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夢渡り令嬢と腹黒宰相と国家機密 ②

「……ちょっと予想外だった」



 セシリーンは、夢から目を覚まして、少しだけ顔を青くしてベッドの上に座り込み、呟く。

 ブラハントから語られた次の依頼は、確かに国家機密事項だった。もしかしたらセシリーンの父親でさえも、知らない情報かもしれない。



(あ、というかお父様には話していいか聞いておけばよかった!! カーデン様に聞くのを忘れていたわ)



 なにか困った事があれば、父親に相談をするのが一番の正解だとセシリーンは思っている。

 だけれど今回は、父親に話していいか聞きそびれてしまったので、自分の中にその依頼を留めておくことにする。



「……それにしても、出来るかしら」



 小さく呟くセシリーン。



 ――セシリーンが頼まれたことは、このトートイズ王国の王太子であるドバイデン・トートイズ殿下の目を覚まさせることである。

 どういうことかと言えば、ドバイデンは、魔法か呪いかの不思議な力を受けて、眠りについてしまっているとのことだった。



 それを目を覚まさせてほしいと頼まれたのだ。




(カーデン様が私にそういうことを頼んでくれたというのは、私の事を少なからず頼んでも問題がないと思ってくれていた証だろう。そう思うと嬉しいけれど……こんな国を揺るがすことを私は解消できるのだろうか)



 王太子が眠りにつき、目を覚まさないというのは国を揺るがす事態である。

 王太子が目を覚まさなければ大変なことになることぐらい、セシリーンにもよく分かっている。




 だからこそ責任が大きい。普通の貴族の令嬢として生きてきたセシリーンは、そういう責任を負う仕事をやったことがない。



 だからこそ、話を聞いてからその責任の重さに緊張してしまっている。



(――うん。とりあえず王太子殿下の夢の扉を探そう。そこから無理やり起きてもらうことが出来れば王太子殿下も目を覚ますはず。それでも難しかったらカーデン様に相談をしよう)



 まずは夢の世界で王太子殿下の扉を探すこと。それを第一に行う必要がある。

 セシリーンはそう考えて、その日から夢の世界を徘徊することになった。












「……んー」

「セシリーン、何か悩みがあるのかしら?」

「お母様、大丈夫ですわ。何かあったらお母様に相談しますから」



 セシリーンの王太子殿下の夢の扉を探すというのは難儀していた。




 王太子という立場の存在を見つけることは簡単かと思っていたがまず難しかった。王族だからと言って、煌びやかで個性的な夢だと勝手に思い込んでいたのだが、そういうわけでもなかったらしい。





(王太子殿下の夢の扉はどんなものなのかしら。流石に明らかに権力者っぽい夢には私も進んで入ろうとはしてこなかったのだけど……、王太子殿下の夢もそういう夢だと思い込んでいたけれど違ったものね)




 権力者の夢というのは、ある意味分かりやすい。その人自身の個性が溢れているのが夢の扉だ。




 だけれども、セシリーンはドバイデンの夢の扉を見つけられないでいた。




 ブラハントからの依頼で、特定の相手の扉を探すことが出来るようになっていた。まだまだ特定の誰かの扉を探すというのは何度かしかやったことがないから慣れていないとはいえ、これだけ探しても欠片も見つからないのは不思議だった。





 セシリーンは、ドバイデンの夢の扉に向かうためにドバイデンの情報をブラハントからもらっていた。それはただの伯爵令嬢であるセシリーンが手に入れるべきではない個人情報もあり、今度現実で対面した時に誓約魔法をかけられることがセシリーンには決められている。




(……王太子殿下の個人情報は他にはもらしてしまわないようにしないと。こういう情報って秘密だって言われると少し言ってしまいそうになるもの。それにしてもどうして、こんなに欠片も見つからないのだろう?)




