夢渡り令嬢と腹黒宰相の共謀 ⑥
セシリーンが一生懸命、情報収集を進めている中でブラハント・カーデンは、宰相室の執務椅子に座っている。
宰相としてこのトートイズ王国のために常に動いている。
美しい銀色の髪が、窓の外から差し込んでくる太陽の光に煌めいている。ただ座っているだけだと、ブラハントはまるで人形のようにさえ思える。それだけ人とは思えないだけの美しさを持っている。
書類を見ているその視線は、ひどく冷たい。
そういう誰にも関心を持たない様子が、ブラハントの性格の冷たさを表していると言えるだろう。
このトートイズ王国は水源豊かな土地である。近隣諸国からの侵攻がないのは、国王陛下が俊敏であるからというのもあるが、ブラハントが裏で手をまわしているからというのもある。幾ら近隣諸国との関係が良好とはいえ、トートイズ王国に侵攻する事を望んでいる存在はいる。そういう争いの種をつぶすのもブラハントの仕事でもある。
そういうわけで情報収集を怠るわけにはいかず、ブラハントには情報収集をするための手駒が多くいる。その手駒の一つ――というか、試しに声をかけてみた一人がセシリーンである。
ブラハントにとって、セシリーン・ジスアドという令嬢は今の所、少し変わった魔法を使っているだけの令嬢である。
夢渡り魔法というのは、夢の中に入る事が出来る珍しい魔法だということは分かった。けれど、幾ら便利な魔法だったとしても全ては使用者次第である。セシリーンの使い方次第でどうにでもなるのだ。
ブラハントは、セシリーンが期待以上の働きをするとは全く思っていない。ただそういう珍しい能力があったからこそ、声をかけただけであって、それ以外は関心がない。
ただもし夢を渡る能力が本当に有効活用できるものであるのならば、ある事をセシリーンに依頼をすることをブラハントは考えていた。
そうしている中でコンコンッと宰相室の扉がノックをされる。ブラハントが返事を返せば、その扉が開かれる。
そして現れるのは、王城に務めている文官である。
「カーデン様、陛下がお呼びです」
それは陛下がブラハントの事を呼んでいるという報せであった。ブラハントはたちがあり、国王陛下の元へと向かう。
ブラハントが王城を歩けば、王城で働いている女性たちが騒ぎだす。ブラハントは自分の見目が美しいことを自覚している。自覚しているからこそ、そういう騒ぐ相手を冷たい目でいつも見ている。
(あの令嬢は、私に対してそういう目を向けることはなかったな)
ふと、歩きながらブラハントはそんなことを思考した。
――セシリーン・ジスアドは、ブラハントと近づけるチャンスがあったとしても、近くでブラハントの事を見てもそういう目では見なかった。そういうセシリーンにだからこそ、ブラハントは情報収集を頼んだと言えるだろう。
これでもしセシリーンがそういう令嬢であるのならば、幾ら夢渡り魔法を使える存在であろうともそういうことを頼まなかった。寧ろその能力を国にとって有害なことで使っていたならば何らかの方法で退場をさせたかもしれない。
そもそもセシリーンが好き勝手に能力を使う令嬢であったのならば、もっと前からセシリーンの魔法が露見し、その段階で問題にはなっていただろう。
ブラハントは、王のいる執務室へと向かい、王と会話を交わす。
「カーデンよ、あの問題を解決する目途はたったか?」
――王はブラハントに視線を向けて、そんなことを問いかけている。
トートイズ王国の王であるガストム・トートイズは、まだ四十代に差し掛かろうとする若い王である。金色の髪に、金色の瞳の美しい王には、数名の妃がいる。それにも関わらず、彼の妃になりたいと望んでいる令嬢は多い。
その美しい目がブラハントのことを射抜くように見据えている。
「――申し訳ございません。まだです」
「何の手立てもないわけではないだろう?」
「そうですね。もしかしたら解決できるかもしれないとは思ってますが、まだ断言はできません」
「そうか。引き続き頼むぞ」
「はい」
ガストムとブラハントの付き合いはそれなりに長い。ガストムもそんな会話の後は砕けた様子をブラハントに向けている。
このトートイズ王国は、現在、いくつかの問題を抱えている。宰相であるブラハントは、その問題をどうにかするために動いている。
問題が起こっているとはいえ、ブラハントもガストムも落ち着いた様子である。慌ててもどうしようもないというのを彼らは分かっている。
もちろん、ガストムはブラハントの事を信用しているとはいえ、その一つの問題を解消するためにただブラハントに任せているだけのわけではない。
とはいえ、今の所、解決できるかもしれないと言ったのはブラハントだけである。そのことからもトートイズ王国に存在している一つの問題がどれだけ大きな問題なのかうかがえるだろう。
「……ところで違う話にはなるが、カーデンは結婚はしないのか?」
「本当に違う話ですね。私は今の所、誰かと婚姻を結ぶつもりはございません」
ガストムとしてみれば、この国の重要人物であるブラハントには、早く身を固めてほしいと望んでいる。宰相の位は、世襲制というわけではない。血が繋がっているからといって、その位を継げるものではない。
そうはいってもブラハントは、重要な立場であり、ガストムは身を固めてほしいと願っている。そこにはブラハント自身を思っての思いもある。
しかしこのブラハント・カーデンという男は、美しく異性に騒がれる立場にあるが、異性に興味がない。寧ろ異性に騒がれているからこそこうして異性を忌避しているのかもしれない。
「話がそれだけでしたら、私は失礼します」
「ああ。また何か動きがあれば教えてくれ」
そういう会話を交わして、ブラハントとガストムの会話は終わるのだった。




