三十一話 買い物
服を買うと決めたマグナスは早速そのままの足でシーベルグの服屋へと向かう。
といっても詳しい場所は知らないので店が立ち並んでいる場所へとやってきた。
「服屋はどこにある?」
「どこだろうね?」
リウが目の上に手を当てて大げさに探す仕草をする。
それがあまりにリウに似合っていたので、マグナスは小さく微笑んだ。
するとリウが少し頬を膨らませる。
「むー、リウ、そんなに変な顔したかな?」
「くく……、いや、そんなことはない。とっても似合っていたぞ」
隠そうとするが、笑いを隠しきれなかった。
それを見たリウはマグナスに近づいてきて、ポカポカと軽く叩き始める。
当然全く痛みはなく、ただ恥ずかしがってやっているのだろう。
「もう、笑わないでくださいよー」
「くく……、す、すまん……」
それでもマグナスはしばらく笑いが止まらなかった。
そんな二人を見て、再びラティオはおいていかれたように呆然と見ていた。
「いや、悪いな。ラティオも服屋を探してくれないか?」
「あ、あぁ……」
少し呆れ顔ながらもラティオが一緒に服屋を探してくれる。
しかし、獣人であるラティオはあまり歓迎されていないようで渋い顔を向けられていた。
「ちっ、獣人か……お前に売るようなものはねぇんだ!」
「あっちに行きな。服に毛がついたらどうするんだ?」
何件か見つけたところを入るラティオだが、そのどれもで門前払いを食らう。
それを悔しそうにしながらもグッと堪えて次の店を探そうとしていた。
「むーっ、どうしてラティオは入ったらダメなの?」
門前払いをする店員に対してリウが頬を膨らませて聞いていた。
「お嬢ちゃんもこんな獣人に手を貸していると良いことがないぞ。なんて言ったってこいつらは俺たちの飯の種を――」
店員さんが言葉を濁らせる。
どうしてだとマグナスが後ろを見るとそこには以前あった獣人の女性がいた。
「どうかしましたか?」
獣人の女性が心配そうにマグナス達に声をかけてくれる。
するとリウが口を開こうとするがその前に服屋の男が「ちっ」と舌打ちをして店の中に入っていった。
こうなるとこの町でラティオ達の服を買うのは難しいかもしれないな。
「兄ちゃん、俺はこの格好でも大丈夫だぞ?」
ラティオが何も気にしていないように言ってくるがマグナス自身が気になる。
「服がいるのですか? それならうちに来てください」
女性が微笑みながら言ってくる。
そして、あの料理どころの方に歩いて行くのでマグナス達はその後を追いかけていった。
◇
「とりあえずその子はここで休ませてくださいね。多分宿には泊まらせてくれないでしょうから――」
女性がベッドの準備をしてくれたのでそこにアルティを寝かせる。
「この子たちは……奴隷?」
「えぇ、色々とありまして……」
詳しい事情は説明しなかったものの女性は概ね把握してくれたようだった。
眠ってるアルティの頭を軽く撫でながら思い出したように言ってくる。
「そうだ、着る服がないのなら私のお下がりをあげましょうか?」
「い、いいのか?」
そうしてもらえるとありがたいが、こんなたった一度料理を食べに来ただけの名前も知らない人物に渡してもいいものなのだろうか?
マグナスが少し心配そうな視線を送ると女性は小さく微笑んでいた。
「いいのですよ。困った時はお互い様ですし、私たちもこの町を出て違う町にいこうと思っていたのですよ。その移動の際に荷物になってしまいますからね」
どこか寂しそうにしながらも微笑んでくれる。
するとリウがまるで名案とでも言いたげに声を上げる。
「そうだ、それならお姉さんも一緒にマルティンへくるの」
たしかにあの町だと迫害するような人はいない……か?
そもそも獣人自体をあの町じゃほとんど見なかったので絶対大丈夫とも言えない。
ただ、あの町の領主には多少なりとも口利きができる。
「そうだな。あの町なら多少なりとも口利きができるから気が向いたら来てくれ。そうするとリウたちも喜ぶ」
マグナスが味方になってくれてリウは嬉しかったようで更に嬉しそうな笑みを見せていた。
それを聞いて女性は少し考えた後に「わかりました。少し考えてみますね」とだけ告げて、ラティオやアルティが着れる服を探しに行ってくれた。
◇
「ごめんね、少しお古で……」
女性が持ってきてくれたのは使い古された感はあるものの十分大切に着てきたのがよくわかる、想いの詰まった服だった。
「本当に……いいのか?」
ラティオが普通の少年の格好になった後、心配そうに女性は聞いてくる。
「えぇ、好きに着てくれると嬉しいな」
女性はそう言いながらアルティの方も着替えさせてくれる。
ただ、アルティはよほど衰弱していたのだろう、未だに眠りから目覚めていなかった。
「マグナス様、その子は大丈夫なの?」
「そうか、アルティの薬もいるのか。でも俺じゃ……」
ラティオが少し顔を伏せる。
「いや、大丈夫だ。その子の病気はすでに治したからな。あとは体調が戻るのを待てば問題ない」
マグナスがきっぱりと告げる。
しかし、ラティオは彼が何を言ったのかわからずに一瞬固まる。
「アルティが……治った?」
「あぁ、アルティを勧めてきただろ? その時に一目見て病気だとわかったからな。軽く治しておいたんだ」
マグナスにとってはそれほど労力のかかることではない。しかし、ラティオは本当に嬉しそうに目に涙を溜めながらマグナスの手を握ってくる。
「ありがとう。ありがとう。俺、もうアルティは治らないものだとばかり……」
涙を袖口で拭うラティオ。
そこまで喜んでもらえたマグナスは少しだけ気分が良くなった。
するとゆっくりとアルティが目を覚ます。
「うーん、お兄ちゃん、うるさいよ……」
大きく伸びをしながら眉を潜ませるアルティ。
顔色も良く、悪いところは見受けられない彼女を見てラティオは思わず彼女へと飛びついていた。
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