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出会い

この作品はリプレイ小説です。

ノベル風で主観入りまくりですが、「」内とPCの行動はリプレイでお送りしております。


プレイシナリオ

魔法学園RPGハーベスト「星のない空に輝く光を ~Dance with Dead~」

GM 涼宮隼十

PC1「時ノ葉加瀬」こーや

PC2「山ノ上宙太」フジタカ

PC3「オリーヴ・アルベール」采火

(敬称略)


それでは皆様、心の準備は宜しいでしょうか?

魔法学園RPGハーベスト。

魔法の時間は、まだ終わらない───!





 休日、私は発動体のお店に来ていた。

 魔法を行使するために必要な発動体。

 私は自分の発動媒体である宝珠(オーブ)が壊れてしまったから、新しいものを買うためにこのお店へとやって来た。

 なんとなくふらふらしながら店内を見て発動体を探していた時、ふと声をかけられた。


「あ、オリーヴちゃんに宙太くんだ。はぁい」


 声につられてそちらの方を向くと、ピンク色の髪といかにもなとんがり帽子、それから魔法使いのローブが見えた。

 その特徴的な格好を見ただけで、私は脱力してしまう。

 私が通っている魔法学園ハーベストの学長・ドロシー先生。

 さすが神出鬼没の学長。こんなところで出会うなんて。


「ドロシー先生!」

「学長」


 呆れて返事をすれば、呼び声が被ってしまった。

 私の声と、元気な男の子の声。そういえば、私以外に名前を呼ばれていた子がいたね?

 髪質が硬そうな黒の短髪にやんちゃな茶色の目をした十代前半の男の子が、何やら隣にいる真面目そうな女の子に声をかけているドロシー先生の方へと駆け寄る。私もその後に続くように歩み寄った。

 男の子が不思議そうに女の子を見る。


「あれ? そのお姉ちゃんだぁれ?」

「この子とはさっき会ったの。現実世界から偶然来たばかりみたい。今うちの学園に来ませんかーって勧誘してた!」

「はじめまして。時ノ(ときの)葉加瀬(はかせ)です」


 黒髪を一つに束ねてサイドに流し、長めの前髪で顔を隠しながら、真面目そうな女の子がぺこりとお辞儀をした。

 学長の紹介でピンと来た私は、なるほどと頷く。

 その隣で男の子が目を輝かせた。


「俺、山ノ上(やまのうえ)宙太(ちゅうた)! 今年ハーベストに入学なんだ!よろしくな!」

「私はオリーヴ・アルベール。ハーベストの六年生よ。分からないことがあったら聞いてね」


 元気よく挨拶する宙太くんと、よろしくと言う葉加瀬ちゃん。

 私も「よろしく」と笑えば、仲良くできそうな私たちに学長も楽しそうに笑う。

 葉加瀬ちゃんは大人しそうな感じの女の子だったけど、それは見た目だけの話。

 実はこの後すぐに学長に促されてやってみた魔法実演で大火力の魔法をぶっぱなしていた。「けっこう威力出ますね」とか涼しげに言っていて、なかなか癖のある子だとびっくりした。初心者だし、そんな強い魔法を打てないだろうとたかをくくってたから、お姉さんマジでビビって慌ててこちらに飛んで来た魔法を避けたよね。

 発動体は懐中時計で、後から聞いた話では機械魔導学科に所属することになったらしい。

 宙太くんはすごく溌剌とした男の子。魔導次元生まれで、お母さんに言われてハーベストへ入学することになったのだとか。

 後日、私と葉加瀬ちゃんも参加していた飛行魔法の授業の飛行訓練に失敗し、そのせいであの副会長シャルロッテ・ファン・ペルスに魔法決闘を申し込まれていた。何が原因かは分からなかったけど、魔法決闘は宙太くんが捨て身の一撃を与えたことで決着が着いて、あの副会長に一撃を入れた人間として一躍有名になったから、私もびっくりだ。

