三十二話 食事
目を覚ましたとはいえ、アルティはまだ本調子ではなく、ラティオも今まで奴隷だったこともありあまり顔色は良くなかった。
マグナスはふたりの首の首輪跡を示しながら言った。
「二人はもう奴隷じゃないわけだから、あとは二人の好きに暮らすといい。ただ、この町は住みにくいだろうからな、俺たちはマルティンの町へ戻るから一緒に来るといい」
マグナスの提案に二人は素直に首を頷かせていた。
「じゃあとりあえずまずは飯にするか」
「わーい、ご飯だー!」
ご飯と聞いてリウが嬉しそうにする。しかし、ラティオとアルティはこの場に固まったままだった。
「俺たちも……食べていいのか?」
「何言ってるんだ?」
まさか飯を食わずに過ごすつもりだったのか?
少し苦笑を浮かべるマグナス。
するとラティオに向かってリウが笑みを向ける。
「一緒に食べよ?」
すると嬉しそうにラティオはうなずいていた。
◇
マグナスたちはそのまま獣人の女性のお店に行く。
と言っても今の場所がその食堂の二階なので降りて来るだけで料理を食べることができる。
早速女性がメニューを持ってきてくれる。
「こちらから料理を選んでください。アルティちゃんは飲み込みやすいものを準備しますね」
たしかにまだ本調子ではない彼女には食べやすいものにしてもらった方が良さそうだ。
ただ、そんなマグナスたちをよそにラティオとアルティはその場に固まっていた。
「えっと、これはなんて読むんだ?」
「それは狼肉のステーキだな」
どうやらメニューは渡されたもののラティオは文字が読めないようだった。
ただ、女性はそう言った人の対応にもなれてるのか、ラティオに対して「肉か魚、どっちが好き?」って聞いていた。
「肉ーーーー!!」
嬉しそうに大声を上げて来る。
ただ声を上げてきたのはラティオだけではなくリウもだった。
「お肉食べたいー!」
嬉しそうな声を上げながら手をあげるリウ。
それを見ながら少し苦笑をしつつマグナスは人数分の肉料理を頼んでおいた。
◇
料理が出てきてからもラティオとアルティは目を輝かせていた。
手にスプーンとフォークを待ち、再びその場に固まる。
そして改めて確認して来る。
「本当に……食ってもいいんだよな?」
口からよだれを垂らしながら何を言ってるんだか……。
マグナスは呆れながら頷くとラティオたちは脇目も振らずに目の前に置かれた料理を必死になって食べ始める。
すると突然店のドアが乱雑に開く。
「おい、店主はいるか!?」
店に全身をしっかりと装備で固めた男たちが入ってくる。
おそらく冒険者の面々なのだろう。でも外でたくさん呼びかけている中でこの店を選ぶなんて珍しいな。
そんなことを思い、少しだけそちらに気をかける。
「いらっしゃいませ。こちらメニューになります」
獣人の女性がメニューを渡す。
しかし、男たちは何かを注文する様子もなく、またメニューを見るそぶりすら見せない。
「別に飯を食いにきたわけじゃない。お前らがいることでこの町は迷惑してるんだよ!」
つまり、言いがかりをつけにきたわけだ。
飯時の邪魔をされたマグナスは少しだけ不機嫌そうになりながら男たちの前に立つ。
「こっちは食事中なんだ……。騒ぐならよそで……」
「そんなのは関係ねーな!」
男は持っていた剣を取り出すとリウたちがまだ食べている最中の料理をそのまま振り払う。
地面に落ちる料理。
それを見たリウたちは悲しそうな表情を見せる。
そして、男たちはそれを見て笑い声を上げていた。
とその瞬間にマグナスは見えない魔力の塊、魔力弾で男たちを吹き飛ばす。
何が起こったのかわからずに男たちは店の外に飛ばされて困惑する。
「いてて……、一体何があったんだ?」
打った部分をさする男たちの前にマグナスは立つ。
何も言わずにただ無言で……。
それでいて魔族とかと対峙した時並みの威圧を与えながら……。
「食事中と言ったのがわからないのか? 喧嘩を売って来るなら買うが?」
すると小さく悲鳴をあげて冒険者たちは散り散りになって逃げていった。
「あ、ありがとうございます」
獣人の女性がお礼を言ってくる。
そして、店の奥では料理を作っていた男の人も頭を下げてきていた。
ただ、食べていた料理を落とされたリウたちは悲しそうな顔をしていた。
「これ、食ってくれ」
奥の男の人が新しい料理を差し出してくれる。
それがリウたちの前に差し出されると嬉しそうにそれを食べ始めていた。
「いいのか?」
「あぁ、あいつらはいつも俺たちを追い出そうと来る奴らだ。むしろ追い出してくれて清々した。今日は遠慮なく食ってくれ」
嬉しそうに笑みを浮かべる男性。
しかし、それはどこか諦めにも似た表情だった。
それを感じたマグナスは流石にラティオたちの件で世話になったのにこのままではダメだなと思い、先程やってきた冒険者風の男たちの所在を探る。
どうやらこの街で一番大きな家に今はいるようだった。
このタイミングでそこに戻るということはここを襲うように言っていたのはその家の人物ということだろう。
「マグナス様、もしかしてさっきの人たちのところへ行こうとしてませんか?」
リウが小声で聞いてくる。
また勝手に出て行くと思われたのだろうか?
まぁ前にリウには心配をかけたからな。
マグナスはため息を吐くとリウに対して小声で言う。
「今晩、少し出かけるけどリウも行くか?」
すると間髪入れずにすぐに頷いてきた。
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