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夢渡り令嬢と腹黒宰相の共謀 ⑤

 その手紙には、音沙汰がないがどうなっているかという事が書かれていた。セシリーンはそれに頭を抱える。

 だけどこのままスルーしているわけにもいかないので、その日、ブラハントの夢へと訪れた。



「カーデン様、ごめんなさい!!」

「……君は何を急に謝っているんだ? 謝るようなことをしたのか?」



 ブラハントの夢の中へと入り込み、ブラハントを見つけた途端、謝罪をしたセシリーン。そんなセシリーンを見下ろすようにみるブラハント。



 ちなみに見つけたブラハントは、猫の頭を撫でていた。冷たい性格をしていると噂だが、猫が好きなのかもしれない。




「いえ、悪いことはしてないです! でも私、中々情報収集が出来なくて……ごめんなさい!! 対象の人の夢の扉が見つからなくて……」

「ああ。なるほど。音沙汰がないと思ったら、そういうことか。別に私もすぐに情報収集が出来るとは思っていない。出来なければそれでもかまわない」

「……いや、それはそれで悔しいんですけど。頼まれたからにはちゃんと私もやりたいんですよ!!」

「そうか。なら思う存分情報収集をするといい」




 そう言いながらセシリーンを見る目は、決して温かくはない。それを見ると、ブラハントはセシリーンの魔法を使えると思って、共謀を持ちかけたけれども、結果を出していない現状では何も期待されていないのが分かる。

 ――ブラハント・カーデンというこの国の宰相にとって、セシリーン・ジスアドはただの最近出会った駒の一人でしかないのだ。




 その事実は、最初から分かっていたことだ。だけれどもセシリーンは、何だかそれが悔しかった。




(……絶対、情報収集を成功させてみせる。そして目の前のこの人をぎゃふんと言わせてみせる)




 セシリーンは一人でそう決意した。




「カーデン様、私に話すことが他にないなら私はもう帰りますね」

「ああ。良い続報を楽しみにしている」





 それだけの言葉しかブラハントはかけない。ブラハントはそれだけいうと視線を猫へと落としていた。

 セシリーンが振り向いた時もブラハントは、セシリーンの方を見てはいなかった。

 セシリーンはそのことにが何だか面白くない。






(……何だか面白くない。私の夢渡り魔法でそのすました顔をどうにかしたい!)




 負けず嫌いな思考でセシリーンはそう考え、夢の世界を後にした。









 それからセシリーンは、夢渡り魔法を使いこなすことだけを考えていた。他のことに手を出す暇もない。セシリーンは、ブラハントに頼まれた相手の情報を前よりも集め、意識する。

 自分の望む人の夢の扉、それも一度も行ったことがない夢の扉を探すこと。

 それはセシリーンにとって難しいことだ。だけれどセシリーンは、このままでは終わらないと思っている。







「……セシリーン、最近疲れているようだけれど大丈夫?」

「大丈夫よ! お母様、私本当に無理してしまった時は、お母様に助けを求めるもの!!」




 セシリーンは、魔力を多く使って、ブラハントが情報収集を求めた相手の扉を一心に探していた。慣れないことをして魔力を消費することは、セシリーンの身体に負荷がかかっていた。



 だからこそ最近のセシリーンは、少し疲労が見えていた。家の中ではいつも元気な様子を見せていたセシリーンの口数が少しだけ少なくなっていたのだ。



 ケーテはセシリーンのことを心配しながら、セシリーンが笑っているので止めることはない。

 本当に倒れそうなほどに疲労しているのならば、無理やりでもセシリーンがやっている何かをケーテは止めようとしただろう。






(お母様にも心配をかけてしまっているわ。駄目だわ! もっとしっかりしないと。それにしても入ったこともない人の夢の扉を探すのは中々難しいわ。夢の扉に名前でも書いてあれば別なんだけど、そういうのもないしなあ)





 さて、その日もセシリーンは瞳を閉じて夢の世界へと旅立っていた。真っ暗な空間の中に、沢山の扉が広がっている。魔力を意図的に消費して、自分の望む夢の扉を引き寄せる。




(カーデン様が情報収集を求めている貴族は、どちらかというと強欲的な人が多い。お父様とは違って、貴族らしい貴族で、平民を見下している感じの人。そもそもカーデン様が私に夢の世界で情報収集を頼んだのは、その貴族たちがこのトートイズ王国に害をなすかもしれない存在だからだろうし)




 その人の性格などが、夢の扉には現れる。

 強欲的な人であるのならば、それらしい扉があるはずだ。それでいて怪しくて危険な人だと、夢の扉が禍々しかったりする。





(カーデン様は私に期待はしていない。私に情報収集を頼んでいても現実世界でも情報収集をきっちり進めているはず。正しい情報をカーデン様に伝えられれば、カーデン様のすました顔を歪ませられるかも!)



 そんなことを考えながら怪しそうな扉を次々とセシリーンは開けていく。



 いくつもの扉を開けていくと、見たくもないものを見てしまったりする。人の夢というのは、その人の欲望がよく表れている。それでいて本質というものがよく表れているものだ。



 だからこそそういう薄暗い欲望にまみれている存在の夢の扉を開くと、女性を襲っている様子だったり、子供を追いかけている様子だったり――色んな犯罪臭がするものを見てしまう。

 とはいえ、夢の中でそういう様子を見せられたとしても現実でも同じことをするのかは分からない。夢には人の願望が現れるものそれを現実で抑制が出来るのならば問題はない。




 セシリーンが同年代の女性ほど、異性に夢を見ないのは夢の世界で人の願望にまみれた様子を見ているからかもしれない。

 夢の世界というのは、その人の本質を覗き込むことである。それはその人の隠している事さえも勝手に覗いてしまう。




(それを考えるとカーデン様は、躊躇いもせずに私に夢の中に入っていいといったのは凄い事だよね。私が自分の立場で考えると誰かに自分の秘密を知られることは恐ろしいと思う。それでも気にせずに私を夢へと呼ぶというだけでもやましいことが何もないと言う証なのかな。それとも私が夢の中でそこまで相手の事が分からないと思っているのかな。いや、カーデン様はとても頭が良い方だから、そのくらい分かっているはず。……そう考えると私に期待はしていないけれど、あの人はとても立派な宰相で、凄い人)




 セシリーンは、ブラハントが自分に期待していないことは面白くない。それでも客観的に見てブラハントは凄い人だとセシリーンは認める。



(見返したいというのもあるけれど、カーデン様の力になれればこの国のためにもなる。うん、私情抜きにしてもちゃんと情報を集めないと)



 セシリーンはそう決意して、夢の扉を探した。



 そして該当の夢の扉を見つけ、セシリーンはその夢の中で大いに情報収集だけを進めていくのであった。




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