 その魔法決闘を見ていたけれど、宙太くんは変身魔導学科に所属しているようで、香水を発動体に魔法を使っていた。

 現実世界から迷い込んだ十六歳の女の子と、魔導次元生まれの十三歳のやんちゃな少年。

 可愛い後輩を得た私は、それまで味気なかった世界にほんのりと色が付いたような気がした。

 久しぶりに思い出せた色彩の豊かな世界の中で、ふと「彼」も、今の私と同じ気持ちだったのかなと思った。



 ◇



 私はいつものあの場所へと足を向ける。

 ハーベストの正門から少し離れた、学園の淵にある桜の樹。

 その桜の樹の側には、私が立てた「彼」の墓標。

 私はその墓標の前にそっと膝を着くと、墓標に彫られた名前をなぞる。

 思い出すのは彼と初めて出会った時の事。

 魔法学園の入学式を終えた私は正門から少し離れた場所にある桜の樹を見つけた。

 きっとそれが運命だったんだろうね。

 そこで私は彼から声をかけられた。


「おーい! そこの人! 助けてくれー!」


 その声につられて視線を見上げれば、黒い髪に琥珀のような瞳の男の子が樹の枝にまたがっていた。

 私とそう年の変わらない一人の男の子。

 そんな所で何をしているんだろうと怪訝そうに見上げれば、男の子はほっとした表情をした。


「何をやっているの?」

「俺、こいつを助けるために上ったはいいけど、降りられなくなってさ」


 そう言って彼は、両手に抱える子猫を掲げて私に見せた。

 子猫だ。

 深い夜が明ける直前の、紫闇色をした子猫。

 私はなるほどと頷くと、両手を広げる。


「おいで」


 私が腕を差し伸べると、彼は笑って私の方へと猫を逃がした。

 桜の樹の下で猫を受け止めると、こなれた身のこなしで彼は私の隣に降り立つ。

 風が舞って、私の名前通りのオリーヴ色をした髪がふわりと靡く。

 よっ、と軽い音を立てて彼は私の方を見た。


「ありがとな。俺はスバル。今日からハーベストの三年生になるんだ。お前は?」

「私、オリーヴ・アルベール。今日入学したばかりなの」

「お前、新入生なのか! じゃあこれからもよろしく!」


 彼は笑顔で君に握手の手を差し伸べる。

 私も握手を返そうとして、子猫を抱き抱えたままな事に気がついた。

 これじゃあ握手ができない。

 ちょっと考えて子猫の腕を持ち上げる。

 よろしく、と子猫の肉球で彼───スバルと握手した。

 スバルは少し意外そうに目を丸くした後、お日様のように温かな笑顔を浮かべて、もう一度「よろしく!」と言った。

 私はその笑顔に、ほんの少しだけ視線が奪われる。

 なんて人を惹き付ける人なんだろう。

 そんな私の内心なんてお構いなしに、スバルは「あ、そうだ」と何かを思い付いたように私に声をかけた。


「せっかくだし、この桜の木で写真撮らないか?」

「写真?」


 なんで? と思ったけど、スバルは「いいからいいから」と笑って、魔導機械のカメラを取り出す。

 ぐいぐいと身体を密着させて、スバルはカメラを私たちの方へと向ける。


「ちょ、密着しすぎじゃない?」

「そうじゃないと撮れないだろー?」


 さすがの私も初対面の男の子とツーショットするなんて気恥ずかしくて、心臓が早鐘を打ってしまう。

 それを誤魔化すように猫を抱いて、カメラへと視線を移した。

 ピシャっとカメラのシャッター音。

 満足そうに頷いたスバルはカメラをポケットにしまうと、私から猫を受け取った。


「ありがとな! これからもよろしく!」


 そう言って去っていったスバル。

 私はこの時は、不思議な人だったなぁぐらいにしか思っていなかった。

 だからまさかそのすぐ後、スバルと再開するなんて思わなかった。






 スバルと再開したのは紋章学科の授業。

 発動媒体を綺麗な水晶に紋章を閉じ込めた宝珠(オーブ)に決めた私は、紋章魔導学科の生徒になった。

