夢渡り令嬢と腹黒宰相と国家機密 ④
「セシリーン、カーデン宰相からの手紙に私宛の物も同封されていてね、中身を読んだのだが……王城にご招待されているが、大丈夫かい?」
「はい! 大丈夫ですわ。お父様。ご心配かけてしまってすみません」
夢の中でセシリーンとブラハントが話してしばらく経ってから、ソドアはブラハントからの手紙を受け取っていた。
セシリーンは、ブラハントに頼まれている王太子の件をソドアには既に伝えてある。とはいえ、王城に招待されているのをソドアが心配するのも当然であった。
ソドアは娘が此処で嫌がるのであれば、ブラハントに王城にセシリーンがいけないことを伝えようと思っていた。だけれどもセシリーンは、王城に行く気満々であった。その様子を見てソドアは、小さくため息を吐く。
「……セシリーン、父親としてはセシリーンに無茶な真似はしてほしくないんだ」
「それでも私がやらなきゃなりませんもの! それに私もトートイズ王国の貴族として問題を解決できるならしたいですもの!」
「私もこの国の貴族としては、解決してもらえるなら解決してもらいたいと思っている。しかしセシリーンが危険な目に遭うと思うと……」
「お父様、大丈夫ですわ! カーデン様も私に危険がないようにしてくださるって言ってましたし、ちょっといって解決してくるだけですもの。私が夢渡り魔法を使えることはカーデン様やお父様たちしか知りません。なら私が王城に行ったということで少し目立ったとしても、王太子殿下を目覚めさせたとは思われないでしょう」
セシリーンは、父親の目を真っ直ぐに見据えてそう言い切った。相変わらず自分がやると決めたことを曲げない強さがセシリーンにはあった。
その頑固なところは、セシリーンのよさであり、悪さであろう。
ソドアもセシリーンのそういう自分を曲げない強さを好ましく思っている。けれどもそれで危険な目に遭ってしまうことを選ぶことを反対したい気持ちも当然ある。
――それでもセシリーン・ジスアドは、止まらない。
「……いいよ。セシリーン、王城に連れて行こう。セシリーンは、王女殿下に誘われてお茶会に参加するという名目になっている。そこにはセシリーン以外にも数名の令嬢が呼ばれることになっている。……王女殿下とセシリーンはそこまで親しいわけでもないから、目立ちはするだろう。その中でお茶会を抜け出して王太子殿下の元へ向かうことになっているが、大丈夫か?」
「王女殿下と公爵令嬢がいるお茶会とか、正直ハラハラしますけど! でも私やるとは決めたのでやりきりますわ!」
王女殿下たちのいるお茶会に呼ばれたという名目で、王城に向かうというのはセシリーンにとって恐ろしいことであった。
それでもそう言い切ったセシリーンは、王城へと連れていかれることになる。
セシリーンが王城にお呼ばれしたということに、ケーテは「まぁまぁ、セシリーンが王女殿下に呼ばれるなんてすばらしいことだわ。でも突然なんて心配だわ。気を付けるのよ」とセシリーンに声をかけたものである。
ケーテはセシリーンから詳しい情報をもらっているわけでも、事情を聞いているわけでもない。ただ推測してそんな心配の声をかけてくる。
穏やかに微笑みながら、そういう察しがよくてセシリーンを心配してくれるケーテにセシリーンは「もちろんですわ」と笑顔で答えるのだった。
王女殿下から誘われたお茶会に向かう、ということでセシリーンは青いドレスを身に纏い、王城へと馬車で向かっていた。
「……はぁ、何だかドキドキしますわ! お父様! なにかあったらお父様も助けてくださいね」
「ああ。もちろんだとも。カーデン宰相がどうにかしてくれるだろうが……、それでも危険はあるかもしれないので、気をつけるんだよ」
「もちろん!」
セシリーンは、自信満々にそう言うのであった。
