十三話 遺跡(後編)
予約の日にち間違えましたー。本日朝にしてたつもりが日にち間違えていました_:(´ཀ`」∠):_
「おいおい、魔道具を前にしてどこに行くんだ? もう目の前にあるんだ、ここは潜るしかないだろう?」
リズドガンドは目を輝かせながら言ってくる。
ただ、わざわざ潜る理由すらないわけだし、面倒じゃないか?
マグナスは不服な顔をリズドガンドへ向ける。
しかし、リズドガンドは興奮しながら話しかけてくる。
「マグナスは私の休暇を見たいんだろう? この遺跡を潜るのも私の休暇の一つだ」
「いやいや、これは休暇なはずないだろ!?」
「試したこともないのにそんなことが言えるのかい?」
そう言われてマグナスは言い返すことができなかった。
確かに自分はまともに休暇を取ったことがない。
こうやって遺跡に入るのも依頼で奥にある秘宝を取りに行く……といったことばかりだった。
もしかするとこういう遺跡の中にゆっくり休めるような場所もあるのかも……。
そんな儚い希望も遺跡の奥に踏み入れた瞬間に脆くも崩れ去った。
「遺跡だー、魔道具だー!」
リズドガンドは嬉しそうに大声をあげていた。
誰もいない場所ならどうということもないが、ここには魔物もいる。
当然、その魔物たちはリズドガンドの声を聞き、一斉に襲いかかってくる。
「あれっ……?」
まさか魔物がいるとは思っていなかったのか?
リズドガンドは思わず言葉を漏らした。
目の前には遺跡を守っていると思われる石の魔物がたくさん向かって来ている。
大きさは人間くらいだが、剣や魔法などが通りにくい石の体は厄介極まりない。
それはリズドガンドにとっても同じようだった。
足が震え、逃げ出そうとしていた。
流石にこのままでは危ないとマグナスは魔法を使おうとする。しかし、その時に少し足を震わせて怖がっているもののゴーレムたちに杖を向けたまま動かないリアの姿が目にとまる。
彼女はチラチラとマグナスの方を見ながら、その杖をゴーレムたちの方へ向けている。
これはもしかして――。
リズドガンドの前だからと魔法をあまり使わないようにしていたが、リウのその姿をみて安心してマグナスは魔法を放つ。
ゴーレムの体内にある核を綺麗に撃ち抜く圧縮された風の魔法……。
流石に同時には対処できないが、その魔法は一体……また一体とゴーレムを確実に倒して行く。
そして、しばらく経つとゴーレムは全て倒し終わった。
◇
遺跡の先へ進んで行くマグナスたち。
本当は帰りたいマグナスだが、流石にこんな危険な場所にリズドガンド一人を置いて行くわけにもいかない。
本当に仕方なく彼の後を歩いていた。
この遺跡は人工で作られたのだろう。綺麗に形整った石の壁で作られていた。
そして、侵入者を拒むような罠も多数設置されている。
そのうちの魔力で発動するものは近づく前にマグナスが解除してしまう。
そういったものは高威力の魔力をぶつけると壊れてしまうものなので遠距離から何食わぬ顔でそれを行なっていた。
「それにしても君はこんなに小さいのにすごい魔法使いなんだな」
リズドガンドは感心したようにリウを褒めていた。
すると彼女は恥ずかしそうにフードで顔を隠してしまう。
「そんなに照れることはないさ。君もいつかはマグナスみたいに立派な魔法使いになれるよ」
そう言いながらリズドガンドはマグナスのことを見てくる。
その瞳はいつものお茶目な様子はまるでなく、マグナスの力を純粋に測ろうとしている……そんな観察してるような目つきであった。
それがわかっているのでマグナスは平然を装いながら先を調べる。
まだ魔物の反応があるな……。
出来れば回避したいところだが、場所的に避けることはできなさそうだ。
少し溜息を吐きながら先へと進んで行く。
「そういえばマグナスは得物は使わないのか?」
リズドガンドがふと聞いてくる。
彼の手には小さな短剣が……。