 スバルも紋章魔導学科の生徒だったと知って、私は驚いた。しかも発動体がハンドスピナーだって聞いた時は「この人ふざけてる」とか思ったよね。

 でも彼の魔法のセンスは間違いなく凄かった。

 弱いながらも攻撃の魔法に特化していた私は、敵の魔法を無効化する支援系のスバルとの相性が良くて、バディを組むのは時間の問題だった。

 私より一つ年上の男の子。

 優しくて、人をよく見ている私だけのバディ。

 そんなスバルに私が惹かれていくのも、時間の問題。

 ハーベストでの生活は目まぐるしく過ぎていく。

 穏やかとは言えない賑やかなスバルとのバディ生活に、私はちょっとずつスバルへの恋心を募らせていった。

 出会ってから三年が経った頃、とあるカース事件の解決のために、私とスバルはクリーチャーハントとして、クリーチャーが出現した山へと討伐に向かった。

 かなり大きな事件らしく、依頼を持ってきたスバルの顔はかなり険しかったことを覚えている。

 学園を出発する時、スバルが珍しく真面目そうな顔をして言ったの。


「なぁ、オリーヴ。悪いんだけど、学園を出る前に行っておきたい場所があるんだけどいいか?」

「いいけど」


 私が二つ返事で頷いて着いていくと、辿り着いたのは私がスバルと出会った桜の樹で。


「覚えてるか? ここは、俺とお前が初めて会って、友達になった場所。俺とお前の、思い出の場所だ」


 桜に視線を向けたスバルにつられて、私も桜の樹を見上げる。

 私は笑った。


「もちろん。あそこでスバルは子猫を助けてたよね」

「そうそう。よく覚えてるな」


 スバルは肩を震わせて笑う。

 そっとその横顔を盗み見ると、スバルは目を細めて眩しそうに桜の樹を見上げていた。

 その視線が不意に動いて私を向けられる。

 琥珀の瞳が私を映す。

 とくん、と優しく鼓動が跳ねた。

 ……横顔、盗み見てたのバレたかな?

 優しい鼓動を鎮めるように私は一度目を臥せると、正面からスバルの視線を受け止めた。


「懐かしいよな。ここで全てが始まって、俺たちはこうして良い相棒になれた」

「そうだね。まさかバディを組むことになるとは思わなかったよ」


 くすりと笑えば、スバルが不意に真面目な表情になる。


「あの時からずっと、俺はお前を信頼してる。だから、お前も俺を信頼してくれ。相棒」


 そういうスバルの声は真剣で。

 私はその目を正面から受けて、瞳が揺れる。

 信頼している、か。

 なんで改めて、そんな事を言うの?

 それも、こんなタイミングで。

 私とスバルの間にある温度差を突き付けられたようで、私の心臓がぎゅっとしめつけられる。

 心臓が痛いな、と思ったときには、私の口はつい滑ってしまっていた。


「……信頼だけでいいの?」

「え?」


 私の返答が意外だったのか、目をぱちくりさせるスバル。

 私は少しだけ意地悪になる。


「私は、信頼だけじゃ足りないよ」

「どういうことだ?」


 不思議そうな顔をするスバル。

 この鈍感め。

 でも、私は今の関係を崩したくはないから。


「スバルが気付いた時にまた言うよ」


 そう言って誤魔化して、私は自分の中にある矛盾から目を背けてしまう。

 スバルも深くは追求してこなかったから、私たちはそのままクリーチャーハントへと繰り出した。




 なんでこの時、あの言葉を告げなかったのかな。

 たった一言、言うだけだったのに。

 私は今でも後悔している。

 この日告げられなかった言葉は、二度と彼に告げる機会が得られないと知っていたなのなら。

 私はこんなにも後悔することなんて、なかったのに。






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