二十四話 港町、シーベルグ
マグナスの前には倒れた複数人の盗賊たち。
もっと粘ってくれるかと思ったがマグナスが一発魔法を放っただけで盗賊たちは吹き飛ばされ、その意識を刈られていた。
「もう終わったの?」
リウが体を起こしながら聞いてくる。
「あぁ……」
マグナスは頷くと盗賊たちが何かいいものを持っていないかと魔力を探る。
ただ当然のことながら魔力で探れるようなものは持っていないようだった。
まぁ持っているとは思っていなかったので落ち込むこともなく馬車へと戻って行く。
「あの人たちどうするの?」
リウが盗賊たちを指差して聞いてくる。
意識は失っているとはいえ、殺したわけではない。しばらくすると目がさめるだろう。
ただ捕まえるのも面倒だな。
「まぁこのままでいいか」
「うーん、よくないと思うの」
放置案はあっさりとリウに却下される。
「ちょっと待ってて。一応縛ってくるね」
ロープを取り出して盗賊たちを縛って行くリウ。
その手つきは妙に慣れているようだった。
「奴隷だった時に無理やりやらされていたから縛るのは得意だよ」
微笑みながら教えてくれる。しかし、それはあまり誇れるようなことではないなとマグナスは苦笑していた。
◇
盗賊たちを一箇所に集めた後、マグナスたちは隣町向かって再び出発する。
「変に時間が掛かってしまったな。なんとか日が暮れるまでに隣町までつけるといいが……」
変に盗賊たちに時間を使ってしまったせいで到着が思ったより遅れるかもしれない。
暗くなると門を締めるところもあるのでその町だったら厄介だな。
「とりあえず急ぐぞ!」
マグナスはリウにそう告げると急いで馬車を走らせて行く。
そして、太陽が傾き始め、少し暗くなってきたタイミングで隣町へとたどり着いた。
港町シーベルグ。
それがここの町の名前だ。基本的には素材の産地として有名で大きな湖が隣接している。
そして、船を使って様々な場所にその素材を送り出すことが多い。
それはどうやらマグナスがいたときと変わっていないようだった。
マグナスは門の順番待ちに並ぶ。
ただ、商人の行き来等が多いこの町はマルティンとは違い、門に控えている兵士の数が多い。
その結果、待ち時間が少なくあっさりと町へ入ることができた。
と言ってもこの町の門にも犯罪者判別の魔道具が付いていたのだが、あっさりと入ることができたのでそれを起動させる理由はないかとマグナスはここの魔道具を見なかったことにする。
町の中に入るとすでに夜になり、店あかりが道を輝かせていた。
「すごいー。なんか幻想的なの……」
リウが思わず感嘆の声を上げる。
きれいなタイルの引かれた街道、規則的に並んだ石造りの建物。その建物の明かりは思わず見入ってしまいそうなほどきれいな風景を生み出していた。
まぁマグナス自身は特段何も思わなかったが。
「リウ、まずは宿を取るぞ!」
さすがに町中を馬車連れて歩くには不向きなので門近くの宿を探す。
おそらくちょうど人の入りが多い時間だったのだろう。門の近くには宿の客引きが多数いてあっさり宿を確保することに成功する。
それだけ確保するとリウと二人夜の町へと繰り出す。
といっても食事を取るためなのでそれが終わったらリウは早めに宿へ連れて行かないといけない。
「なんか目移りしてしまうね」
初めてきた町と言うこともあるのだろう、リウはキョロキョロと周りを見ながらマグナスの後を追いかけてきていた。
「どこがうまい料理屋なのか……」
どうせ来たのなら良いものを食べたい。
そう考えたマグナスが小さく口に出すとあっという間に客引きの人に囲まれてしまう。
「どうですか? うちの店は良い肉が入っていますよ?」
「魚料理ならうちが一番!」
「やっぱり野菜でしょ! うちは今朝とれたばかりの野菜が――」
さすがに身動きのとれないこの状態にマグナスは不機嫌そうな顔を浮かべる。
にらみをきかせて退けようとしたそのときにリウがあるお店を指さしてマグナスに言ってくる。
「マグナス様! あそこ、あそこにしましょう!」
目を輝かせながらリウが言ってきたその場所は猫の獣人少女が店前だけで客引きをしていたお店であった。
お店は至って普通の様子で大きくもなく小さくもなく……平凡なところだった。
するとマグナスの周りに集まっていた客引きが顔色を変えて小声で言ってくる。
「お客様、悪いことは言わないですからあそこだけはやめておいた方がいいですよ」
「えぇ、最近特に悪い噂を聞きますので」
「最近この辺りの素材があまり取れないのもあの店が原因とかなんとか……」
ふむ、それはいいことを聞いた。
ちょうど食事を終えてリウを宿に戻した後に情報収集をしょうと思っていたが、その手間が省けた。
「情報感謝する」
マグナスは客引きたちに礼だけいうとリウのそばにより、先程指差していた獣人のいる店へと向かっていった。
「あっ、いらっしゃいませー。よければうちで食べていって……」
声がだんだんと小さくなっていき、最後は聞こえなくなってしまった。
ただ、情報収集するならここしかないとマグナスたちは店の中に入っていった。
次回29日更新予定です