16話 不定形、情報収集へと赴く
グランツ領中心部まで来たので、服を茂みに隠し、先程取り込んだ鴨と呼ばれる水鳥に形態を変化させ飛び立つ。
目指すはグランツ所有の屋敷だ。
街から僅かに離れた位置に、それはあった。
塀に囲まれて、大きな屋敷まで石畳の続く庭。その途中には学校にもあったような噴水。
石畳以外の場所は手入れされた植木や、花々、そして兵士の集まる宿舎があった。
屋敷自体は2階建てで、L字型に建設された、赤みを帯びたレンガ造りの建物だ。宿舎は同じ造りだが、直線で1階建てだ。
用があるのは宿舎の方なので、そちらの屋根へと降り立つ。
屋根越しに感じる魔力から、中に大勢の人間が居ることが伺える。
魔法使いでなくとも魔力は皆持っているのだ。その中から見覚えのあるカラーの魔力を探す。
同系色の魔力の持ち主はその内の3人……後はもう見分けがつかないので、実際に接触を試みるしかない。
屋根から地面へ軽く羽ばたき着地し、ペタペタと歩いて中へ……入れない。人間形態ではないので当然だ。
だからといって、ここでマドゥ形態へと擬態する事は出来ない。裸になるからだ。
じゃあ窓から……となると、今度は水鳥の身体が大きくて窓縁へ乗れない。詰みだ。
小鳥ならばとも考えるが、今から警戒心の高い小鳥を捉えるのも難しいので、どうしようもない。
困って宿舎の入り口前でウロウロしていると、筋肉質な私兵の男が、モーフを発見し近寄ってくる。
「おぉ? なんだこいつ逃げないな」
そう言って男は物珍しそうにしながら、ブーツで鴨になっているモーフを突っつき出した。
鬱陶しいと物臭に躱し、宿舎の入り口へ嘴でノックをする。
「お? 開けてほしいのか?」
こくこくとうなずくと、男は「調教されてるな」と感心し扉を開けた。
男はモーフに興味を持ったようなので、それを利用し宿舎の内部を探索する。
宿舎は外見こそ石造りだったが、中は床以外は木造だった。
全体的に明るいカラーの木で構築されており、突き当りから左右に続く廊下が伸びているというシンプルな作りだ。
突き当りの右を見ると調理室やトイレ、資料室等が配置されている。
左を見ると扉がずらりと並ぶ。こちらが宿舎だ。
少し羽を広げてバランスを取りながらよちよちと小走りをして部屋を回る。
差し当たって手前からだ。
ノックをすると興味本位で付いてきた先程の男が「開けるぞ」と言って扉を開く。
中に居たのは読書をする細身の男性。外れだ。次へ向かう。
「鴨じゃん……」
「そうなんだよ。なんか妙に賢いんだよこいつ。面白そうだから後付いてるんだよ」
「1人だけずるいじゃないか」
後ろへついてくる男が増えた。
モーフ的にこれは良くない事だが、例のリーダー格の男をとりあえず探すという目的のためにスルーする。
細かいことは後で考えることにした。
2件目ハズレ。ついてくる男が1人増えた。
3件目が当たりだ。
「こいつ部屋選んでるな」
「そうなのか?」
「じゃなきゃ全部の部屋叩くだろ」
「なるほど」
後ろで兵士達が楽しそうにはしゃぐ。
何時もなら混ざって冗談でも言うのだが、今回モーフは大真面目に来ているので混ざらない。そもそも鳥形態なのでそれも無理な話だが……。
ともあれ、目的の部屋の前に到着したので、男を見上げ、開けろと催促をする。
「副隊長。開けるぞ」
「構わん」
扉が開くと、中にはベッドで上体だけ起こしてこちらを見る例のリーダー格の男。副隊長のようだった。
副隊長の顔色はあまり良くなく、げっそりとしている。
軽く羽ばたいてベッドに乗り接近すると、副隊長は目を丸くして驚く。
「何だその鴨は!?」
「え? 副隊長も知らないんですか?」
「こいつ、俺達に入り口開けさせて、副隊長の部屋までまっすぐ来たんですよ」
「知るか。そんな妙に賢そう……な……」
副隊長は察したのか、ただでさえ悪い顔色を更に悪くしてモーフを見つめる。
モーフも頭を縦に振ってそれに応えた。
「……重要な用が出来た。隊長が帰ってきたらそう言っておいてくれ」
副隊長は恐る恐る鴨に擬態しているモーフを床に下ろし、横に立て掛けてあった軽鎧を装備してゆく。
そのただならぬ副隊長の様子に、兵士達は気遣いの言葉を投げかける。
「……副隊長、お顔が優れません」
「そうです。ご無理は……」
「……あれは魔物とやらのせいなんでしょう! じゃなきゃ我々グランツ様直属の……」
「黙れ!」
副隊長の一喝で、場がシンと静まり返る。
少し、外の小鳥の声が僅かに聞こえる間が生まれた。
「すまない。怒鳴るほどではなかったな……出かけてくる。同行は不要だ」
「「……はっ」」
兵士達は煮え切らない様子ではあったが、これも命令だからなのか身を引いた。
一方、軽鎧を身に纏ってた副隊長は恐る恐るとモーフを抱え、部下の横を通り宿舎を後にする。
副隊長は鴨を抱えながらグランツ邸の敷地を出る。門番に妙な目で見られながらだ。
周りに人が居なくなった辺りで副隊長が口を開く。
「……もしかしなくてもモーフ……様では……?」
『その通りです。どうなったかの確認をしに来ました』
魔力に乗せて言葉のイメージを飛ばす。これにより、マドゥ形態でなくとも人間との会話が可能になる。
「……王ともあろう方に敬語で話されるのは、些か困惑しますね……ひとまず、ここで話しているのを見られると変な人扱いされかねないので、茂みでも良いでしょうか?」
『そうしましょう。私も魔力制御しながら話すのは面倒なので』
話が纏まったので、近くの茂みに入る。
副隊長からリリースされ、モーフは一糸纏わぬマドゥの姿に変貌した。
「すみません。服は生成できないので我慢して下さい」
「いえ、とんでもありません」
副隊長は、そう言いながらだが伏し目がちになった。直視しないようにしている。
モーフとて既に人間の男女の事は多少学んでおり、人間にとって裸というのは生殖行動に直結する事だというのも理解していた。
だが、服が無い以上どうしようもないので我慢してもらう。
一応形態変化で誤魔化せないこともないが、そこまでする必要はないかとこのまま進める。
「さて、では現状どうなっているかを教えてもらえますか?」
「……はい」
副隊長は苦い顔をして答える。
彼がグランツ領に帰ってきて1日、その間に起きた出来事の情報交換をするのだ。




