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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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第七話 リウ

 宿に戻って来ると少女をベッドに座らせ、マグナスは椅子に座る。

 勢いで連れて帰って来たものの自分は少女のことを魔族……と言うことしか知らなかった。



「それでお前は……」

「リウ……」

「んっ?」



 何か言ってきたような気がした。

 マグナスが首をかしげると少女はさらに大きな声で言ってくる。



「私の名前はリウ……。リウフラッド・アウガウォーター……」



 つまりリウと呼んで欲しいと言うことだろう。



「俺はマグナス、見ての通りただの一般人だ」



 自信たっぷりに告げるがすぐにリアが否定する。



「違う。ご主人様はすごい人……」



 緊張してるのだろうか? 少し言葉が固い気がする。

 しかし、それ以上に今の言葉は聞き捨てならなかった。


 あまりすごいすごい言われるとマグナス自身の能力に気づかれる可能性が……いや、大丈夫か。


 先ほどのギルド長の反応を思い出して考えを改める。


 いくらこの子がマグナスのことをすごいと言っても魔族である少女の方が能力はあると思われる。

 それなら虚栄を張ってるだけに思われたほうが自分に依頼が集まらないからいいかもしれない。



「それでどうして奴隷になんてなっていたんだ?」

「わかりません……。平和に暮らしていたのに突然人間族に襲われて、生き残った私は奴隷にさせられたの」



 少し顔を伏せるリウ。

 あまり触れてはいけない話題だっただろうか?

 慌ててマグナスは違う話題を探す。と、そこで少女が着ている服がかなりボロボロなことに気がついた。



「よし、服を買いに行くか!」

「えっと……ご主人様の服を……ですか?」

「いや、リウのやつだ。あと俺のことはご主人様と呼ばなくていい。なんだか背中が痒くなってしまう」

「そ、それじゃあ……、マグナス様……で」



 まだ少し固さが抜けないがここが限界だろうな。



「それでいい。じゃあ行くぞ!」

「は、はいっ!」



 リウは持っていたマントで頭を覆った。

 たしかに街中でツノが見えるのはあまり良くないだろうが、この方が目立って仕方ない気がする。


 ……帽子も買わないといけないな。


 リウを見てマグナスは乾いた笑みを浮かべていた。




 ◇




 マグナスとリウはまっすぐマドリー商会へとやってきた。一通りのものがここで揃う……ということもありきたわけだが、中に入った途端にミリファリスが冷たい視線を送ってきた。



「まさか、マグナスさん……そんな趣味が……」



 マグナスの隣には半裸の少女。流石に何も知らない人が見たら誤魔化しきれない。

 まぁ勝手に誤解してるわけだから気にしなくてもいいだろう。



「それより、この子の服と帽子を見繕ってくれ」



 マグナスの言葉を聞くとリウが深々と頭を下げる。



「よ、よろしくお願いします」



 客だとはっきりとわかった途端にミリファリスはリウに笑顔を見せる。



「はーい、あなたに似合うのを見繕ってあげるからね」



 ミリファリスに引きずられるように連れて行かれるリウ。それを見送るとマグナス自身も必要なものはないかと商会内を見て回る。

 置かれているのは以前マグナスが食べた果物などの食べ物、怪我をしたときに使う薬草や傷薬、そして、武器や防具すらも売られていた。


 実際により良い商品を……というなら専門の店に行くべきなのだろうけど、マグナス自身はそこまでいいものを必要とはしなかったので、ここに来れば大体のものは揃いそうだなと思った。


