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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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二十話 人形

 魔族の男による脅威が去った後、町は平和に戻っていた。

 といっても残された爪痕は大きく、未だに完全に元には戻っていない。

 もちろん、それが魔族の男によるものだということは誰も知らず、マグナス自身も記憶にすら留めていなかった。



「ねぇ、ねぇ、マグナス様。今度はあっちに行ってみていい?」



 始めは少し硬かったリウも数日一緒に過ごしていたことで、その硬さはだいぶ取れてきて、今では自分がしたいことを進んでいうまでになっていた。



「あぁ、好きなところをみるといい」



 マグナスは小走りで自分が見たい方へ向かうリウの後をゆっくりと追いかける。

 いくら走っているとはいえ小さなリウなので、マグナスが歩いて追いかけてもそれほど距離が離されることはなかった。


 そんなに嬉しそうにして何が楽しいんだろう……。

 マグナスは面倒そうな顔をしながらも口元だけは少し笑みを浮かべてリウの後を追いかけて行った。



 ◇




 さすがにゆっくり歩くマグナスではしばらく経つとリウの姿が見えなくなってしまう。

 しかし、見えなくなったのは一瞬でリウはとある屋台の前で止まっていた。



「マグナス様、マグナス様、これはなに?」



 リウが指差して聞いてくる。

 そこには何やら木で作られた人形のようなものが置かれていた。

 確かこれは人を呪う時に剣を突き刺す魔法用の道具だったはず。



「これは呪いの人形と言って人に呪いをかける時に――」



 マグナスが説明しようとすると屋台に立っていた男が笑ってくる。



「はははっ、いつの時代の話をしてるんだ? これは幸せの木人形と言ってこの人形に自分が思う人の名前を書いて毎日祈るとその人に危険なことが起こらないというものだぞ」



 これが幸せの人形?

 マグナスは少し集中してその木の人形を調べるが呪いや魔法的な作用は何もない、本当にただの木だとわかる。


 なるほどな……。お守りみたいなものか。特別な効果はないし、見た目は少女のような人形……、リウが欲しがるのもわかるか。


 ジッと眺めるものの何も言ってこないリウのためにマグナスは少し溜息を吐きながら「この人形はいくらだ?」と聞く。


 男が言ってきた金を払うとマグナスは人形の一つをリウに渡す。


 それを体全体で受け止めるリウ。

 その表情は驚きでいっぱいだった。

 何度も人形とマグナスを見比べてどう反応していいかわからないでいた。



「それが欲しかったんだろう……?」



 ぶっきらぼうにいうマグナス。

 あまりこうしたことはしたことがないのか、少し照れを見せてすぐにリウから視線を逸らす。


 ようやくマグナスが自分に買ってくれたんだと理解したリウは、満面の笑みを浮かべマグナスの顔が見えるように移動する。



「ありがとう、マグナス様。大切にするね」



 嬉しそうな顔をしてるリウをみるとたまにはこういうこともしてもいいかもな……と少し心おだやかな気分になっていた。




 ◇




 それから次は食事処へと向かう。

 しかし、お店もいくつかあるためにリウに確認を取る。



「リウは何か食べたいものはあるか?」

「んーっとね、ぱへぇー」



 ぱへぇー? あぁ、パフェか。


 嬉しそうに人形を上げるリウ。一度だけ食べたことがあるのだが、その甘く冷たい生クリームと様々な果物のパフェが忘れられないようだった。


 ただ、それは食事というよりはデザートだな。


 でもそのパフェが売ってる店はこの町に一つしかないので、昼食はそこでいいだろう。



「それじゃあ店に向かうか?」

「うん!!」



 リウは大きく頷くとスキップしながら店の方へ向かっていった。

 それを苦笑しつつマグナスも追いかけていった。




 ◇




 パフェがある店。それは町の中央部、マドリー商会の四件隣にある小さく小洒落たところだった。

 独特の半円形の窓や色とりどりの花が咲き誇るファンシーな場所だった。たださすがにマグナスのような男が入るような店ではなかった。



「そういえば初めてはいる時はかなり抵抗があったんだよな……」



 このお店に初めて来た時のことを思い出してマグナスは少しだけ乾いた笑みを浮かべる。

 あの時の話はたまたまここに水やりをしていた女性が足を踏み外し、そのままマグナスに水を被せてしまったことから始まる。

 その人はこのお店の店主で慌てた女性が断るマグナスを引きずって中でタオルを渡して来た。


 まぁその好意は断る理由がないかとついた水をぬぐっていると「お詫びの品です」といってパフェを持って来てくれた。


 隣でそれを見たリウは目を輝かせてパフェを眺める。

 少し顔を乗り出して、口元にはよだれをつけながら……。


 それを見てマグナスは苦笑を浮かべる。

 そして、目の前に置かれたパフェをリウの方に押しやる。

 するとリウはそれにつられるように視線を動かしながら驚いて聞いてくる。



「いいのですか?」

「あぁ、食うといい」



 するとリウは嬉しそうにスプーンを手に取り、ゆっくりとパフェを一すくいする。

 そして、ゆっくりとそれを口に運ぶ。

 その瞬間にリウの顔は恍惚の表情へと変わる。


 これが初めてこの店に来た時の出来事だ。

 そして、リウはどうやらこの店のことが忘れられなかったようだ。

次回『二十一話 パフェ』は18日18時更新予定です

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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