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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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二十三話 馬車

 中に入るとそこはこぢんまりとした……宿のような場所だった。



「いらっしゃいませ!」



 出迎えはツナギ姿の少女がしてくれる。

 それは馬車屋だと普通のことでなんの違和感もない。


 ただ不思議なのはこの場所についてだった。


 どこにも……、馬の一匹すら見えない。



「あれっ、お馬さんは?」



 リウが周りを見わたして首を傾げていた。

 そんなリウを見て、少女は小さく微笑んでいた。



「ここは貸し出しの受付だけしてるの。お馬さんは別のところにいるよ」



 目線をリウの高さに合わせるために腰をかがめながら言ってくれる。


 ただリウはここに馬がいないと分かると少しがっかりとしていた。

 そんなリウを見てマグナスは苦々しく笑っていた。



「お馬さん……」



 リウが小さく呟くのを横目にマグナスは少女の前へといく。



「馬車を一台借りたい。いくらかかる?」

「えっと、馬車ですね。二人乗りの馬車なら一日金貨一枚で貸し出してますよ」



 意外と値がはるんだな。

 ただ、金に関してはここ最近の騒動で困っていない。

 それなら移動時間が短くなる馬車は使うべきだな。



「なら頼む。とりあえず三日分くらいだ」



 意外と距離があることを考えるとこのくらいは見ておいた方がいいと判断したマグナスは金貨三枚を少女に手渡した。



「一……、二……、三。はい、金貨三枚確認させていただきました。ではこちらについてきてください」



 お金を確認した少女が店の扉を開き、マグナスたちを外へと誘導する。



「リウ、行くぞ」



 落ち込んでいたリウに声をかけると慌ててマグナスの後についてくる。




 ◇




 馬は町の外に繋がれていた。

 数はおそらく二桁を超えるほどの数……。

 そして、それを見たリウは笑顔で馬に向かって駆け出して行く。



「うまーーー」



 しかし、そばに寄った途端に唾を吐きかけられて慌ててマグナスのそばに戻ってくる。

 そんなリウの様子をマグナスと少女は微笑ましく見ていた。



「ではこちらをお使いください」



 少女が一頭の馬がついた小さめの馬車を準備してくれる。



「これに乗るの?」



 嬉しそうにリウが聞いてくるのでマグナスは頷く。

 すると、嬉しそうに御者の席に飛び乗った。



「マグナス様ー、早く行こー!」



 楽しげにマグナスを呼ぶリウに苦笑しつつゆっくりと御者に腰を下ろす。

 そして、一応道すがら魔物がいないかを確認する。



「馬車を止めてまで戦う魔物はいない……か」


  厄介そうな魔物はいないのでマグナスは隣町目指して馬車を走らせる。




 ◇




「わー、はやいはやーい」



 馬車を走らせているとリウが嬉しそうに横ではしゃいでいた。

 動く馬車によってその髪をたなびかせながら伸ばした足をばたつかせる。



「あぁ、そうだな……」



 ぽかぽかとした心地よい陽気にマグナスはうたた寝したくなりながら御者をする。

 リウはこうやって旅をすることはなかったのだろう、とってもワクワクしている様子だった。


 それもそのはずで奴隷のときは旅は楽しいものではなかっただろう。売られて行くわけだからな。

 そう考えるとこういったのんびりした旅はリウにとっても初体験だ。


 まぁ自分も基本依頼のときは魔法で一気に飛んでいって解決することが多かった。

 そう考えるとこういう旅はありがたい。


 依頼自体の数が今は一つだけなのでそれほど急ぐ必要もない。

 たまにはこういったのんびりした旅もいいものだな。


 そんなことを思いながら更に先へと進んで行く。




 ◇




 しかし、ずっと同じ風景の繰り返してリウはすぐに飽きてしまう。

 初めは無言になり、体を左右に揺すっていた。

 それも飽きてマグナスの膝を枕にして眠り始めていた。

 体を丸め、スヤスヤと寝息を立てるリウにマグナスは微笑ましい目つきで眺める。


 今日はかなりはしゃいでいたからな。

 その頭を軽く撫でながら御者を続ける。


 前まではどこか距離があった気がしたが、こう膝で寝てくれるまでには心を許してくれたということだろう。


 しかし、そんな心地よい時間を邪魔する存在が現れる。


 盗賊か……。


 マグナスが周囲を再び察知すると人の気配を感じた。


 その人数は……十人ほどだろうか?


 せっかくのんびりしていたのにそれを邪魔されたマグナスは少し不機嫌であった。

 馬車をその場に止める。するとリウがまだ眠そうに目をこすりながら起きてしまう。



「……何かあったの?」



 あくびを噛み殺しながら聞いてくる。



「いや、リウは休んでていいぞ」



 マグナスは眉をひそめながら馬車から降りる。

 当然のことながら盗賊たちは姿を見せない。


 わざわざその身を隠している利点を捨てるようなことはしないか。


 ただ、それはそれで面倒なのでマグナスは頭をかきながら声を上げる。



「いい加減でてきたらどうだ?」



 するとその言葉を皮切りに隠れていた盗賊が姿を見せる。その誰もがニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 マグナス一人を相手に負ける気がしないのだろう。


 それはマグナスも同じであった。



「くくくっ、たった一人で何ができる。金目のものをおいていけば命までは取らねー」



 盗賊の一人がニヤケながら言ってくる。


 やれやれ、相手との力の差も測れないのか。


 マグナスは、はぁ……と大きくため息をはいた。

次回は26日更新予定です

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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