した子供たちはセシリーンと同じような気持ちを抱いたのだろうかなどとセシリーンは考えていた。



 そんなことを考えながら移動していくと、不思議な場所を発見した。




 その場所は、黒いモヤが一層に濃い。それでいて、何かに覆われている。その場所が怪しいとセシリーンは近づいた。その周りを覆う黒いモヤはセシリーンに襲い掛かるが、夢の中ではなんだって出来るセシリーンにとっては何の障害でもない。

 その結界のようなものの中に――ドバイデン・トートイズの姿があった。



 その覆われた中では、普通の日常が繰り広げられていた。ドバイデンはその中にいることを何の疑問にも思っていない様子であった。




(そういう魔法なのかも。そういうずっとここにいいんだと思わせる魔法。それをかけられているからこそ、王太子殿下はあの場所を疑問に思っていない?)



 なら、この不思議な空間から抜け出すことが出来るのならばドバイデンは目覚められるかもしれないとセシリーンは考えた。



(どうやって王太子殿下に此処が夢の世界で、疑問に思わなければならない場所だと分からせるには私には何が出来る?)




 セシリーンは思考し続ける。どのようにしたらいいのだろうかと、それだけを。

 まずはセシリーンは、そのドバイデンの周りを覆っている透明な幕に向かって石を投げてみる。音は鳴ったけれども、それだけだった。中で穏やかに暮らしているドバイデンは、その音には気づかない。




(……んー。このくらいじゃ気づかないか。じゃあどうするべき? どんなふうにしたらこの目の前の人を目覚めさせるためには……これ、あれだよね。目の前の透明な覆っているものをどうにかできればいいはず)



 セシリーンは思考する。



 此処が他でもない夢の世界だからこそ、セシリーン・ジスアドはなんだって出来る。

 これから行おうとしていることをセシリーンはやってみたことはない。だけれども、セシリーンは出来ると言う強い意志を持って動き出した。



 セシリーンは、想像する。



 そしてその覆いを壊すための武器を生み出す。現実の世界では、セシリーンはそんなものを生み出すことは出来ない。しかしここはセシリーンの独壇場――夢の世界であるからこそ、セシリーンはどうにでも出来る。



 いくつもの剣が生み出される。それはセシリーンの想像により生み出されたものである。セシリーンは真っ当な貴族令嬢なので武器など現実で見た事があるわけではない。それでもセシリーンは本の世界でそういう武器を見たことがある。



 あとはただの想像である。――セシリーンの想像によって、生み出された鋭利なそれは、ドバイデンを夢の世界に閉じ込める幕を貫こうとする。それでもそれは貫けない。



 セシリーンは、自分にはもしかしたらこんなこと出来ないのではないかと不安になる。だけど――やらなければならないと自分を奮い立たせた。



(もっと――もっともっとどうにかしないと。これを貫けるけだけのもの)



 セシリーンがそう考えている間もその空間に存在している黒いモヤはセシリーンに襲い掛かっている。セシリーンはそれを払いのけながら、想像をし続ける。




 想像したものが具現化し、何度も何度もドバイデンを覆っているその透明な幕を攻撃していき――、そしてようやくその幕に小さな穴が開く。



 セシリーンはその幕に手を突っ込む。そしてそのままそれを無理やり広げようとする。中々広がらないが、少しずつ広げることが出来ている。あとはドバイデンからしてみると急に空から手が生えてきたようなものらしく、ドバイデンの驚いた声が聞こえた。

 セシリーンは、その声を勝機と見た。




「王太子殿下! そこは現実ではありません!! 現実の貴方は眠っています!! 貴方はこのままだと死んでしまいます!! こんなことを突然言って信じてもらえないかもしれませんが!! 此処は現実じゃないです!」



 一生懸命声をあげれば、ドバイデンははっとした顔をしている。



 ドバイデンの意識が変わり、此処が現実ではないというのが分かったからだろうか。ドバイデンは透明な幕の外を見れるようになったらしい。黒いモヤが蔓延っているこの夢の世界を見て、この場所が正常な場所ではないと気づくのは当然であろう。




「君! 状況は分からないが、私はどうしたらいい!?」

「えっと、多分、王太子殿下の意識の問題でそこから出れると思うんです! 此処は夢の世界だから!! そこから出たいって

、この幕を壊したいって、それを強く願ってください! 私もこの幕を壊すように行動します!!」



 セシリーンはそう言って叫ぶ。



 此処は現実ではなく、あくまで夢の世界。ドバイデンの意識の作りだした空間である。だからこそ、そういう想像の力でどうにだって出来る。セシリーンは夢渡り魔法を使ってきたからこそ、それが分かる。

 一番重要なのはこの状況を打ち破りたいという思いを抱く事。



 ――ドバイデンは、この訳の分からない状況でも適応していく意志を持ち合わせていた。

 ドバイデンの意志が具現化して内側から、ガラガラと透明な幕が崩れ落ちていく。それと同時に、セシリーンはドバイデンの手を掴んだ。現実でこんなことをしてしまえばただの不敬な行為だろうが、此処は夢の中だ。それにこんな状況で四の五のいってられない。




「王太子殿下!! 行きますよ!!」



 力強く引っ張る。

 もちろん、現実のセシリーンにはそんな力強さはないが、此処は夢の世界なのでセシリーンはある意味無敵である。


 黒い何かが、セシリーンとドバイデンに迫ってくる。それはドバイデンを先ほどの状態へと戻そうと絡みつこうとする。




「ああ、もう邪魔!!」



 セシリーンは、その黒いモヤを具現化させた剣で振り払う。後ろから迫りくる黒いモヤはドバイデンをこのまま弱らせることを諦めない。そのしつこさにセシリーンはうんざりしてしまう。でもだからといってドバイデンのことをこんな場所に置いて行くわけにもいかない。



「失礼します!」

「え」




 セシリーンは、靴をローラー式のものへと変えて、そしてドバイデンをお姫様抱っこで抱えて一気に駆けていく。




 黒いモヤをさけ、撃退し、そして――空の上の方にある扉を目に止める。

 夢の世界から夢の主を連れ出したことはない。だからこそ、これは一種の賭けである。




 セシリーンは飛んだ。

 ドバイデンをお姫様抱っこしたまま、上昇し、扉を抜けた。それと同時に、ドバイデンの姿はなくなる。ドバイデンの夢の扉は、その場から消えていた。



「はぁ……はぁ……王太子殿下、目覚めたかな? 私も、起きよう……」



 セシリーンはそして、目を覚ます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 王子(成人男性)を姫抱っこしつつローラースケートで疾走するセシリーンちゃん最高!!(≧∀≦) もっといろんな本を読んだりして創造力を鍛えれば、例えば箒や絨毯に乗ったり、隕石や矢の雨を降ら…
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