第八話 盗賊
「なにっ!? まさかあのトロールが倒されただと!?」
リウの脳に直接語りかけてきた魔族が驚きの声を上げていた。
あれだけ強力な魔物を放ったんだ、そろそろ町を壊滅させたかと期待して様子を探ってみるとすでにその姿はなく、町もいつも通りであまり壊れた様子がなかった。
信じられないがあの町にはトロールを倒せるほどの戦力が揃っているようだ。
貴族や領主の戦力か? それともギルドのメンバーか?
とにかく一度様子を見に行く必要があるようだな。
魔族の男は口を噛み締めて出発の準備を始める。
◇
町をトロールが襲ってから数日、マグナスは家を出ずに惰眠を貪っていた。
リウに何か不満を言われるかも思ったが彼女は彼女で自分の考えの元、行動をしてくれていたので特に何も言われなかった。
昼前まで寝ては食堂へ行ってリズドガンドの魔道具に関する間違った報告を聞き流し、食べ終わると散歩がてら町中をゆっくりと歩いて見て回る。
そんな日々を繰り返していた。しかし、そんな日も長くは続かなかった。
「マグナスさん、マグナスさんはいますか?」
慌てふためいた様子でミリファリスが入ってきた。
大声で突然マグナスの部屋へと入ってきたので、その様子に驚いてリウが飛び起きた。
ただ、その隣で寝ていたマグナスは全く起きる様子がなかった。
「えっ、リウちゃん?どうして一緒に寝てるの?」
マグナスだけかと思ったのに、リウが……それも隣にいてミリファリスは驚きの声を上げる。
しかし、リウは動揺した様子も見せず、さも当然のように答える。
「マグナス様といると落ち着くの……」
「お、お、落ち着くって……い、いえ、それよりマグナスさん、起きてください!」
我に帰ったミリファリスはまだ眠りについているマグナスの側による。
「なんだ、騒々しいな」
二人が騒いでいるとマグナスが眉をしかめながら目を覚ます。
途中で起こされたので機嫌が悪そうに声を上げる。
「ごめんなさい……」
リウが早々に謝ってくる。
それにつられるようにミリファリスと頭を下げてくるのでマグナスは溜飲を下げていった。
「それでどうしたんだ?」
わざわざ自分を起こしにくる……嫌な気しかしないが。
「そうなの、すぐに来て欲しいの!」
ミリファリスがマグナスを引っ張っていく。
また面倒ごとかと思うがミリファリスにはリウの服を選んでもらったり、たまに遊んでもくれてるみたいなので仕方なく手を貸すことにする。
「あぁ、すぐに準備するから外で待っててくれ」
「すぐにだよ? そのまま寝たらダメだからね!」
ミリファリスが何度も確認してくる。そこまで信頼ないかなと苦笑しつつ、彼女が出て行ったのを確認すると服を着替え始める。
そして、リウと二人外行き用の服に着替え終えるとミリファリスの待つ廊下へと出る。
「準備できたぞ」
「では早速行きましょう!」
ミリファリスはさりげなくマグナスの手を掴んでそのまま駆け出していく。
やって来たのはやはりマドリー商会であった。
ただ、その様子はいつもと違い、少し人だかりができていた。
草の根をかき分けるように、その人たちの間を通り商会の中に入るとそこは少し荒らされた形跡があった。
「おじいちゃん、マグナスさんに来てもらったよ!」
「マグナス様、ご無理行って来ていただいて申し訳ありません」
ユーキリスが頭を下げてくる。
その店内の様子から見ると盗賊にでもやられたのか?