 すると着替えさせられたリウが戻ってくる。

 服装は無難に布製のローブとスカートだった。

 白色のローブにはフードが付いており、そこにはなぜかうさ耳のようなものが付いていたが……。

 ただ、それでも先ほどまでのボロボロの姿と打って変わり普通の少女に見えるようになっていた。


 しかし、ツノを隠すために頼んだ帽子はなぜかなくて、代わりに頭には大きなリボンが付いていた。

 もちろんそれでツノが隠れるわけでなく、申し訳程度に見えていた。



「やっぱり可愛いは正義ですね」



 ミリファリスが満面の笑みを浮かべて言ってくる。

 それをみてマグナスはおもわず呆れ顔になっていた。

 ただリウがそこまで嫌がってなかったことといざという時はフードで隠せることも考慮してこの服を貰うことにした。



「全部で銀貨三枚です」



 ミリファリスが笑顔で言ってくる。しかし、値段のことを聞くとリウが心配そうにマグナスのことを見てきたので、安心させる意味も込めて普通にお金を渡す。


 問題なく払える範囲だったのであまり気にしなくてもいいのにな。


 するとリウが嬉しそうに笑みを見せてくれた。




 ◇



 前の奴隷市場で着ていた服はミリファリスが処分してくれると言うことなのでリウは新しい服に着替えてマグナスと二人で冒険者ギルドを目指していた。

 報酬をくれるといっていたのでそれを受け取りに向かっていた。


 一人でだと面倒な展開になるのが目に見えているので避けたい場面だったが、リウがいてくれるだけでその足取りが軽やかなものになる。

 そして、冒険者ギルドに入ると突然歓声に包まれた。



「あれを倒すなんてすごい嬢ちゃんだ!」

「お、俺だって今回は油断しただけで倒せるんだからな」

「兄ちゃんもよく無事だったな」



 あまりに突然のことにリウの思考が停止し、わけもわからずに周りを見ていた。

 マグナスはなかなか受付まで通してもらえないことにすこし腹ただしく思うものの、こうやって感謝されるのはなかなか気持ちいいものだと思った。


 以前だと自分は出来て当たり前。金を払ったからすぐに次の依頼に行ってくれ。

 こんな感じであった。もちろん始めは違ったものの時を経つごとに感謝されることが少なくなっていた。


 やっぱりこうやって感謝されるのは気持ちいいよね。


 冒険者たちにもみくちゃにされながらもマグナスの顔にはすこし笑みが浮かんでいた。


 そして、ようやく受付までたどり着くとそこには待ち構えていたかのようにギルド長が控えたっていた。



「よくきてくれた! それにそっちの子……」



 ギルド長の視線はリウの方へ向いていた。

 しかし、彼女は怯えてマグナスの後ろへ隠れる。



「あっ、悪い。怖がらすつもりはなかったんだ」



 ギルド長が少しかがみ、リウに向かって頭を下げる。

 流石にこの状態ではギルド長がかわいそうなので、マグナスも手を貸すことにした。



「リウ、ほらっ」



 彼女の背中を軽く押すと彼女はおどおどした様子でギルド長の前に立った。

 リウは何を言っていいのかわからずに一度マグナスの顔を見る。


 しかし、すぐに覚悟を決めてギルド長に向かって「リウ……」と自分の名前だけ告げた。

 たったそれだけのことなのにギルド長は嬉しそうに立ち上がり笑い声をあげた。



「そうかそうか、俺はローレンだ。気楽にローレンさんとかお兄さんとか言ってくれていいぞ」



 その言葉に危険を感じたのか、リウは再びマグナスの後ろに隠れてしまった。

 ただ、今回のはギルド長が悪いのでマグナスがこれ以上サポートすることはなかった。



「もう、ギルド長は! そんなことよりやることがあるでしょ!」



 するとミグリーがギルド長を注意し始める。

 流石に今回は悪かったと思ったようでギルド長はまた頭を下げて、マグナスに小袋を渡してきた。



「これが今回の報酬だ、受け取ってくれ」



 ずっしりと重いその小袋。

 思わず中身を確認するマグナス。中に入っていた金を見て流石に驚きを隠しきれなかった。

 そんな様子を見ていたリウも興味を持ったようで小袋の中身を覗き込むように見てくる。



「す、すごい……とってもたくさんなの」



 リウは素直に驚きの声を上げてくる。

 その言葉の通りに中には大量の金貨が入っていた。



「本当にこんなにいいのか?」



 町に被害が出ていたとはいえトロールもそれほど強くはない。

 いや、この町に貴族がいることを考えればこの額はおかしくないかもしれない。



「あぁ、冒険者総出で挑んでも倒せなかったSランクの魔物を倒してくれたんだ。感謝してもしたりないくらいだ」

「Sランク?」

「あぁ、魔物には強さによってランク付けされてるんだ。そして、Aランク以上だと緊急依頼として発令される。今回のような甚大な被害をもたらす魔物だとSランクにランク付けされるんだ」



 流石にそのランク付けは無理やりな気がする。

 まぁ自分が何か言うようなことでもないか。



「わかった。それじゃあ俺たちはもう行くぞ」

「いや、ちょっと待ってくれ。前にも言ってたがギルドに入るという話は……」

「今回のことでわかっただろう? 俺たちにも色々あるからギルドに入るつもりはない」



 それだけいうと冒険者ギルドを後にした。

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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