十五話 ドラゴン(前編)
領主は真剣な顔つきでマグナスをじっと見つめてくる。
「マグナス殿、貴殿もドラゴン討伐の手を貸してくれないか? この町が滅ぶかもしれぬ危機なんだ……」
確かにドラゴンが攻めてきたとなると一大事だ。この町の冒険者が束になっても勝てないだろう。
トロールで苦戦してるようじゃ……。
さすがに町が滅ぶようなことが起こると夢見が悪い。やれる人間が自分しかいないならせざるを得ないか……。
マグナスはため息を吐いた。
「それでドラゴンはどの方角にいたんだ?」
「えっと……」
兵士は突然マグナスから質問が来たことで困惑の声を上げる。
「答えてやれ」
領主のその言葉に兵士はまっすぐとたち、答えてくれる。
「はっ、ドラゴンはここより東の距離からまっすぐこの町を目指していると思われます」
東か……。
マグナスは兵士に言われた方角を探知して見る。
そして、かなり強大な力を持った存在を発見する。
このくらいの力があれば前の世界でも間違いなくランクSクラス……マグナスが間違いなく呼ばれていたであろう力の魔物がそこにいた。
ただ、こちらに向かっているというよりは一番近くの山へ向かっているように見えるが、それでも脅威には違いない。ただ勘違いということもある。一応魔物のランクだけ聞いておくか。
「そのドラゴンは魔物のランクでいうとどのくらいになりますか?」
「もちろんドラゴンが相手となるとランクSは最低でもつくだろう。いや、下手をするとそれ以上だな」
やはり自分が感知した魔物で間違いなさそうだ。
Bランクくらいだとちょうどトカゲの魔物が近づいてきているのでそちらの可能性もあるなと思っていたが、まぁトカゲくらいで慌てたりしないよな。いや、そのとかげならCランクと言われても納得してしまうかもしれない。
少し早計だった考えを少し反省する。
「わかった。できる限りはしよう」
流石にこの町から遠方の山まで行くには少し時間がかかりそうだ。
◇
領主の家を出るとマグナスは早速ドラゴンのいる山脈を目指した。
町の中……特に冒険者ギルドが騒がしかったところを見ると今ドラゴン討伐の人材を集めているのだろう。
ちょうどマグナスが冒険者ギルドの前を通った時にギルド長も声をかけてきた。
「マグナス殿、ちょうどよかった。貴殿もドラゴン討伐に協力を……いや、無理は言えないか。すまない、忘れてくれ」
期待のこもった目を向けたギルド長であったが思い返し、口を閉ざしてしまう。
「どうかしたか?」
「いや、ドラゴンが現れて緊急依頼が発令されたところなんだ。ただ、相手が相手だけに冒険者ではない君を誘いにくくてね」
「そうか………」
もう領主から同じ依頼を受けてることは……無理に話す必要もないだろう。
「マグナス殿もこの町が襲われる前に早く逃げてくれよ!」
それだけ言うとギルド長は急いでギルドの中へ戻っていった。
◇
町の外へ向かうマグナスたち。
逃げまどう人たちとは別の……ドラゴンが向かってきてると言われる東門を目指していた。
「ちっ、人が邪魔だな……」
逃げる住民などが邪魔で門までなかなかたどり着けない。
しかし、時間をかけようやく東門付近までたどり着く。
そこで周りをキョロキョロ探しているミリファリスを見かける。
「あっ、マグナスさん。こんなところにいらっしゃいましたか。探しましたよ」
嬉しそうに笑みを見せるミリファリス。
こんな時なのに自分を探してくれていたようだ。
「ここは危ないですよ。さぁ逃げましょう」
マグナスの手を掴もうとするミリファリス。
ただマグナスは首を横に振る。
「いえ、ドラゴン退治の依頼を受けましたから」
「あ、相手はドラゴンですよ? 一人で行かれるのですか?」
心配そうな顔を見せるミリファリス。
するとそんな時に横からリウが顔を出す。
「私もいる……。大丈夫……」
何が大丈夫かはわからないが偉そうに胸を張るリウ。
その姿がおかしかったのか、ミリファリスは小さく微笑んでくれる。
「そうですね、リウちゃんもいますもんね。わかりました、ただ無茶だけはしないでくださいね」
もうミリファリスはマグナスたちを止めることなく、小さく手を振って見送ってくれた。
◇
いつかはこちらに向かってくるからとマグナスは強大な魔力を感じる山脈まで歩いて向かう。
特段急ぐことなく、少しめんどくさそうな顔をしながら……。
「ま、マグナス様? あ、相手はドラゴン……なんですよ? 怖くないのですか?」
大きなあくびをしているマグナスに対して、リウが不安そうに聞いてくる。
一緒についてきてはくれているものの彼女もどこか不安だったのだろう。
「まぁ今更不安がっていてもしかたない。実際に対面した時に考えればいいだろう」
ずっと緊張していても疲れるだけだしな。
そんなことを思いながら更に進んでいくと凄い勢いでこちらに向かってくるトカゲが目に入る。
「あっ、ど、ドラゴ……」
(人間か、我の邪魔をするな! 失せろ)
脳内にトカゲの声が響いてくる。
どうやら少しは魔力を扱えるトカゲのようだ。念話を使えるらしい。
ただ、実際にマグナスがあったことのあるドラゴンは人の言葉を理解し、普通に話すことができていた。
やはりトカゲだとそこまではできないようだ。
「邪魔だ!」
今は極力労力を使いたくない。どうせ、町の方では慌てふためいているので、今のマグナスたちを見る人もいないだろう。
安心して手を振り下ろす。
すると巨大な落雷がトカゲに落ちてくる。
そして、一瞬のうちに真っ黒になり、トカゲは倒れてしまう。
「さぁ、急いでドラゴン退治に行くか」
マグナスはリウに先へ進むように促す。
当のリウは訳がわからない様子で、そのトカゲとマグナスの顔を交互に見ていた。
次回『十六話 ドラゴン(後編)』は4月9日18時に投稿予定となります。