三十話 解放
リウに言われてマグナスはハッとなる。
確かにあの仕打ちを考えたらこの町にこの兄弟を置いておくのはまずいだろう。
ずっとここに置いておくよりはマシか。
マグナスははぁ……とため息を吐くとこの二人を買うために奴隷商が目覚めるのを待った。
◇
気を失っていた奴隷商がようやく目を覚ます。
そして、目の前にいたマグナスの顔をじっと見る。
その後にリウの顔を見て、最後に自分の首元を触る。
「ない……、ない……」
信じられない様子で奴隷商が慌てて首を触る。そして、以前そこにあった奴隷の首輪がなくなっていることを確認すると両手を上げそうなくらい喜んでいた。
「も、もしかしてあなた様が……!?」
マグナスにすぐ近づいてきて尊敬の眼差しを向けてくる。
そのあまりの変わりようにマグナスは少し困惑していた。
「あ、あぁ……」
「そうでしたか、そうでしたか。これでもうあの男の命令に従う理由はないのですね」
奴隷商の目には少し涙が浮かんでいた。
まぁ相手は何をしようとしていたかすらわからない魔族だ。
どんなことを命令されていたのかは想像もできない。
ただ、このままだと話が長引きそうなので、マグナスは奴隷商の話を途中で割って入る。
「それより奴隷を買いたいんだが?」
すると奴隷商はさらに感動する。
「ま、まさか私を助けてくださっただけでなく、私の店で買い物をしてくださるなんて……。本当によろしいのでしょうか? なんだったら好きな奴隷を差し上げても……」
もらえるのはありがたいがそれなりに高価な奴隷だ。もらってしまうと今後が怖い。
昔にそれで受け取ってしまった後に依頼を大量に頼まれて断れなかったことがあった。
そうならないためには――。
「いや、金は払わせてもらう。そこの獣人の兄妹をもらおう」
「本当によろしいのですか? 獣人がご入用でしたらもっと仕事のできる獣人を格安でご用意いたしますが?」
心配そうに言ってくる。
確かに元々妹のアルティは病気で兄の方は反抗的だった。命の恩人に対して何か粗相を働いてはと考えると奴隷商が別の奴隷を勧めたくなる気持ちもわかる。
それでもマグナスが欲しいのはこの二人なのでそこは意見を変えなかった。
「いや、この二人をくれ。いくらだ?」
「は、はい……。この二人ならセットで金貨五枚になります」
奴隷商が渋々値段を教えてくれる。
やはりそれなりの値段はするな。
ただ払えない額ではなかった。
「それじゃあこれで頼む」
マグナスは奴隷商に金貨五枚を渡す。
すると奴隷商は枚数を数えたあと、鍵を持ってきて二人の鉄檻を開けてくれる。
「本当にいいんですか? 一応規約として再び売ることはできても返品はできませんよ?」
再度確認して来る奴隷商。
しかし、マグナスは一度頷くとまだ体調の戻らないアルティを背中に担ぐ。
「お前は歩けるよな?」
少年に尋ねると彼は少し困惑したまま立ち止まっていた。
「お、俺……どうして?」
するとマグナスの代わりにリウが答えてくれる。
「だって兄妹なんだよね? 一緒にいないとね」
リウが少年へ向けて笑顔を見せる。すると少年は顔を少し染めていた。
ただ、そのことにリウは気づいた様子なくマグナスの側に近づいてきて嬉しそうに微笑んでいた。
「まぁ、そういうことだ。俺としてはここにいたいなら置いて行くがどうする?」
「行く、一緒に行くぞ!」
少年が力強く宣言する。それを聞いてマグナスは満足げに頷いた。
◇
奴隷商を出るとマグナスはまず二人の首輪に魔力を込めた。するとあっさりと奴隷たる首輪が外れる。
「えっ!?」
今まで自分を縛っていた首輪がこうもあっさりと外れたことに少年は驚く。
ただ同じことを経験したリウはニヤニヤと微笑んでいた。
「マグナス様はすごいんだよー」
「あ、あぁ……、本当に……すごいな」
驚きすぎて言葉が出ないようだった。
「まぁこれくらいそのうちリウも出来るようになるさ。それよりお前の名前は?」
ずっとこの少年の名前を聞いていなかったので改めて聞いてみる。
「あ、あぁ……そうだったな。俺はラティオだ。で妹のアルティ。あんたは……マグナス……様でいいんだよな?」
「いや、無理に様付けしなくていいからな。別に奴隷とするために買ったんじゃないから」
「ならどうしてだ?」
「このままこの町にいるには、ラティオはちょっと大きいことをやらかしてしまったからな。ちょうどこの町の依頼も終わったことだし、俺たちと一緒にマルティンの町へ来るといい。町まできたらあとは好きに暮らすといい」
リウみたいに俺たちと暮らしたいというのならそのときは何か考えるが、自分たちだけで過ごしたいならマグナスは無理に止めようとは思わなかった。
「……俺は――」
流石に奴隷だったラティオに突然こんなことを聞いても答えが返って来るなんて思っていなかった。
「まぁゆっくり考えるといい。今日はこの町でのんびり過ごして、明日にはマルティンへ出発するからな。……いや、のんびりする前におまえたちの服がいるな」
流石にこのまま奴隷服のままだとよくないだろう。
特に深い意味は考えていなかったもののそれがラティオにとっては驚きだったようで買うと言った途端にマグナスの方に振り返り、驚愕の表情を浮かべていた。
次回17日更新予定です