 セシリーンは、社交界のシーズンだというのにドバイデンの夢の扉を一生懸命探していて、社交界に身が入っていなかった。

 王太子が魔法により眠ってしまっていて、自分の魔法で目を覚まさせることが出来るかもしれないというのが分かったからこそ、セシリーンはどうにかしたいと思っていた。

 結婚相手を探すというのは、年頃の貴族令嬢としては重要なことである。そのことはセシリーンも十分に理解している。それでも恋をしたこともないセシリーンは、社交界で結婚相手を探すよりも、ドバイデンの夢の扉を探すことに熱中していたのだ。





 その日もセシリーンは夢の世界を動き回っていた。これが王太子の夢の扉かな? とそう思いながら入った扉は残念ながら違う人の扉であった。




(こうして中々見つからないのは、その眠らせるための魔法が私の夢渡り魔法を妨害しているというその可能性もある? もっと私が行けないように妨害していることがあるかもしれない……ということをもっと気を付けて魔力を練ってみる?)





 セシリーンは、自分の夢渡り魔法が邪魔されている可能性を思い至って、魔力を練る。中々見つからないものを見つけることをイメージする。




 この夢の世界は、セシリーンの魔法により生み出された空間だ。その空間だからこそ、その空間は自由である。





 夢の世界で、セシリーンは目を閉じる。

 意識する。この空間から、ドバイデンの夢の扉を見つけることを。その先に導かせることを。魔力を込めて、意識して、ブラハントからもらったドバイデンの事を考え続ける。





 ――セシリーンは、毎日、毎日、そのことを行い続けた。




 なんとか夢の扉に近づけそうな気配がしても、やはり何らかのものに邪魔されているのがセシリーンには分かった。

 それだけ強力な魔法をドバイデンは、かけられていると言えるだろう。セシリーンはその気配を感じて、その夢の扉を見ようとする。でも見つけられない。





(……やっぱり邪魔されている感覚があるよね。私は夢渡り魔法をちゃんと使い始めたのは、カーデン様に依頼をされてからだし、それまで私は夢渡り魔法をちゃんと使った事がなかった。だからこそ王太子殿下に魔法をかけている存在に押し負けているのかもしれない。……でも嫌だ。私は負けたくはないし、しっかり頼まれたことはやり遂げたい)




 セシリーンは、負けず嫌いなので、そう思っている。

 何度も何度も挑戦して、ドバイデンの夢の扉を意識して――そしてセシリーンは、その扉を見つけた。




 だけれども――、



「うそっ、それっぽいのあるのに! 近づけない!?」



 見つけた夢の扉は、近づこうにも近づけなかった。寧ろセシリーンが近づけば近づくほど離れていくという習性があった。



 おそらくそれはドバイデンにかけられた魔法が原因だろうということがセシリーンにも分かった。



(……よっぽど王太子殿下に魔法をかけた存在は、王太子殿下に目を覚まさせたくないのでしょうね。だからこそ私のような魔法を使えるものにだって目覚めさせないためにこれだけ強力な魔法をかけている)




 セシリーンは、そのことに思い立って怖ろしい気持ちになった。



 王太子であるドバイデンを目覚めさせずに、このまま衰弱させようと考えている悪意がそこにはある。セシリーンはそういう悪意に遭遇したことはない。今まで両親たちに守られて、のほほんと生きてきた貴族令嬢であるセシリーンは、その現実が恐ろしかった。




(トートイズ王国はおおむね平和で、陛下がちゃんとおさめてくれている国だ。けれどもそういう国だったとしても、そういう国にとっての闇は少なからずあるということなんだろう。私が知らないだけで、どれだけ平和な国に見えてもそういうことがある)




 セシリーンは、夢渡り魔法を行使している関係で、そういう後ろ暗いことを他の令嬢よりも把握している。それでも現実のセシリーンは、周りから守られている何処にでもいる令嬢なのだ。

 だからこそ現実でそういうことが起こっている事実に恐ろしさを感じていた。



(――恐ろしいし、怖いけれど……、でもどうにかしたい)



 恐ろしさも怖さも、それは確かにセシリーンの心の中にある。それでもセシリーンはなんとかしたいと思っている。

 だけど、どれだけ近づこうとしてもその扉には近づけない。



(……どうしたらいいかな。夢の扉にさえ近づけないと、あの綺麗だけれども、魔法をかけられている影響か禍々しいオーラのあるあの扉から王太子殿下を連れ出せない)




 セシリーンは、そう考えて「あ」と小さく呟く。どうにかしてあの扉に近づくための方法をセシリーンは思いついたのだ。





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