一応魔力で周囲の察知を行っておく。
人は野次馬のせいでうまく把握できない。
ただ、外門の魔道具はまだ正常に動いているようなので新たに外から犯罪者が入った様子はなさそうだ。
「それで何の用なんだ?」
「実は……、物が盗まれたのはいいのですが、一品だけ取り返していただきたい物があるんですよ」
物探し……かなり面倒な仕事になる。よし、断るか……。
脳裏にその言葉が浮かんでくる。
ただ、それも次に発せられた言葉で気が変わる。
「探してもらいたいのは我が家に伝わる魔道具なのですよ」
「よし、わかった。詳しく聞かせてもらおうか」
魔道具なら察知で簡単にその場所を調べることができる。それなら無理やり起こされるような行為をしたやつに二度とこんなことができないようにしておかないとな。
普段なら即座に断ってくるマグナスが依頼を受けてくれそうなことを見てユーキリスは少し胸をなでおろしていた。
彼が承諾してくれるならこの依頼は達成したも同然だろう。ホッとしながらその委細を説明していく。
「どういった意図で今は使えない魔道具を盗んだのかはわからないのじゃが、私たちにとっては大切なものなのですよ」
やはりすでに故障している魔道具か……。
どうしても街に数個の魔道具は存在する。うまく使えば便利なものだから仕方ないだろうが、その大半が故障してるためにただの置物に成り下がっていた。
そして、このマドリー商会にも魔道具があることは感じていた。
ただ、ここのものは故障していたわけではなく、外門と同じで魔力切れなだけであった。
それなら簡単に察知することができる。
マグナスは話を聞きながらその魔道具の行方を捜してみた。
すると、その持ち主はすでに町を離れ、どこかに向けて移動中であった。
この迷いのない動き……まるで計画されていたようにも思える。
とりあえず、追いかけるか。
「わかった。とりあえず犯人からそれを奪い返せばいいんだな?」
「よろしくお願いします。報酬はしっかりお支払いしますので」
ユーキリスが再び深々と頭を下げる。
それを見ることなくマグナスはお店を出て行った。
◇
「へへへっ、してやったぜ。高そうなやつは全てかっさらってやったぜ。これならかなりの金になるだろうな」
盗賊のパダックはマドリー商会に忍び込んで手に入れた商品を片手に隠れ家の方へと向かっていた。
そして、隠れ家までたどり着くと盗ってきた物を確認する。
金品や食べ物、服などもあったが一つ訳がわからないものがあった。
「なんだこれ? ガラクタか?」
魔道具を前後左右に見るが結局どういった用途に使う物かわからずにそれを放り投げて他の物を調べ始める。
全てを見終わる頃にアジトへやってくる足音に気づく。
「誰だっ!?」
このアジトを知っている人間は自分の仲間たちだけ……。仲間がこんな足を殺したような歩き方をするはずがない。
パダックが声をかけると隠れていた男が姿を現わす。
人間……とは言い難い漆黒の翼が生えた男だった。
頭には捻れたツノが二本、おそらく噂で聞いたことのある魔族なのだろう。
「ほう、なかなか鋭い察知能力だ」
男は声色を変えずに賞賛の声をかける。
それが余計に不気味で男は思わず後ろに下がった。
「だが、これに気づかないようでは所詮半人前の盗賊か……」
男は先ほどパダックがガラクタだと思い投げ捨てた魔道具を拾い上げる。
「これは魔道具だ。お前の名前くらい聞いたことあるだろう?伝説のアーティファクトの名を」
たしかに魔道具という名は聞いたことがある。ただ、そんなものがどうしてただの商会にあるのか疑問すら浮かぶ。
「まぁいい、これがあるなら簡単だ。これを使って領主の三男を呼び出すといい。そうすればお前の望みは叶うだろう」
「俺の……望み?」
食べていくのがやっとな自分にそんな望みのようなものはない。強いて言うなら自分らをこんな身分にさせた貴族たちが憎い……。
「そうだ、その感情だ。これなら利用できるな」
男は細く笑むとパダックに黒い魔力がこもった剣を手渡した。
するとパダックの体に異変が起こる。
体には唐突に筋肉がつき、魔力は増大化し、顔つきが凶暴になる。
「この魔道具は俺が預かっておこう。お前はその狂戦士の剣を
利用して復讐を果たしてくるといい」
しかし、男のその言葉はすでにパダックには聞こえていなかった――。