リウは……まぁ一応杖と言えるようなものが握られていた。
しかし、マグナスは何も持っていない。
「うーん、今は必要ないかな?」
一応剣とかも嗜んだことはあるものの魔法ほど使えるわけじゃない。無理に使う必要はないだろう。
「そうか……」
もっと話題を広げてくるのかと思ったが案外早くリズドガンドは話を切り上げた。
その理由は――。
「見てくれ、マグナス! この柱の装飾、やばくないか?」
壁側に設置されていた柱を見て、リズドガンドはそのモノクルを光らせていた。
まるで壊れやすいガラス細工を触るように柔らかな手つきで柱を撫でてうっとりとする。
しかし、マグナスはどうでもいいような反応を返す。
「あぁ、そうだな」
しかし、リズドガンドが柱の説明を始めてしまったので、それに耳を傾けないようにしながら先に遺跡の奥へと進んで行く。
「あっ、ま、待ってくれよ!」
そんなマグナスをリズドガンドは慌てて追いかける。
◇
何とかリズドガンドに隠れて魔物を倒していったマグナス。
ついに遺跡の最深部までたどり着く。
「ここに魔道具が?」
目を輝かせるリズドガンド。
本当にいつも休暇はこんなことをしてるのか……と疑いたくなる。
それに一人でこんな遺跡を潜れるようなほど力があるようにも見えない。
まぁ本人は本当に楽しそうにしてるので休暇になってるのだろう。マグナス自身はどっと疲れが出たが……。
小さく溜息をつくマグナス。
その間にリズドガンドは一人で魔道具の方へと近づいていく。
「こ、これも魔道具なのか……」
ゆっくりと光る魔道具を拾い上げるリズドガンド。すると突然地震が起こったかのように地面が揺れ始める。
「な、なんだ?」
マグナスは周囲を見渡す。
すると、何も気配のなかった場所から突然強大な魔物の気配を感じた。
宝箱の守護者……といったところだろうか?
地面に大きな魔方陣が広がるとそこから巨大な子猫が現れた。
「にゃーーーん!!」
巨大で可愛らしい声を上げてくる子猫。
流石に想像していなかったその愛くるしさにマグナスは思わず苦笑を浮かべる。
しかしリズドガンドとリウは顔を強張らせたまま怯えにも似た表情を見せていた。
「厄介な……魔物ですね」
杖を構えたままリウはマグナスの隣に立つ。
ただ、マグナスはあれが厄介なのかと信じられずにいた。
多少大きくなったからといっても相手は子猫、怖さのかけらもなかった。
とりあえず何かしてくる前にマグナスは鋭い視線で睨みつける。
すると先ほどまで威勢良く毛を逆立たせて、威嚇してきていた子猫の顔が青ざめ、すぐに体を地面につけて平伏していた。
「あれっ?」
魔物を警戒していたリズドガンドはその態度を見て拍子抜けしてしまう。
子猫は本来守るべきはずの宝をマグナスの方へと差し出してくる。
「えっと……、いいのか?」
普通に聞いただけのつもりだが、子猫は体を震わせて、涙目になりながら何度も頭を下げていた。
どうやらこの子猫は実力差を判断出来るくらいの力はあったようだ。
そう考えると思っていた以上の能力がこの子猫にはあるのかもしれない。
「こ、これが新しい魔道具……」
リズドガンドは子猫が渡してきた魔道具を恍惚の表情で眺めていた。
そして、当の子猫だが魔道具を渡した後も平伏したままだった。
まるで何かを期待しているような視線を送りながら……。
(もしかして仲間になりたいのか?)
直接聞くのは不安が残るので念話をその子猫に送ってみた。すると子猫は首を縦に振った後期待のこもった眼差しを向けてきた。
ただこれだけの巨体を連れて歩くとなると面倒なことになる。どうしたものか……。
マグナスは少し悩んだ後に使い魔の契約だけを結ぶことにした。
ちょうどリズドガンドが魔道具に夢中になっている間にマグナスは契約の魔法を発動させる。
次話『十四話 領主邸』は4月7日18時に予約投稿しました。