それからしばらく馬車に揺られて、王城へとたどり着いた。招待状を見せて、王城へと入る。
セシリーンは、王城には本当に限られた時しか来ない。だからこそ、緊張していた。
(王女殿下たちと一緒にお茶会に参加して、そこから抜け出して王太子殿下が寝ている元に行く。カーデン様がなんとかそういう手立てもたててくれているっていう事だけど、上手くできるかしら。そういえば、王女殿下と公爵令嬢のイーシス様には伝えてあるのよね。私の魔法のことは言っていないにしても、私が解決できる目途があるということを伝えてあるみたいなことを手紙に書いてあったし)
ソドアは、セシリーンをお茶会の場まで連れて行くとそのまま仕事に向かっていった。流石に令嬢たちのお茶会にソドアはついていけないので、ソドアはドバイデンの元へと行く時に呼ばれるらしい。
それまでの間、セシリーンは一人でどうにかしなければならない。
「――セシリーン・ジスアドです。本日はお招きいただきありがとうございます」
お茶会の場は、王城の一角にある庭園である。その庭園には、花々が咲き誇っている。赤、青、黄、紫などの色とりどりの花。その花を見ているだけで心が穏やかな気持ちになることは間違いないだろう。その庭園の植物は王宮庭師により整備されている。
セシリーンはその美しい光景に思わずほぉと息を漏らした。
「セシリーン様、よろしくお願いしますわ」
そう言って微笑むのは、この国の王女殿下であるエグデーレ・トートイズである。
キラキラと光り輝く金色の髪に、金色の瞳。美しい王女様がそこにいる。セシリーンは、王族と一緒にお茶会をするというのにドキドキしてしまう。
「お席にお座りになって」
そう声をかけたのは、ドバイデン・トートイズの婚約者にほぼ確定していると噂されている公爵令嬢のイーシス・ブロットである。
彼女はエグデーレとはまた雰囲気が異なる。茶色の髪に、赤色の瞳。その瞳は吊り上がっていて、少しだけきつそうなオーラを纏っている。イーシスはとても女性らしい身体付きをしている。それに少しだけセシリーンはうらやましくなった。
目の前にいるその人たちと穏やかに会話を交わすのは、なんだか緊張してしまっていた。友人である令嬢たちと会話を交わすのとはまた違った緊張感がある。
「セシリーン様は、どういったご趣味が?」
「そうですね……私は本を読むのが好きですわ」
間違ってはない。セシリーンは身体を動かしたり、遊びに行くことの方が好きだが、本を読むことも好きである。
王女と公爵令嬢はセシリーンが王城にやってきた目的を把握しているだろう。でもそれとお茶会はまた別で、出来る限り不興を買うことはなく過ごしていきたいと思っているのである。
「本と言えば――」
そうして小説の話で、お茶会の場は花が咲く。
そこで敢えて、セシリーンに王女と公爵令嬢は距離を縮めてきた。
「セシリーン様は面白い方ね」
そう言って微笑むエグデーレの言葉は、本心なのかはセシリーンには判断がつかなかった。
そんな中でイーシスが「あ」と声をあげる。イーシスの飲んでいたカップが落ちていき、その中に入っていた紅茶がセシリーンのドレスにかかってしまう。
「申し訳ございませんわ。セシリーン様のドレスに紅茶がかかってしまいましたわ」
「セシリーン様、その状態のままお茶会を続けられないでしょう? 私の代わりのドレスに着替えませんこと?」
「え、エグデーレ殿下のドレスをですか!? そんな、恐れ多い……」
「いいんですの。私が招待をした場ですもの。セシリーン様にも快く帰ってほしいのですわ。マーテ! セシリーン様を別室へ」
「かしこまりました」
エグデーレの言葉にマーテと呼ばれた侍女が返事を返す。そしてセシリーンは、お茶会の場から連れ出された。
――そして連れ出された先で、セシリーンを待っていたのはブラハントであった。




