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スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。  作者: 空野進
第1章大賢者、転移する
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十六話 ドラゴン(後編)

「お前ら、もうじきドラゴンがくるぞ! 準備はいいな!」



 ギルド長が冒険者たちを鼓舞して東門へと向かっていた。

 しかし、誰もが顔色を青くしていた。

 自分たちではとてもドラゴンにかなわない……時間稼ぎをするのが関の山と……。

 するとそんな自分たちの命運を表しているのか、空に暗雲がたちこめてくる。



「大丈夫だ! 俺たちには……」



 マグナスがこの場にいれば冒険者たちを安心させることもできただろう。

 ただ、そこまでの無茶は彼に頼まなかった。


 まず生きて帰れないこの依頼は……。



「とにかく生きて帰るんだ!」



 ギルド長が声を上げる。

 するとそれと同時に空から雷が落ちる。


 それは平野のど真ん中に落ちていた。



「か、神が怒っているんじゃないのか……?」



 冒険者の一人が呟くとその不安が周りに広がっていく。

 そして、逃げ出すものが現れる始末であった。

 しかし、それを咎めることもギルド長にはできなかった。

 現に自分も逃げられる立場なら逃げ出したかった。


 しかし、そう言うわけにもいかない。

 ギルド長は覚悟を決めるとドラゴンがいる東門へ向かう。


 しかし、待てども待てどもドラゴンが街へ来る様子はなかった。



「あれっ?」



 受けた報告ではもうそろそろ襲ってきてもおかしくない……はず。



「様子を見に行く。ついてこれるものは私とともに」



 ギルド長は何人かの冒険者とともに東の方へと偵察に向かう。

 するとやはり報告通りドラゴンの姿を発見する。


 しかし、その様子は明らかに変だった。

 全く動く様子がなく、真っ黒なその体はいたるところから煙が上がっている。


 それを見て冒険者のマリーが思い出したように声を上げる。



「もしかして、あの少年()がやったのかも」



 彼女の声を聞き、少年という言葉からギルド長はマグナスの顔を思い出す。


 たしかに彼なら……いや、ドラゴンをこんな風に倒せるなんて彼以外考えられない。


 つまり、私の様子から異変を察知して自ずからドラゴン討伐に出てくれたんだ……。


 もう危機は去ったと思うとギルド長は腰を抜かし、乾いた笑みをあげていた。




 ◇




 もう随分と歩いただろうか?

 マグナスたちはようやくドラゴンの存在を感知した山脈へとやってきた。


 やはりドラゴンは町を襲う様子を見せず、この山脈から動こうとしていなかった。



「ま、マグナスさん……、この気配……」



 流石に山脈までやってくるとリアにもその存在を感知できるようだった。

 マグナスのように魔力を隠したりしないで、あえて放出する。


 それによって強さの威厳を出しているのだろうが、わざわざ居所を教えているだけなのにな。


 マグナスは苦笑を浮かべながら更に山脈を登って行く。


 ようやく、山頂にたどり着くとようやくドラゴンらしい姿を見かけることができた。


 美しく輝く漆黒の体に大きな翼、鋭く銀色光る爪、人くらい丸呑みできそうな大きな口。そして、周囲にまき散らす威圧がそのドラゴンが強者である証でもあった。


 もちろんドラゴン自体も己以上の力を持つ者にあったことがほとんどないのだろう。


 ただ、今目の前にいるマグナスを見た途端にこのものには勝てないとわかり、冷や汗がだらだらと流れ出していた。



「お、お前は一体……」



 恐怖を帯びた声でマグナスに問いかける。

 しかし、マグナスは平常を保ったままめんどくさそうに頭をかく。



「まさか黒龍王が相手とはな――」



 マグナスは睨みを効かせる。

 相手はドラゴンの中でも名が広まってた。しかも、前の世界でだ。


 それからどれほど強くなっているのかは想像できない。

 まともに戦うと自分も危ないかもしれない。


 そう思いつつ、戦う構えを取る。


 いつでも魔法を放てるように手を前に出して、魔力を体内に循環させる。


 そのマグナスの様子を見ていたドラゴンが呟いてくる。



「もしかして、あんたはマグナスの子孫か?」

「マグナスさんはマグナスさんです」



 リウがおびえながらもドラゴンに向かって告げる。



「そうか……マグナスの名は引き継がれるんじゃな……」



 ドラゴンは警戒を解いて地面にひれ伏す。



「何か知っているのか? マグナスについて」



 自分はこのドラゴンにはあったことがないはずだけど……。

 不思議に思いながら聞き返す。

 するとドラゴンはまるで英雄を見るような目つきをしながら話してくれる。



「我の言うマグナスというのは昔に存在した大賢者のことを指してるのじゃ。ドラゴンの間でも恐れられると共に賞賛されていたまさに伝説の大賢者と言っても過言ではない人物だったんじゃ」



 そこまで褒められるようなことをしただろうか?

 自分は日々の依頼を必死にこなしていただけなのに――。



「そうじゃな……、例えば依頼を出せば嫌そうな顔をしつつも確実にこなしてくれることとか、人間に襲われている子竜を守ってくれたりだとか……とにかく逸話の多い人物だった。しかし、突然姿を消してしまったと聞くな」



 そして、ドラゴンは慌てたように言ってくる。



「と、とにかく、マグナスの名を冠する者とは戦いたくない。何でも望むことをするから見逃してくれないか?」



 マグナスに向けて頭を下げてくるドラゴン。

 さすがにこれを見られていたら大変なことになっただろうなとマグナスは苦笑を浮かべていた。


次回『十七話 帰還』は4月10日か11日の18時更新予定です

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新作始めました。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『転生領主の優良開拓〜前世の記憶を生かしてホワイトに努めたら、有能な人材が集まりすぎました〜』

こちらはマグコミさんにてコミカライズしております。よろしければ、下記タイトルからどうぞ↓

『コミカライズ版、スローライフがしたい大賢者、娘を拾う。』

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