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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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二十二話 パフェ(後半)

 リウがオムレツを全て食べ終え、名残惜しそうに空になった皿を眺めているとフィリオがパフェを運んでくる。


 それを見た途端にリウが姿勢を正し、そわそわとし始めたのは見ていて少しおかしかった。

 小さくマグナスが笑うとリウは照れたようで少し顔を染めて頬を膨らませていた。


 しかし、それも目の前にパフェが置かれると一瞬で機嫌を直していた。

 目を輝かせながらまるで時が止まったかのようにリウの動きも止まる。



「食べないのか?」



 身動き一つ取らないリウに思わずマグナスが聞く。

 すると我に返ったかのように、ハッとなり慌ててスプーンを手に取るとパフェの生クリームを一すくいする。


 そして、そのままそれを口へと運んで行く。

 そのまま先ほどのような恍惚の表情に……ならずにリウは不思議そうに首を傾げていた。



「どうしたんだ?」

「んっ、なんでもない……」



 少し困惑しつつもなんとか作り笑顔を見せて来るリウ。それだけで何かあったことは一目瞭然だった。

 ただ、リウはもう一杯パフェをすくい、口へと運んでいった。


 そこでようやく先ほどの疑問が確信は当たったようでリウがその場で立ち上がり、はっきりと述べる。



「このぱへ、甘くないの!」



 すると奥からフィリオが出てきて、謝って来る。



「ごめんなさい。なんとか元の味に近づけようと試してみたのだけれど、どうしてもそこが限界で……」



 今にも泣きそうな顔をするフィリオに事情を聞いてみる。



「どうしてそんなことになっているんだ? 以前リウが食った時はそんなことなかったはずだが?」

「うん、とっても甘かったの」



 リウがその甘さを両手で表してくれる。ただ、その度合いは当然見てもわからないのでそのままフィリオの方を向く。

 すると彼女は小さな声で説明してくれる。



「このパフェなんですけど、甘くするためにシュガー草という植物を使っているんですよ。ただ最近その採取場所に異変があったみたいでシュガー草が全く取れなくなってしまって……」



 まぁ甘い植物なんて野生に住む魔物達にはご馳走だからな。

 そう考えるとその収穫地に魔物大量発生とかの異変が起きていてもなんら不思議ではない。


 町を襲われたとかじゃなくてよかった。


 少しホッとしつつ、それなら自分にできることはないと会計しに行こうとする。

 しかし、そんな彼の服をリウがしっかりと掴んで離さなかった。



「これは一大事なの!!」



 そして、少し鼻息荒く興奮した様子でマグナスに言ってくる。

 そんなリウの隣でフィリオも期待のこもった目で見て来る。


 二人のその様子を見てマグナスはため息を吐く。

 たしかにここはリウの好きな店でシュガー草取れないと悲しむだろうな……。


 マグナスはリウの落ち込む姿を想像する。

 彼女が落ち込んでいるだけでマグナスも落ち込み、なんだか場の雰囲気が悪くなる……そんなイメージが容易にできた。


 そんな状態でとても休むことはできないよな?


 もう一度マグナスはため息を吐く。

 そして、覚悟を決め二人に言う。



「わかった。その原因を調べに行くからシュガー草の生息地を教えてくれ!」



 その言葉を聞き、リウは嬉しそうにマグナスへ飛びつき、フィリオは感激のあまりその場で泣き出してしまう。



 ◇




 そして、二人が落ち着くまでしばらく待ちようやくシュガー草の生息地を聞くことができた。


 この町からより隣町からの方が近そうなほどその距離は空いていた。

 流石にそこまで行くとなると歩いて行くのは面倒だな。かといって魔法で飛んで行くのも……。


 マグナスは隣にいるリウを見る。


 まぁリウなら誰かに話す……なんてことはしないだろうな。でも意外と隣町に近い場所でその草が生えている。

 下手に隣町の人物に魔法を使っているところを見られたら厄介なことになりかねない。


 そう考えると必然的に移動手段は徒歩か馬車の二択になる。

 徒歩だと流石に時間がかかりすぎる。

 それなら馬車を借りるしかないだろう。


 すぐ向かいにある馬車屋へと移動する。

 動いたと言えるかどうかの距離にあるそのお店は馬車屋だからといって、中に馬がいるわけでもなく、本当にただの家に看板が掲げられているだけであった。



「本当にここは馬屋なのか?」



 不安を抱きながらもその店の扉をノックする。

 すると中からしわがれた老人の声が聞こえる。



「空いてるよー。入ってきなー」



 その言葉を聞き、マグナスは少なくともここが何かのお店であることはわかり、一安心する。


 どうやら教えてもらった住所に間違いはないようだ。

 問題は馬屋なのに中からその気配を感じないことだ。


 たまに散歩をしているのか……いやこの付近には全く馬らしいものが存在していなかった。


 一体どういう店なのか……。

 昔の馬屋はすぐそばに放牧用の敷地に馬が放されていて、必要なときに借りることが出来た。


 ただいつまでも過去の出来事で立ち止まっていては中に入ることもできない。


 ここはもう覚悟を決めるしかないと自分に言い聞かせるマグナス。

 そして、一度空気を吐き出すとゆっくり扉の中に店の中へと入って行った。

次回『二十三話 馬車』は23日更新予定です。

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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