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夢渡り令嬢と腹黒宰相の共謀 ⑧

「ふんふんふ~♪」





 鼻歌を歌いながらセシリーンは、楽しそうに王都を歩いている。当然、その周りには護衛や侍女もいる。



 セシリーン・ジスアドは楽しそうに王都をうろうろとしている。

 セシリーンがこれだけご機嫌な様子なのは、ブラハントから受け取った報酬が思ったより高額だったからである。セシリーンは貴族の令嬢なので、平民よりもお金は持っている。とはいえ、それはあくまでジスアド伯爵家としてのものである。




 ソドアの稼いだものでしかなく、自分自身でお金を稼ぐという経験はセシリーンにも初めてだ。セシリーン自身は伯爵が許可をするのならば平民の中に混ざって働くことは経験したいとは思っていたが、貴族令嬢としてそれは許可されなかった。




 セシリーンは、夢の世界の中で平民の中で働いたり、たまにしたことはある。少しだけの経験だが、それもセシリーンにとっては良い経験であった。

 だけどそれは働いたと言えるほどの時間でもないし、現実に給与として返還されるものではない。




(……何だか自分の働きでお金を稼げるって楽しいかも。貴族令嬢としてそういうことを考えているのはおかしいかもだけど、でも夢の世界で沢山色んな人を見たり、現実でこうして平民たちの暮らしを見ていると、そういう暮らしもいいなってなる)




 セシリーンは、一般的な貴族の令嬢よりも様々なことを知っている。それは夢渡り魔法というセシリーンの固有魔法があるからだ。




 今回も夢渡り魔法で情報収集をした報酬をもらい、ソドアは商人を呼ぼうかと言ってくれたのだが……、セシリーンは自分で街に行きたいといったためこうして街に出ている。

 伯爵令嬢にしてはセシリーンは、行動的で、庶民的である。

 セシリーンは、自分の稼いだお金でパンを買い、頬張る。




「ん~美味しい!!」



 護衛がちぎって毒味をした後にだが、セシリーンはパンを口に含み幸せそうな顔をする。



 王都にお忍びで出かけることは、中々許可されないことなのだが、今回はセシリーンが宰相の依頼を無事にこなしたご褒美ということで許可された。




(夢の中ではなく、現実でこうして王都を移動できるなんて、本当に楽しいわ。流石にジスアド伯爵家の領内の街ではないから、それほど融通がきくわけではないけれどそれでも楽しいものは楽しい!)




 セシリーンにとって夢の世界も、現実世界と同じほどに鮮明に覚えているものであるが、それでも夢の中で経験したことは所詮、夢の中で経験しているものでしかない。こうして現実で王都に来れることが嬉しかった。



 セシリーンについている侍女や護衛たちは、心から楽しそうな様子のセシリーンをほほえましいものを見る目で見ている。

 ジスアド伯爵家につかえるものたちにとって、セシリーンは可愛いお嬢様なのである。





「じゃあ、次はあっちにいきましょう!」



 セシリーンはパンを食べた後、意気揚々とそう言って歩き始めた。



 王都の街は、人に溢れている。社交界の季節というのもあり、外部から来たであろう貴族の使いや商人なども多くみられる。王都は国の中心地であるというのもあり、外からの来訪者の数も多い。




 セシリーンは、ブラハントの夢の世界で見かけた王都を思い浮かべながら、確か此処にこういうお店があったなどと考えながら動いている。



(確かカーデン様の夢の世界だとこっちに――、あ、本当にあった! 流石カーデン様だわ。夢の世界の記憶も現実と一寸も違わないだなんて)



 夢の世界での現実にも存在する場所というのは、どちらかというと現実と異なる位置関係の事が多い。夢の世界はあくまで夢の世界だから当然である。だけどブラハントはよっぽど真面目なのか夢の世界であっても、現実とほぼ変わらない位置関係である。そういう所にもその人の性格が現れるものである。




 セシリーンは、ブラハントの夢に何度か訪れているため、それが今、役に立っている。

 セシリーンが向かったのは、平民向けの服屋である。貴族の令嬢がほぼ訪れることがないそこに足を踏み入れ、お忍び用の服を自分で購入していく。お店の店員たちはセシリーンが貴族であることは勘づいているようだが、それを口にすることはない。



(やっぱり王都の服屋だと平民の服でもジスアド伯爵領のものよりも流行に乗ったものが多いというか、王都は流行の中心なのだということがよくわかるわね)



 隣国から流れて生きている絹製品。それは王侯貴族たちを優先して流通されているが、王都だと平民向けにも流通しているようだ。セシリーンは少し高額だったが、その絹製品のバックや服を購入した。




「良いものを購入することが出来たわ」



 にこにことセシリーンは笑う。そして次に気になるものを見つけてセシリーンは速足で歩きだして、



「あれ?」



 人込みにまぎれてしまったというのもあり、侍女と護衛とはぐれてしまった。



(……あら、皆とはぐれてしまったわ。どうしましょう。大人しく待っていたほうがいいかしら。それともジスアド伯爵家の王都の別邸に先に帰るべき? いや、でもそうするとそこで王都探索が終わってしまうもの! 私は王都探索をまだまだ終わらせたくはない。次に王都探索を出来る機会がいつ訪れるか分からないもの!)




