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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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十八話 黒龍王の牙

 さすがにすでに堂々と見せていたものを隠すこともできない。

 マグナスは牙を隠そうとしないでため息を吐く。



「それでマグナス殿、そちらの牙は?」



 ギルド長が不思議そうに聞いてくる。



「いや、これはたまたま取れた素材だ」



 詳細については隠そうとするもののそれが返ってギルド長の期待を煽ってしまった。



「見せてもらってもいいか?」



 ダメと言っても余計怪しまれるだろう。

 溜息を吐くとマグナスは仕方なくギルド長の側に牙を下ろす。


 それをじっくり隅から隅まで調べて行くギルド長。

 しかし、それでは足りないようで軽く叩いたり、指で弾いたり等も試していった。


 すると初めは興味深そうな顔をしていたギルド長だが、調べるごとにその表情は驚嘆のものへと変わっていった。



「これ、本物か? マグナス殿が持っていたのじゃなかったら偽物と言い切りたいのだが……」



 ブツブツと呟くギルド長。

 しかし、ついには両手を上げてマグナスに聞いてくる。



「降参だ。かなり高位の魔物の牙だとは思うが、それ以上は分からなかった。何か教えてくれないか?」



 ここで正解を答えていいものか考える。

 さすがにものがわからないならそこまでしなくていいだろう。



「いや、これは俺も拾ったもので――」

「とっても大きな黒いドラゴンから手に入れたものなの」



 リウがその小さな体を使い、両手を広げることで大きさを表そうとしていた。

 しまった。リウの口止めを忘れていた。

 マグナスは額に手を当てて首を横に振る。


 そして、ギルド長は一瞬信じられなかったが、その牙の大きさ、自分が見たことのない種類、今の言葉、その全てを鑑みてリウの言っていることは正しいことだと判断する。



「そうか……、当然そのドラゴンはあのドラゴンではないんだろう?」



 もうここまでバレてしまっては素直にいう方が話が簡単に進むかもしれない。

 マグナスは呆れ顔をしながら一度首を頷かせる。



「あぁ、もっと大きい奴だ」



 余計なことは言わないようにする。

 するとその意を汲んでくれたギルド長はそれ以上何も聞いてこなかった。



「この牙はもちろんうちで売ってくれるんだろう?」



 そうじゃないとわざわざこんなものを持ってくるはずがない。

 これほどの牙だ、さぞ優秀な武器が作れるだろう。


 期待のこもった目でマグナスを見るギルド長。



「あ、あぁ、それは構わないが……」



 持っていても邪魔になる。

 ドラゴンを撃退した証拠にと仕方なく持ってきたものなので、貰ってくれるならありがたいくらいだ。


 ただ、思っていた以上にギルド長が欲しそうにしているところを見るとマグナスは逆に気圧されてしまう。


 するとギルド長は嬉しそうに何度も首を頷かせていた。




 ◇




 ギルド長に牙を渡したあと、マグナスたちは冒険者たちのパーティに加わった。

 といっても今回は本当に飛び入りだったため以前のように別テーブルで堅苦しい食事……ということもなくわいわいと騒いでいる中に入っていける。



「おう、坊主! しっかりと食ってるか?」



 突然後ろから肩を叩かれた方思うと皿いっぱいの肉を渡してくる体の大きな冒険者。

 ギルド長は遠目でハラハラしながらその様子を見ていたが、マグナス自身は特別扱いされずにこうやって自然と接してもらえることが逆に嬉しく笑みを浮かべていた。



「マグナス様……、そんなに食べるのですか?」



 自分の料理を取ってきたリウがマグナスの持つ皿に入っている肉を見て驚きの表情を浮かべていた。

 それを見て流石に自分だけではこれだけは食べられないとマグナスは苦笑する。



「リウも食うか?」



 そっと自身の皿をリウの目の前に差し出す。



「わ、わかりました。いただきます」



 覚悟を決めたリウと二人で皿に盛られた料理を片っ端から片付けていった。




 ◇




「そろそろあのドラゴンが討伐された頃か?」




 魔族の男が口を釣り上げながら微笑んでいた。

 流石に自分と同程度の力の持ち主があの程度で倒されるとは思えない。

 しかし、それなりに苦戦することはわかる。

 つまり、今ならかなりの力を使い疲弊している頃だろう。


 それならば今攻めればあいつは倒すことができるな。


 あの厄介な魔法使い……今を逃すともう二度と被害なく倒すことはできないかもしれない。



「よし、行くか」



 覚悟を決めると魔族の男はその重い腰を持ち上げて、ゆっくりとマグナスがいる町の方へと向かっていった。




 ◇




「ふぅ……、もうお腹いっぱいです」



 リウは大きくなったお腹をさすりながら満足そうに微笑んでいた。


 マグナスも少し苦しいくらいに食事をとることができた。


 ただ、彼らの周りは未だに酒を片手に騒いでる冒険者たちばかりだ。


 みんなほろ酔い気分でこのまま酔いつぶれるのだろうということは大いに想像できる。


 苦笑しつつもマグナスは近くに置かれた酒を手に取ろうとする。

 しかし、その手は空虚をつかもうとしていた。



「あれっ?」



 酒が置かれていたと思ったところはいつのまにか何も置かれていなかった。



「ダメですよ! マグナスさんにはまだ早いです!」



 受付のミグリーがマグナスが取ろうとした酒を先にとってしまったようだ。

 早いも何もおかしいことじゃないだろう……。

 少し悪態をつきたくなったが、よく考えると今の見た目だとそう言われても仕方ないか……。



「マグナス様、よかったらこちらをどうぞ」



 リウがジュースを渡してきてくれる。

 まぁ何もないよりはましか……。


 マグナスは苦笑い気味にそれを受け取ると一口つける。

 しかし、そのタイミングで黒龍王ほどはいかないまでもそこそこの……あのトカゲよりは大きな魔力を感知する。

次回『十九話 VS魔族の男』は14日18時更新予定です。

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『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

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