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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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二十一話 パフェ(前編)

 店の中に入ると女性の店員が出迎えてくれる。



「いらっしゃいませ。お二人でよろしいでしょうか?」

「あぁ」



 テーブルに案内させると奥から別の女性が出てくる。

 少し青みがかった黒髪の女性。大人の人らしくリウと違い出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるその女性をマグナスは見たことがあった。

 その人は以前あった女性であった。

 その女性もマグナスの顔を見て彼のことを思い出したのか、突然頭を下げてくる。



「あの時は申し訳ありませんでした!」



 まだあのとき水をかけたことを気にしていたのだろうか?

 マグナス自身はそれほど気にしていなかったのに――。



「いや、気にしなくて良い。それよりメニューをもらっても良いか?」



 店内はかわいらしい小物とこじゃれたテーブルや椅子が置かれている物のテーブルの上に肝心のメニューが置かれていなかった。



「あっ、しょ、少々お待ちください……」



 女性は慌ててカウンターの奥に入っていく。

 そして、急ぎ気味にメニュー表を抱えて戻ってくる。

 が、そのタイミングで服の裾を踏んでしまい、その場で倒れてしまう。

 そのあまりにも鈍くさい動きにマグナスは思わず顔に手を当てて呆れてしまう。


 女性は顔だけ上げて赤くなった鼻頭をさすりながらその場に座り込む。

 そこでやれやれといった感じにマグナスが手を差し伸べる。



「あ、ありがとうございます……」



 女性は照れたようにはにかむとそっとマグナスの手に自分の手を添える。

 そして、その場に起こしてもらうとしばらく惚けたようにマグナスの顔を見ていた。



「どうかしたか?」



 その仕草を不思議に思ったマグナスが聞いてみると女性は慌てて手を離し、頬に手を当てていた。



「い、いえ、何でもありません。あっめ、メニューですね。こ、こちらをどうぞ……」



 女性はマグナスにメニューを渡すとさっと店の奥に戻っていく。

 しかし、すぐに顔だけ出すと小声で聞いてくる。



「あ、あの……、お客さん、名前聞いてもいい……かな?」



 そこまで恥ずかしいことだろうかと思うが、この女性には難易度が高かったようで顔を真っ赤にして顔を手で覆っていた。

 マグナスははぁ……と大きくため息を吐くと「マグナスだ」と自分の名前を伝える。


 すると女性は嬉しそうに笑みを見せてくれる。そして一言、「私はフィリオ……だよ」というと奥へと戻っていった。



「あれっ、リウは?」



 自分だけ名前を言わなかったリウが不思議そうにマグナスとフィリオが消えたカウンターの奥を交互に眺めていた。




 ◇




 でも、いくら奥に隠れていたとしても注文を取ってもらうときには戻ってくるわけで……。



「ご、ご注文は……どうしますか?」



 赤い顔のままぷるぷると肩を振るわせるフィリオを見ていると少しかわいそうなことをしたかなと思うが楽しそうにしているリウの期待に背くことは自分にはできない。

 そう感じたマグナスはフィリオの顔を見ずにメニュー表だけに集中しながら注文をする。



「俺はこの新鮮玉子のオムレツを……。リウはどうする?」



 一応確認がてらリウに聞いてみる。すると彼女は手を上げながら答える。



「ぱへー!」

「だからそれはデザートだ! まぁオムレツをもうひとつくれ。あと食後に昔もらったパフェを頼む」



 パフェと言った途端に顔を少しだけ曇らせる。

 当然その様子に気づいたマグナスだが、すぐに笑顔を見せてくるフィリオに勘違いだったかと少し首を傾げるだけだった。




 ◇




「こちら、新鮮なコカトリスの卵を使ったオムレツになります。なんとこの卵、今朝取れたばかりのものを使用してるんですよ」



 料理を運んで来たのはフィリオとは違う人だった。

 どうも恥ずかしさのあまり完全に奥へと引っ込んでしまったようだ。


 それほど気にしなくてもいいのになと思いながらマグナスはそのオムレツを口に運ぶ。



「うん、うまいな」



 半熟の卵とそこにかかったソースが絶妙な味を醸し出していた。

 そして、それがマグナスだけではないことは向かいに座るリウをみれば一目であった。


 彼女はあれだけパフェが食べたいと言っていたのに今は目の前に置かれたオムレツを慣れない手つきで握ったスプーンで悪戦苦闘しながらも食べていた。


 少しテーブルにこぼしたり、頬につけたりしながらも口の中に入れた瞬間に浮かべる恍惚の表情を見ていればリウが喜んでくれていることは明らかだった。



「おいっ、頬についてるぞ?」



 マグナスはリウの頬についていたソースを拭い取る。

 それを少しくすぐったそうに目を細めながらも軽く「んっ」と頭を下げるとリウはすぐにまたオムレツを食べ始めていた。


 そんな彼女を見ていてマグナスは少し微笑ましく思うとともにここまでゆっくりとした食事はずいぶん久々な気がすると思っていた。



 前の世界では休む時間すらなかったので、食事は依頼をこなしながらか取らないことも多々あった。

 よくそれで生きてこられたなと今のマグナスは呆れしか浮かばずに苦笑をしていた。


 するとマグナスがまだ半分くらいしか食べていないのにもうリウは食べ終わったようで空になった自分の皿とマグナスのまだ残っているオムレツを見比べる。


 そして、物欲しそうにじっとマグナスの皿を眺めてきた。

 まぁ自分はこれだけ食べたら十分か……。

 自分の腹具合を確認するとマグナスは手元の皿をリウの方へと押しやった。



「……いいの?」



 心配そうにマグナスを見てくるリウ。しかし、マグナスが頷いたことを確認すると視線を皿の方へと向けて、再び一心に料理を食べ始めていた。

次回『二十二話 パフェ(後編)』は20日18時更新になります

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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