三十七話 マグナスの覚悟
ラティオたちが料理屋で働きだしてから数日が経った。
気がつくとあの料理屋の隣に別の料理屋が出来ていた。
肉と魚をメインに出す『ネリーの料理屋』と言う名前だった。
そして、そこの店員はマグナスにとって見覚えのある人物だった。
シーベルグで何度かお世話になった獣人族の女性。そういえば名前を聞いていなかったと今更ながら思い出す。
「いらっしゃいませ。ネリーの料理屋へようこそ」
何度も顔を合わせていた女性が出迎えてくれる。
「あっ、あなたは……」
「あぁ、シーベルグでは世話になった。おかげでラティオたちは隣の店で楽しく過ごしてるよ」
「えぇ、見させてもらいました。すごく人気ですよね」
女性は純粋にすごいと思っている様子だった。
「この町に来たってことはやっぱりあの町で過ごしにくくなったのか?」
もしそうなら約束を違えたあの貴族に話をしに行かないといけないなと脳裏によぎる。
「いえ、あなたのおかげで随分と過ごしやすくなったんですけどね。ただ今までの溝がどうしてもあって……それなら一からやり直してもいいんじゃないかと思ったんですよ」
なるほど、この人たちが自分の考えでそうしたのなら何も問題はない。
「あぁ、それなら良かった。じゃあ俺たちは失礼する」
店を出ようとすると女性に止められる。
「最後に名前だけ聞いてもいい? 私はネリー。あなたは?」
「俺はマグナス。でこっちがリウだ」
軽くリウが頭を下げる。
そして、ニッコリと微笑むネリーに別れを言うとお店を出てきた。
◇
次にマグナスは冒険者ギルドへと足を運んだ。
一応シーベルグで起こったことは話しておかないといけないだろうとマグナス自身思っていたからだ。
「ようこそ! よくきてくれた、マグナス殿」
ギルド長は両手を広げて歓迎してくれる。
「今日はなんの用だい? まさかついに冒険者ギルドへ参加してくれる……」
「いや、そんなわけないだろう。今日来たのは全くの別要件だ!」
マグナスの言葉にギルド長は露骨にがっかりとする。
しかしこれもいつものことなので気にせずに話を続ける。
「ここ最近この町付近に魔族が現れたのは知ってるか?」
「もちろん、君の隣にいるリウくんのことだよね?」
「いや、リウとは別の魔族だ」
するとギルド長はこの話は流石に人前でできないと思ったようでカーテンを閉め、扉から聞き耳を立てていないか確認した後、いつものふざけた様子ではなく、真面目な表情を見せてくる。
そして、いつもより低い声で言ってくる。
「それはどこに現れたんだ? 今すぐに対処しないと!」
「いや、もうこの町の近くに現れた魔族は倒した。どうやらリウを目の敵にしていたこととやたらこの町に魔物を送り込んでくるやつだった」
「魔物……と言うことはドラゴンも?」
「あぁ、あのとか……いや、ドラゴンもそうだ」
どうしてもあの弱い魔物がドラゴンと言いにくいマグナスはトカゲと言いたくなるのを堪えて、言い直した。
「なるほどな。でこの話を隠してたことと今になって話に来たと言うことは何かあるんだね」
ギルド長がその目を光らせる。
やはりギルドの上に立つものだ。マグナスはすこしだけ感心した。
「あぁ、最近行ったシーベルグでまた魔族の存在を確認した。そちらも倒したが、短期間で魔族の動きが目立ちすぎる。もしかして、この世界に異変が起きてるかもしれない」
そのマグナスの話を聞いてギルド長はすこし考える。
「わかった。私の方からギルド本部へ連絡をしておこう」
ギルド長が素直に話を聞いてくれて良かったとホッとしてマグナスはギルドを後にした。
◇
これでやれることはやったな……。
なんだか最近やけに頑張りすぎてる気がしたのでゆっくり休みたいな。
マグナスはよく働いた自分の体をいたわるように肩を揉んでいた。
するとリウが何を思ったのか、突然背中に乗ってくる。
「り、リウ、今は……」
凝った肩を揉んでいたのを邪魔するなんてと思ったがリウが乗って来たのは別の理由だった。
「私が揉んであげるよ」
そういうとリウはマグナスの肩を揉み始める。
あまり力がないので肩には効かないがリウがそういうことをしてくれると言うことがマグナスの心を満たしてくれた。
もしかしたら前の世界でなかったのはこう言うことかもしれないな。
「そうだ、この後時間あるか? 前みたいにまた魔法を教えようか?」
背中に乗っかっているリウに提案をしてみる。
すると彼女は嬉しそうにマグナスの頭の方へと登ってくる。
「うん、やりたいー!」
リウが嬉しそうに答えてくれる。
自分が守れる時はいいけど、この世界に来てすでにかなりのトラブルに巻き込まれている。
いつかマグナスの手に届かないトラブルが起こるかもしれない。
そんな時リウだけでもなんとか対応できるように……。せめてリウが自分の身だけでも守れるようにする……。それが彼女の世話をしている自分のすべきことだろうな。
気がつけばリウを肩車することになっているが、それは気にせずにマグナスは町の外へリウと一緒に魔法の練習へと向かって行った。