夢渡り令嬢と腹黒宰相の共謀 ②
「座るといい」
「はい」
セシリーンは執務室の椅子に腰かける。ブラハントは、執務椅子に腰かけている。
「……そ、それでカーデン様、この国のために使わないかというのは」
「夢の中に入る能力があるのならば、情報収集をすることが出来るだろう。とても有益な情報だ。現実で夢の主であるその存在に近づくことは難しくても、夢の中でなら近づけるだろう。この国は問題がそれなりにある。……それにもし君が手伝ってくれるというのならば、頼みたいこともある」
真っ直ぐな翡翠の目がセシリーンのことを見据えている。
「それは、断る事も出来るということですか?」
「そうだな。別に断ったところで君にも君の家にも何かをすることはない。ただ私の夢に侵入した落とし前はつけてもらいたいが」
「ひっ、怒ってるじゃないですか!」
「それはそうだろう。君も下手に人の夢には入らない方がいいのではないか?」
「……カーデン様がたまたま気づいただけですよ。それに魔力を発散しないと私の身体が持たないですから。私はこの魔法しか使えません。それに同じ人の夢に入りすぎると、その夢の主が体調を崩してしまいますもの」
セシリーンは夢渡り魔法で色んな人の夢を見に行くことを楽しんでいる。だけれども何も好き好んで色んな人の夢にずっとわたっているわけではない。
魔力というのは使わなければ、その身にたまっていく。そしてたまった魔力は、身体に悪影響を及ぼす。だからこそ時々魔力を発散する必要がある。けれどもセシリーンは夢渡り魔法しか使えない。
だからこそ夢渡り魔法をセシリーンは使う必要がある。
それでいてセシリーンが夢に渡るというのは、普通の状態ではない。繰り返し夢に渡られれば、夢の主も衰弱していくものだ。
だからこそセシリーンは色んな人の夢を見て回っている。
「そうか。それならばやはりこの国のために使わないか? どうせ夢を渡らなければならないのならば、有益に使った方がいいと思うが」
そう言われてセシリーンは考える。
(……カーデン様は、私が断っても何もしないと言っている。でも本当にそうだろうか。カーデン様は利己的な人だ。断っても本当に国のために私の力が必要なら、この人は躊躇いもなく私を利用するだろう。なら……、先に受け入れて、事前にどういう風にこの人が私を使おうとしているのか分かった方がきっと動きやすい)
セシリーンは、そんな風に思考する。
ブラハント・カーデンという人物をセシリーンは正しく知っているわけではない。それでも噂に聞くブラハント・カーデンならその位のことはするとセシリーンは思った。
「……かしこまりました。受け入れましょう。でも流石に私も非人道的なことは出来かねます」
「君は私を何だと思っているんだ? そんなことに君を使おうとは思っていない。ジスアド伯爵は有能な伯爵だ。その娘を使い捨てにするつもりはない」
はっきりとそう言い切ったブラハントに、セシリーンは安堵する。
「君の親にも話を通しておこう。この夢の世界で報告をしてもらうが……、私も夢の中の出来事を全て覚えているわけではないからな。君は、人の夢に入った時のことは覚えているのか?」
「はい。ちゃんと覚えています。とはいっても私も記憶力が高いわけではないので、忘れていることも当然、ありますけれど」
夢というものは、全て覚えている人は少ないだろう。夢の中の出来事は、現実ではなく、夢うつつで人は夢を見ている。
だからこそブラハントと言えども夢の中のことをすべて覚えているわけではない。
だけれども、セシリーンはその特異な魔法故か、全てを覚えている。現実と変わりがないぐらいにセシリーンは鮮明にすべてを覚えている。
「ならば、伯爵を経由して重要な案件はやり取りしよう。私が覚えていなくても君が覚えているならどうにかなるだろう」
「ええと……カーデン様は中々、私の事を信用しすぎではないですか? 私が嘘をついたり、カーデン様の夢で好き勝手したりするとは思わないのですか?」
セシリーンが覚えていれば問題ないなんてブラハントは言うが、セシリーンが嘘をつかない可能性がないとは限らない。もちろん、セシリーンは虚偽の申告をするつもりがないが、それでもこんな風に信用しすぎて如何なものかとセシリーンは思っていた。
「それもそうだが、君は嘘を吐くつもりはないだろう。もし君が私に虚偽の申告をして、それで国益が損なわれればそれだけで反逆罪に問うだけだ。それが分かっていて、嘘を吐こうと思ってはいないだろう?」
「……はい。もちろんです」
冷たい瞳で見られて、セシリーンは思わず身体を震わせた。
セシリーンはブラハントの言葉をかみしめて、そんな真似は間違ってもしないようにしないとと決意した。
ブラハントもそういうセシリーンの性格を見抜いて、そういう言葉を口にしているようだ。
まぁ、結局の所、夢の世界を自由に行き来出来るのはセシリーンだけなので、セシリーンが嘘を吐いたところでブラハントにはその真偽は分からないだろうが。
「じゃあまず君に頼みたいのは――」
そしてブラハントから、セシリーンは頼み事をされる。