 このまま王都にある伯爵家の別邸に向かうことも考えたセシリーンだが、そうやって戻ってしまえば王都探索が終わってしまう。セシリーンにとって、またとない機会なので、王都探索をもっと楽しみたかった。


 幸いにもというか、セシリーン自身はお金を持っている。貴族はお忍びだろうとも、侍女などにお金を持たせて支払わせることが多いものである。セシリーンもこういう場でなければ侍女がお金を持っていた。





(……ふふ、一人でお忍びをするのもいいことよね。ちゃんと危険な目には遭わないようにしないといけないけれど)



 ただ貴族の令嬢が一人で徘徊することは危険なことはセシリーンも理解している。なので、セシリーンは周りを警戒しながら買い物をすることにする。




(こういう人込みだとスリもいると聞くもの。私は自分が初めて稼いだお金を奪われるわけにもいかないわ!)




 そう決意したセシリーンは、侍女と護衛を探すこともせずに、自由気ままにぶらぶらし始めた。一応、近くにいた警備の騎士には、もし自分を探している人がいたら伝言を頼んでほしいと告げてはいる。




 そしてセシリーンは、一人で王都を探索している。




 セシリーンはぶらぶらと王都を移動できるのが楽しくて仕方がない。楽しそうに王都を移動するセシリーンを見て、店主たちも微笑ましい目を向けている。

 ただ王都は本当に人の数が多い。幾ら騎士たちが王都を見守っていても、良い人が比較的に多かったとしても――そういう善人ばかりではないものである。




 王都を探索しているセシリーンは、明らかに良い所のお嬢様である。貴族令嬢として生きているセシリーンは、その所作からして平民ではない。それを見てセシリーンに近づくものがいた。



「お嬢ちゃん」

「はい?」



 丁度、セシリーンが比較的人気がない場所に差し掛かった時である。後ろから声をかけられた。セシリーンは振り返って、顔色を悪くする。



 そこにいたのは、明らかにガラの悪い男たちである。しかも三人もいる。嫌な笑みを浮かべている男たちにセシリーンは、周りを見る。運が悪く警備の騎士たちはいない。こちらを見ている何人かは関わりたくないと思っているのか見て見ぬふりをしているものもいる。この男たちがこうして女性に話しかけるのは日常茶飯事なのかもしれない。


 セシリーンは、このままではややこしいことになると瞬時に判断をして、走り出した。




「あ、待て!」




 後ろからセシリーンを追ってくる男たち。セシリーンは、人気がある場所に向かおうと駆け出すが、セシリーンは元々体力が多いわけではない。徐々に男たちとの距離が狭まってくる。


(どうしよう。どうやって逃げたらいいのかな。このまま捕まったら大変なことになりそう。此処は王都だし、なんとか警備の騎士のところまでいかないと!)






 そう思って駆けているセシリーンは、突如横から手を掴まれて路地に引き込まれた。

 驚いたけれども、自分を引き込んだ相手を見て大人しくする。

 セシリーンがその者と一緒に路地裏にひそめば、追いかけていた男たちは通り過ぎて行った。

 セシリーンはほっとしたように息を吐く。





「カーデン様、ありがとうございます。とても助かりました」




 そして自分をこの場に引き入れた者――ブラハントにお礼を言う。

 そうすれば、ブラハントが呆れたように翡翠の目をセシリーンに向けている。



「全く……君は何をやっているんだ」

「お父様が王都に出かけるのを許可してくれたんです。そしたら人の多さにはぐれてしまって……」

「では、送り届けよう」

「え、いや……私、折角の王都だからもっと探索を――」

「君……そんなことを言える立場だと思っているのか? まさかはぐれたにも関わらず、一人で王都を探索していたのか?」

「えーと……はい」

「君は馬鹿なのか?」



 ブラハントはセシリーンが護衛たちとはぐれたにも関わらず、一人で王都探索を続けたことに思わずそんな言葉を口にする。

 伯爵令嬢という立場でありながら、護衛や侍女とはぐれて騎士たちに保護されるではなく、一人で王都の探索を続けるというのは中々貴族ならやらないことである。





「貴族の令嬢が一人で移動する事は危険なことだ。それは分かっているな?」

「はい……もちろん、分かっています」

「何が危険かわかるか?」

「はい……。人さらいに誘われたり、ならずものに絡まれたりといった危険があります」

「それが分かっているならわかるな?」

「はい……。申し訳ございません。このまま帰ります! でも私は別邸の場所も分かっているので――」




 もっと王都の探索をしたいという気持ちがあるものの、ブラハントの言うことも最もなので、結局折れてしまった。




「それでまた絡まれたら大変だろう。警備の騎士の元に預けられるのと、私に送られるのとどちらが良い?」

「えーっと……じゃあ、騎士の元へ連れていく方向でお願いします……。多分侍女たちも私のことを探しているでしょうし」



 ブラハントはフードを被って顔を隠し、明らかにお忍びスタイルで此処にいるものの、ブラハントに別邸まで送られてしまえば目立ちそうだとセシリーンは思った。



 セシリーンは、ブラハントと噂になるのは望ましくないと思っている。現実で宰相であるブラハントと親しいと噂になればそれだけでややこしい事態になる。

 セシリーンの言葉にブラハントは、「では行こう」と口にして、歩き出す。セシリーンは慌ててその後ろをついていく。


 そのまま警備の騎士の元へ向かおうとしたのだが、その最中にセシリーンは、自分を探している侍女たちを見つけた。






「あ、カーデン様、あれ、うちの侍女です!」

「見つかったのか。では、合流するといい」

「はい! ありがとうございました。カーデン様」

「ああ」

「では、また、夢の世界で」

「ああ。……君も、周りを困らせないように」

「はい!」




 ブラハントとは、そういう会話をしてわかれた。




 その後、セシリーンは侍女と護衛と合流した。侍女達は王都の騎士からセシリーンの伝言を聞いていたらしく、「伝言ではなく、そこで待ってて下さいよ!」と怒られてしまうのであった。

 ついでに言えば、別邸に戻った後もセシリーンは、ソドアに叱られてしまうのであった。



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