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雨の日の君

作者: 沖崎ケイ

雨が降っていた。雨の中、君と話した。別れ話を。彼女の家の近くの普段、いろいろな人がベンチとして腰掛けている花壇の縁に彼女と座った。雨で濡れた花壇の縁の冷たさを、いまでも覚えている。あの日のことを、今でも思い出す。いつものように会社から帰った私は、シャワーを浴び、テレビを見始めた。だが、ふっと彼女のことが思い浮かんだ。当時、彼女とは疎遠になってしまっていた。コロナウイルスによって世界的に外出を控える生活スタイルになっていたのが大きかったが、緊急事態宣言が解除された後、久々に彼女を近所の外食に誘った。その時には薄々気が付いていた。彼女が、以前のように私を思っていないことを。あの雨の日、突然彼女に会わなければならない気がして、会って話したい、とラインを送った。返信はなく、既読にもならなかった。いてもたってもいられなくなった私は、気が付いたら、財布と携帯を持って駅のホームに立っていた。彼女の家の最寄り駅についた私は電話をしてみた。当然のようにつながりはしなかった。そこで、彼女の住んでいるアパートに向かうことにした。少し歩くと、前の方にフラフラと歩く女性がいた。彼女だった。

「桜乃!」

私はたまらず後ろから彼女を呼んだ。彼女は話端に気づいたが、歩みを止めることはしなかった。そして、ごめんね、と呟くのが聞こえた。私は酔ってふらつく彼女を支える形で横を歩くことにした。


「秋人、なんでここにいるの?」


「なんでだろう、今日、ここにくれば桜乃に会える気がしたんだ」


「なにそれ」


「なんだろうね、俺もよくわかんない」


「私、今日友達と飲んでたの」


「そっか〜、楽しかった?」


「楽しかったよ」


「それは良かった」


「ごめんね、連絡もしないで、秋人の事、嫌いになったわけじゃないの」


「でも私、今は恋愛とかできそうにないの。好きとかよくわからなくなっちゃった」


「もちろん、コロナのせいっていうのもあるけど、秋人ならすぐに私なんかよりいい人が見つかるよ」


「合鍵、返すから、別れよう、ごめんね」


そこまで聞いていて、私は、桜乃と別れずに済む方法は、現時点ではないのだと感じた。


「わかった、別れよう。最後に少し、話さない?」


そうして私たちは花壇の縁に座り、話した。桜乃は将来、不動産会社か、建築系のデザイナーになりたいと語った。私はその夢を絶対に叶えて欲しいと思った。同時に側で支えてあげられたならどれだけ良かったのだろうと思った。彼女の話を聞いていると、もう、この幸せな時間が彼女と過ごすこの時間が永遠続いて欲しいと心から願った。だが、そんな願いが叶うことはないのもわかっていた。彼女の意思は固く、別れる以外の選択肢はなかった。私は涙を流さぬよう、必死に、熱くなっていく目頭を、涙腺を涙をせき止めた。


そして、別れの時間が訪れた。


私たちは互いに今までありがとう、そう言い合って別れた。


私は、帰りの電車の中で、考えた。彼女と友達としてやっていけないか、いや、私が彼女を愛する気持ちを持っている限り、彼女は会ってはくれないだろう。たまにラインをするのはどうだろうか。いや、それじゃあ自分が嫉妬してきた元カレたちと変わらない。家に着くと、とりあえず、シャワーを浴びた。胸は燃えるように熱く、苦しかったが、涙は出なかった。そして、明日の仕事に備え、眠ることにした。


願わくは、いつか、彼女が就職し、彼氏が、夫が欲しいと思ったその時、私も彼女もフリーなら、神様の、一生に一度の奇跡で再び出会い、恋に落ち、一緒になれたらと、そう願っている。


私の寿命はもう尽きようとしている。残り少ない時間で思い出すのは、あの雨の日、別れてしまった、私の生涯の中で一番愛した桜乃という女性のことだった。


もし、生まれ変わるとしたら、彼女と再び出会い、恋に落ち、結婚して、彼女とともに幸せになりたい。


それが、私の願いだ。



秋人おじいちゃんが死んで2週間がたった。僕はおじいちゃんが聞かせてくれる雨の日の彼女の話が大好きだった。おじいちゃんは本当に桜乃さんという人が大好きだったんだろう。この日記を見つけた時、僕は、泣いた。

そして、おじいちゃんと桜乃さんが、天国で出会い、幸せになっってくれることを願った。


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