19話 不定形、災害を目の当たりにする
スフィを連れて家へ帰りがてら。新しい日常からの学校はどうだったかを尋ねると、それ自体はそんなものだという返事が返ってくる。
「でも、今までよりもずっと楽しく過ごせました。マドゥさんも迎えに来てくれるって考えたら、嬉しくて嬉しくて……まだ夢じゃないかってさえ思います」
「そう。じゃあ今度は私の番ね。スフィ先生」
にっこりと笑顔を降らせると、負けないくらいの満面の笑みが返ってくる。
「こんなものを見つけたんだけど、スフィは知ってる?」
湖の底で見つけた、魔力を貯蔵する赤い石を見せる。
「知りません……石には詳しくないです」
「そう……これね、魔力を蓄える性質があるみたいなの。それと、魔力を通すと、それを増幅させる性質もあるようなの」
「……凄くないですか?」
「やっぱりそう思う?」
少なくともマドゥの勉強した中には無い物質だ。
こんなに魔法と因果関係が深い物なのにスフィが知らないとなると、そのもの自体が未発見……もしくは、発見されても綺麗な石としてしか扱われていない事になる。
「これ、スフィにあげる。私には要らないから」
「え!?」
「スフィは今のところは上手に魔法が使えないでしょ? だから、上手になるまでそれを使ってイメージ掴みな。そういう事ができやすい石だから」
そう言って手渡すと、スフィは落とさないようにしっかりと握りしめた。
家に帰り、早速スフィの為に石を身に付けられるようにする。
魔力を通して使う都合上、握らなければいけないのだが……。
「どうしよう……」
ずっと持っているわけにもいかないし、だからといって使おうとする度にポケットから取り出していては、いつか落として割ってしまう。
そう考え、事情を説明して親に力を借りる。
流石というべきか、年齢を重ねているだけあり、あっという間に良い案が出た。
その案を頂戴してアクセサリーを作る。
モノとしては単純で、長い紐先の両端に金属の輪っかをくっつけて、その片方に例の赤い石に細い紐をぐるぐる巻きにして固定したものを括り付けただけだ。
腰に巻いておいて、使う時に引っ張って手元にまで持って来るという運用になる。
「どうかな? これなら落とさないし」
「ぐるぐる巻きにしちゃってますけど大丈夫なんですかこれ?」
「それは試してみないと」
早速試そうとも思ったが、工作に少々時間をかけたので食事時になっていた。
「でも先にご飯だね」
食事を終えてから試験運用に移る。
より実戦式に、スフィの腰に紐を巻いてから詠唱させた。
まずは通常のものから。
「湧き出る水よ! 其を潤したまえ! ウォーター!」
スフィは、手の平から無数の大粒の水滴が拡散され、やがて真っ直ぐに飛んでゆく。
魔法書に書かれていたウォーターは、人間の頭くらいの量の水を纏めて出す魔法だ。
だが、スフィの出すそれは全く違う。どちらかというと超大粒の雨を広範囲で出しており、不可解極まりない。
それはそれとして、次は石を介させて詠唱させた。
「湧き出る水よ! 其を潤したまえ! ウォーター!」
飛んでいく速度が増した。
見てから避けるのは至難という程の速度だ。これで、モーフ以外にもこの石が使用できるという事が確定する。
だが、ここまで来るとスフィの出す水の正体が判る。
「雨ね、これ」
「え? はい」
詠唱が同じなのに違うふうに出るという事は、則ちこれは水に対するイメージの違いだ。
スフィにとって水とは、溜まっている塊ではなく、空から降り注ぐ雨なのだ。
「スフィはウォーターを見たことがないとか?」
「いえ、ありますけど……」
「けど?」
「あれは水っていうか……水塊に思えて……」
やはりイメージの差だった。
確認がてら、他の魔法も一通り使ってもらう。
他の子ならばともかく、スフィは魔力が大きいのでこの程度で魔力が枯渇するという事はない。
試したのは基本になるものだ。
炎を吹き出す出すファイヤー、氷を発生させぶつけるアイス、指向性のある電撃を向かわせるサンダー、地面を隆起させるアースウォール、身体能力を上げるパワーゲイン。
しかし、アイスが氷ではなく吹雪として発生し、サンダーは雷撃というよりは名前のまま横に這う小さな雷として発現した。
前者はともかく、後者の威力が凄まじい。
「すごい威力ね……」
「ごめんなさい……私制御出来なくて……」
「大丈夫。これからこれから」
スフィを励まし、次は石を通して同じことさせる。
ファイヤーとアースウォールは発生速度が上がった。
パワーゲインは先程と変わらず。そもそも石を身につけていたので、先程から効果を発揮していたようだ。
肝心のアイスとサンダーだが……。
アイスは吹雪から、無数の氷の礫、雹に変わっており、サンダーに至っては空気を裂く音と共に、文字通り落雷のような威力に変貌し、ターゲットにしていた木を真っ二つに割ってしまった。
スフィの制御できていないという言葉は正しい。しかし、それは "正しく出力できていない" という意味合いになる。
スフィが出したかったアイスとサンダーはこちらだったのだ。
これにはモーフも息を呑む。
これでは歩く災害だ。
しかも、石は糸でぐるぐる巻きにしてある状態なので、効果が減少している。にもかかわらず、これだけ出力できているのは、如何にこれらを目で見て体感してきたかを物語っていた。
スフィがこれらを上手い理由……それは、家が無かったが故に雨風を必要以上に体験していたことに他ならない。
木々の生い茂る湿地に住んでいたモーフとしては、そのようなものから守られていたし、なんなら守ってもらわずとも大丈夫な身体をしていた。
だが、マドゥとしてこちらに暮らし始めてからは、家という雨風を防げる物の有り難みを知っている。
故に、如何にスフィが過酷な環境にその身を晒していたのかが判ってしまった。
今日はここまでにして、そっとスフィを抱きしめる。
「な、なんですか……!?」
「ううん……それより、無属性……回復魔法を使いたいっていうのは変わらない?」
「はい!」
「じゃあ、明日帰ってきたらやりましょうか。まずは兎あたりからでいいかしらね……」
モーフは、スフィに回復魔法を教える為の下準備に思考を巡らせていった。




