二十八話 魔族(前編)
奴隷商の奥の部屋へと進むマグナス達。
奥は普通に住居として使っていたのだろう、一般的な部屋へと出てきた。
ただ、問題なのは地下だ。
どこからか地下へと入る階段のような物があるのだろう。
「ここに何かあるのですか?」
リウが不思議そうに聞いてくる。
「あぁ、地下への階段がどこかにあるはずなんだが……」
こういう隠されたものを探すのは本当に面倒だ。
マグナスは少し嫌そうな顔をする。しかし、そんな時にリウが声を上げる。
「マグナス様ー、地下への階段ってコレですか?」
リウがテーブルの下にある扉を発見する。
「よし、よくやった!」
マグナスはおもわずリアの頭を撫でる。
すると嬉しそうに、でも役に立てたことを誇らしげに微笑む。
「でもどうして見つけられたんだ?」
「えっと……、なんか風が吹いてたの……」
なるほど……、確かにそれなら地下への入り口がよくわかるな。
リウの頭をさらに撫でつつ、意識をその地下への隠し扉へ向ける。
マグナスが感じた気配はまだ地下の奥深くなので扉をあけてすぐに何かが起こる……ということはないだろう。
それを確かめるとゆっくりと扉を開ける。
◇
地下にはたくさんの荷物が置かれていた。おそらくここは資材置き場で奴隷商の場所で使う物が置かれているのだろう。
魔力を調べるとほんのりと魔力を感知できる部分がある。
ただ数は多いことを考えるとそれはおそらく奴隷の首輪なのだろう。
「すこし怖いの……」
リウがマグナスに近付いてくる。
確かに日の光が入らない地下だ。当然のように薄暗い。
仕方なくマグナスは魔法で光の球を生み出す。
それはマグナス達の周りをまるで生きているかのようにふわふわと浮かんでいた。
その光によってマグナス達の周りは明るくなる。ただしこの魔法にも弱点があって相手に自分たちの場所を知らせてしまうという問題点があった。
ただ、ここにいる相手の場所はよくわかる。それならしっかりと行動できるように明かりはつけておいた。
「ふわふわなのー」
その光の球を触ろうとリウがそっと手を伸ばす。しかし、その光の球はさっとリウをよけて相も変わらずマグナス達の周りを回っていた。
「まてまてー」
それと追いかけっこを始めるリウを見てマグナスは少しため息を吐く。
「はぁ……、リウ、先に行くぞ?」
「あっ、待って。マグナス様ー」
リウは慌ててマグナスの後を追いかけ来る。それを確認した後にマグナスは先へと進んでいく。
◇
今日の薬はこれくらいで良いか。
魔族の男は多数の植物を育てにくくなる薬を奴隷商地下深くへと運んでいった。
どうして自分が……とも思うがさすがにこの薬を抑えられるわけにはいかない。
仕方なく自分が運ぶしかなかった。
「本当に人間族を滅ぼしていくと魔族の王になれるのか?」
言い伝えによると過去、魔王と呼ばれる強大な力を持った存在がいたらしい。しかし、それも七色の魔力を持つ魔法使いによって倒されてしまった。
それで今なおその王の席は空席であった。
今、魔族達はその王の座を取ろうと思い思いの行動を取っているようだ。
ただ、どうやったら魔王になれるのかもわからずに本当に魔族達は自分が考える魔王像がこういった物だからこんな行動をすれば魔王になれる……そう信じて動いていた。
そして、魔王になれたら強大な力を手に入れることができると聞く。
「魔王だったら人間族をいたぶる必要があるだろう」
口元をつり上げて微笑む魔族。
しかし、誰かに見られていなかったかとキョロキョロと周りを見渡す。
「ふむ、大丈夫だな。では今日はこのくらいにしておくか。まだまだやる仕事はあるもんな」
手持ちの薬も減ってきたし、それも作らないといけない。
思っていたより地味な仕事に少し苛立ちを感じつつも表にそれを出さないようにする。
ただ、ちょっと暴れたい気持ちになっていたのも確かだった。
もしこの場に侵入者でもいたら軽く吹き飛ばしてやるんだけど――。
まぁこんな奴隷商の地下へと来るやつなんていないだろうと自分で自分の考えを否定する。
しかし、その瞬間に辺りを強力な威圧が襲う。
それはただ、存在するだけで呼吸もできなくなるようなそれほどの強力な威圧。
ただ、目の前には誰もいなく、周囲を調べてみるが誰の姿もない。
それでも誰か侵入してきたと言うことだけははっきりとわかった。
このままだとやられる。
そう感じた魔族はこの場から逃げたくなるが、この地下は物で隠れる場所はあるものの道自体は一本道で逃げようとしてもこの存在が行く手を阻んでしまう。
あまりに強大すぎるその存在に足は震え、恐怖に駆られる。
でも逃げられないなら先に攻撃するしかないだろう。
魔族の男は物陰に隠れ、攻撃できるように手に魔力を込める。
この男は以前の魔族とは違い、物理による攻撃より魔法等の攻撃のほうが得意としていた。
今回も、いつでも攻撃できるように手に魔力を込める。その量は通常の人間では考えられないほど大量に……。
「くくくっ、いつでも来るがいい。いくら強い相手でも私が全力ではなった魔法を防げるはずがない」
魔族の男は少し顔を青ざめさせながらも精一杯の威勢を出し続けた――。
次回11日更新予定です