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夢渡り令嬢と腹黒宰相の共謀 ④

 それからのセシリーンは、夢の世界でブラハントから情報を集めるように言われた相手の夢の扉を探している。



 ソドアから情報をもらい、一部貴族の情報を集めることにしたセシリーンだが、これかな? と思って飛び込んだ夢の扉が全然違う人の夢だったりして、失敗も続いた。



(特定の人の夢を敢えて見に行こうとは今までしてこなかった。親しい人の夢の扉は流石に覚えているけれど、入ったことのない夢の扉を探さなきゃいけないのは難しい。いつになったら見つけられるかな。あまりにも時間かけてしまうとカーデン様に呆れられてしまうかもしれないわ)




 夢の世界を漂いながらセシリーンの顔は沈んでいる。




 セシリーンも与えられた役割は存分にこなしたいと思っている。引き受けたのだから、きちんとこなしたいと。だけれども中々上手くいかないことにセシリーンはどうやったら見つけられるだろうかと首をひねっている。



 セシリーンにとって、今まで夢を渡る魔法は目的をもって行使しているものではなかった。ただ色んな夢を見て回っているだけだった。セシリーンは、そのことを少し反省する。

 夢渡り魔法が便利な魔法だとセシリーンは昔から分かっていた。それは両親だって分かっていたことだが、それを有効活用しようとは両親はしなかった。セシリーンも夢渡り魔法を磨こうとはしてこなかった。




(……もっと夢渡り魔法を使いこなせるようになっていたらこういう時にすぐに対象の夢に入れたかもしれないのに。私にとって今までその必要がなかった。だけどいざという時のためにつかえる力はきっと多い方がいい。私も貴族の令嬢で、どういうことに巻き込まれていくのかも分からない。私はもっと自分の力を知るべきだ)




 その必要がなかったからといって、セシリーンは自分から進んで夢渡り魔法を磨こうとなんてしていなかった。だけどこうして中々自分の思う通りにならない現状に、もっと自分の魔法を知るべきであるというのを実感する。




 ブラハントに見つからなければ、そういうことを考えることもセシリーンはしなかっただろう。いってしまえばセシリーンは、今に満足していた。夢渡り魔法をこれ以上磨く必要もないと思っていて、ただ自由に生きていた。

 だけれども今はそうだったとしても、これからそういう力を磨いていたほうがいい機会がくるかもしれない。




(うん。そういう力を磨いた方がいいと気づかせてくれただけでも、ある意味カーデン様に夢渡り魔法の事を知られたのは良かったかもしれない。私はカーデン様に見つからなければ、そういうことを考える機会も与えられなかった)



 セシリーンはそんな風に前向きな事を考えていた。



 結局そんな決意をしてもすぐに対象の夢に入れるわけではない。セシリーンは、なんとかブラハントに求められた仕事をこなそうと必死だった。












「――セシリーン、どうしたの? 最近何だか落ちつかない様子ね」




 セシリーンは、その日、友人の令嬢たちと一緒にお茶会をしていた。セシリーンは友人たちと時折お茶会を開催している。そのお茶会は情報収集の場である。貴族にとって情報というのは重要なものである。

 流行を知らないと話題についていけないし、流行を貴族は知らなければいけない。



 さて、その日もセシリーンはお茶会をしていた。お茶会の場は、王都のジスアド伯爵邸である。社交界が始まって、より一層お茶会も活発化している。




「そう? いつも通りよ」




 最近のセシリーンは、ブラハントからの依頼をこなしたいと自分の夢渡り魔法を知ろうと必死である。魔法についての本を呼んだり、夢渡り魔法の検証を行ったりと、その事に頭は支配されていた。

 社交界の季節という――貴族令嬢にとっては結婚相手を探す重要な時期であるにも関わらず、他のことで頭がいっぱいなセシリーンである。




 親しい友人には、セシリーンのそういう様子がバレていた。




「そうなの? まぁ、セシリーンがそういうならそうなのでしょうね。何かあったらいいなさいね?」

「ええ。もちろんよ」



 セシリーンは、友人に向かってにこにこと微笑む。友人はそれ以上のことを聞くことはなかった。話は結婚の話に移る。




「婚約者の方とはどう?」

「もうすぐ結婚式だけど、あの方が婚約者で良かったと思っているわ。好きな方と結婚できると思うと嬉しくて仕方ないわ」

「それはいいわね。私なんて親が決めた婚約者だからどうなることか少し心配だわ。でも上手く手綱を握ってやるわ」




 王侯貴族の結婚なんて、気持ちがそこにないことも当然ある。



 政略結婚というのが蔓延っているものである。政略結婚をした先に家族関係が崩壊している貴族もいれば、仲良く過ごしている貴族もいる。セシリーンの友人たちは、前向きな性格のセシリーンと似ているのか、前向きに婚約者との関係を考えている者が多い。



 もちろん、セシリーンと同じようにまだ婚約者が決まっていないものもいる。そういう令嬢たちは、これからどんな相手と結婚することになるだろうという話に華を咲かせている。




「セシリーンはどういった方と結婚したいというのはありますか?」

「そうですわね……」



 セシリーンは問いかけられて、思考をする。



 どのような相手と結婚したいかと思考するセシリーン。それを期待した目で令嬢たちは見ている。

 セシリーンは仲が良い両親を見て、そういう相手と結婚をしたいと思っていた。互いに思いやりを持っていて、寄り添いあう夫婦。




「……私は私の事を分かってくれる人と結婚したいですわ。私の両親のように寄り添いあっている夫婦になれたらきっと素敵だと思いますもの!!」




 セシリーンは、貴族令嬢にしては行動的で、いつもバタバタと動いている。大人しくしているような令嬢ではない。そういう令嬢は、どちらかというと貴族の男性が求める妻ではない。

 セシリーンは、伯爵家の娘でそれなりに見た目が整っているので、近づいてくる男性はいる。とはいえ、結婚とは共に生きていく存在なのだ。パートナーである存在は、簡単に決められるものではない。

 セシリーンの言葉に友人たちは、微笑ましいものを見る目で見た。







「セシリーン、そういう方が見つかればいいわね」

「セシリーンは、どういった見た目の方が好きですか? やはり中身も大事だろうけれども、見た目も大事ですよ。毎日見る顔ですからね。どうしてもここは受け入れられないという所があったら大変ですもの」

「……なるほど。確かにそれはそうですわね」




 セシリーンはそう答えながら、自分が美しいという見た目はどういう見た目だろうかと考えて……真っ先に思い浮かんだのはブラハントの姿だった。それはブラハントの事を最近考えているから、余計に思い浮かんだのだろう。



 とはいえ、この国の宰相であり、独身とはいえ多くの美女たちに騒がれている存在であるブラハントとそういう仲になることはまずないだろう。幾ら夢渡り魔法の影響で共謀することになったとしても、そういう勘違いをしてはいけない。




(うん。カーデン様はとても女性に騒がれるタイプの人だから、私がそういう風な態度をしたらきっと嫌がられるだけだろうな)




 そんなことを思考しているセシリーン。


 そんなセシリーンを見て、友人達は誰か好きな人を思い浮かべているのではないかなどと騒ぎだすが、そんなわけはなかった。





 セシリーンが屋敷へと帰ると、ソドアから手紙を受けとることになる。それは、ブラハントからの手紙であった。



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