第四十話 大賢者、家の修復を始める
翌日、目が覚めてもまだリウが服を掴んだままだった。
ただ、昨日ほど力が込められていなかったのでそれは簡単にほどけ、ベッドから抜け出すことに成功した。
そんなリウを見たマグナスは小さく微笑むと家の外へと出てくる。
はっきりと言ってボロボロの建物で補修するところも数多く見受けられる。
簡単な補修程度なら自分にもできるだろうけど、全面的に直す必要があるとなるとそれなりに費用も必要になりそうだな。
あとは町で腕の良い大工を探して素材も多数必要になるし、家具などの揃えていかないといけない。
「……めんどいな」
一瞬脳裏に諦めるという言葉が浮かんでくる。しかし、この家を見たときのリウの嬉しそうな表情を思い出すととても諦めるという選択はできなかった。
ため息を吐きながらもマグナスは建物を直す上で必要そうなことを考えていった。
すると寝ぼけ眼をこすりながらリウが起きてくる。
「ふわぁぁぁ、おふぁようございます、マグナスさま」
「あぁ、おはよう」
大きな欠伸をするリウ。それを苦笑しながら眺めていた。
「それより、準備ができたら出かけるぞ」
「ふぇ? ちょ、ちょっと待って。今準備してくる」
マグナスの言葉を聞いたリウは慌てた様子で部屋に戻っていった。そして、数分後に服を着替えたリウの姿が目の前にあった。
ただ、髪の毛はボサボサで角を隠すためにいつもつけていたリボンはまだリウの手の中にあった。
「はぁ……、ちょっとこっちに来い」
「なぁに?」
小走りで近付いてくるリウ。その髪にリボンを巻いてあげようとする。
……ただ結果はまぁうまくいかなかったわけだ。
「……」
「ま、マグナスさま、元気出してください。ほらっ、もう少しでできてたよ」
リウが慰めてくれるのが余計俺を惨めにさせた。
よし、次こそはしっかりとリウの髪にリボンを結んでやろう。そう心に深く思った。
◇◇◇
早速町へとやってくるとマグナス達はマドリー商会を目指した。
やっぱりここに来れば全ての商品がそろうもんな。
そう思っていたのだが、お店の中に入るとさすがに驚いてしまった。
「さ、さすがに大木は置いてないですよ……」
店内でミリファリスが乾いた笑みを浮かべていた。
家を修復するために必要な木を買いに来たのだが、どうやらここには置いていないようだった。
「置いてないのか……」
「あっ、で、でも、木が必要ならそれを切る道具はそろってますよ!」
落ち込むマグナスを見てミリファリスは慌てて言い繕う。
「あっ、そうか。生えてる木を切ってこれば良いんだな」
そんな簡単なことにどうして気づかなかったのだろう。木なら家の周りにたくさん生えていた。それを切れば運ぶ手間も少なくてすむし良いことだらけだ。
「あっ、あと大工っているか?」
「何人か知り合いの方はいますけど……」
どうやら大工の方はミリファリスがなんとかできるようだった。
「それなら話をしてくれるか? うちの修理を頼みたいんだ」
「わかりました。マグナスさんの新しいお家にお呼びすれば良いのですね?」
「あぁ、よろしく頼む」
ミリファリスにお礼を言ったあとマグナス達は一度自宅の方に戻っていった。
町外れにあるこの家は周りを木々で覆われていた。
これを取って良いとなるなら素材は十分すぎるほどの数になるだろう。
「よし、切っていくか?」
「マグナスさま、何を切るの?」
リウが首を傾げて本当に不思議そうな顔をしていた。
「周りにある木を切っていくんだ。家の修理に使うからな」
そう言ってマグナスはボロボロになっている家を指さす。
家は本当にボロボロでちょっと魔法が当たると壊れてしまいそうなほどだった。
「それもそうだね。リウもできることをするの!」
グッと気合いを入れるリウ。それを横目にマグナスは魔法で周囲の木を切り始めていた。