第三十九話 大賢者、家を見る
マグナスはリズドガンドに案内されて町外れにあるとある家へとやってきた。
中央の商業区画とかがある場所から約数十分。こんな所に家があるのかと少し疑心暗鬼になりながらリズドガンドについて行くとそこにはまだボロボロの家があった。
「えっと、ここは?」
「もちろん君に紹介する家だよ。良いところだろう?」
確かに小うるさい人の声も聞こえないし、行列とかもここはできていない。
だって人そのものがほとんど……と言うか全く通らない。
わざわざこんな家が一軒、ぽつんと建っている所になんて誰も来ないだろう。
ただ逆にそういった場所の方がマグナス自身に取ったら都合がよかった。
問題点はここがそれなりに広い場所と言うことだ。
「結構値段がするんじゃないのか?」
広い場所というのはそれだけでお金がかかってきてもおかしくない。
しかし、そんなマグナスの考えとは裏腹にリズドガンドは首を横に振っていた。
「いや、ここは誰も買う人がいなくて放置していた場所なんだ。マグナス殿がすんでくれるのならお譲りしようと思うのだが……」
笑みを見せてくるリズドガンド。それを見たマグナスはいい人だと思うより前に何を企んでいるのかと疑ってしまう。
甘い言葉を吐いてくる人は得てして何かを要求してくるものだったからだ。それは転生前にじっくりと経験していた。
「何が目当てだ?」
低い声を出すとリズドガンドは顎に手を当てて考えていた。
「うーん、そうだね……。これから先も魔道具がありそうなダンジョンとかあったら一緒に着いてきて欲しいからね……。いや、これは友人である私から君へのプレゼントだよ――」
本心がダダ漏れのリズドガンド。誰も使いそうもない土地で自分を引き留められたら儲けもの……くらいに思って譲ってくれているのだろう。
最後は慌てて言葉を足していたが、あれはどう考えても本心じゃないだろうし。
少し悩んでいるとリウがマグナスの服を引っ張ってきていた。
「マグナスさま? 中を見てきてもいい?」
確かに中を見ないことには決めようがないもんな。
リウに的を得たことを言われてマグナスは少し苦笑をして頷いていた。
「わーい」
喜びながら中を見に行くリウ。するとすぐに中から歓声が上がる。
「マグナスさまー、中も凄いですよー!」
どうやらリウがすごく喜んでいる様子だった。
それを見てマグナスは溜息を吐きながらもリズドガンドにお礼を言う。
「ありがとう、遠慮なく使わせてもらう。ただこのお礼はしっかりと返させてもらうからな」
それははっきりとしておかないとあとあとひどいことになるだろうからな。
「そんなに気にしなくていいのにな」
リズドガンドは溜息を吐きながら首を横に振っていた。
◇◇◇◇◇
リズドガンドが帰っていったあと、改めてマグナスは家の中を見ていった。
寝泊まりする分には問題はなさそうだが、早めに直していかないとダメだろうな。
ベッドは……一つだけか。
とりあえず今日のところはリウに使ってもらおうか。
ちょうど日も暮れ出してきたから今日のところは早く寝るか。
「リウはベッドを使うといいぞ。俺はどこか空いてるところに……」
「マグナスさまも一緒に寝よ?」
リウが屈託のない笑みを見せながら言ってくる。
「いや、俺は――」
「もしかして、マグナスさま、リウと寝るの嫌なの?」
リウに詰められてしまうと断るに断れない。しかたない……、リウが眠るまで隣に付いてやるか。
そして、マグナスたちはベッドに入る。
するとすぐにリウは小さな寝息を立て始める。
それを見たマグナスは安心したようにベッドから出ようとする。
しかし、何かに引っ張られてしまう。引っ張っていたのはどうやらリウだった。
眠りながらしっかりとマグナスの服を掴んで離さない。
「……しかたないか」
マグナスは小さなため息を吐くとそのまま眠りについた。