十二話 遺跡(前編)
くっくっくっ、この魔の山に生息するダークドラゴンの手を借りればいくら我と同等の力を持とうが関係ない。
魔族の男は不敵な笑みを浮かべてドラゴンと対峙していた。
(我を呼び起こすのは誰だ?)
ドラゴンの声が直接脳内に響き渡る。
高位のドラゴンになると念話すらこなせるから話が早くて助かる。
魔族の男は事情を説明する。当然始めは話半分で聞いていたドラゴンも実際にその魔族の男の実力を見るとどれほどの危機か理解し、その男に手を貸すことを約束した。
◇
翌朝、久々に早起きをしてしまったマグナス。
まだ、日が昇り始めたくらいの時間で外を見ても人がまばらにしか歩いていない。
歩いている人を眺めると剣を持った身軽そうな男や大きな武器を持った重戦士、逆にローブに身を包んで大きな杖を持った魔法使いなどをよく見かけた。
おそらくは冒険者のパーティなのだろう。
こんなに早くから出かけると言うことは遠くの方に依頼へ出かけるのだろうか?
誰かの護衛任務かもしれない。
大変だなぁ……。
頬杖をつきながらその様子を眺めていると少し遅れてリウが目を覚ます。
大きな欠伸をして、その目をこすっていると目の前にマグナスの姿が見えて驚いて声をあげる。
「ま、マグナス様!? こ、こんな朝早くからどうしたの?」
驚きすぎていつもより大きな声をあげる。
「リウ、まだ朝早いから静かに……」
まだ閑散としているその町並みを見てマグナスは注意を促す。
するとリウは申し訳なさそうに頭を下げて落ち込んでいた。
ただ、マグナス自身もこの世界にきてこれほど早く起きたことはなかったのでそこは少し反省しないといけないなと考えを改めた。
しかし、今までこうやってのんびりと過ごすことのなかったマグナスは寝る以外の休む方法は思いつかなかった。
仕方ないのでとりあえずリウに聞いてみる。
「せっかくだから今日はゆっくり町を見て回るか? 何か欲しいものがあったら買っても良いぞ」
するとリウが少し言いずらそうにもぞもぞとしながらも覚悟を決めていってくる。
「それならお願いがあるの――」
◇
リウに連れられてやってきたのは女の子らしいかわいらしいデザート屋……ではなく熱気と独特の匂い漂う焼肉屋だった。
その香ばしい匂いは食欲を誘い、思わずマグナスもよだれが出そうになるのだが、こんなところで良かったのかとマグナスはリウの顔色を伺う。
リウは目に見えてわかるほど口からだらだらとヨダレを垂らしていた。
しかし、マグナスが見ているとわかると慌ててその口を拭い、乾いた笑みを見せてくる。
「あ、あはは……、こ、ここ美味しそうですよね……」
なんとか話題を変えようとするリウ。
たしかにこんなお店があるなんて思わなかった。
マグナスも興味を持ち、お店の中に入っていく。
店の中は更に強力な匂いが漂う。
これはまるで呪いのようだ。ここに来てしまうと腹一杯食べるまでは出られない……というような。
早速リウと二人席に着くと手堅くオススメのメニューを頼んだ。
そしてそれを待っているとわざわざ他の席が空いているのにマグナス達と相席する人物がいた。
「やあ、奇遇だね。君たちもここで食事かい?」
リズドガンドは嬉しそうにモノクルを曇らせながらマグナスへ話しかける。
「お前……俺たちをつけているのか?」
そんなことはないと言うことはわかっているが、あまりに怪しいその動きに疑ってしまう。しかし、リズドガンドは何のことかわからないといった風に首を傾げていた。
本当にたまたま店がかぶっただけのようだ。
「それにしてもこの隠れ家を知っているとはね。驚きだよ」
「ここはリウが見つけたんだ」
リウの名前を挙げると彼女は嬉しそうに胸を張っていた。
「ここの肉はSランクの冒険者がようやく倒せる幻のしもふりウルフからとれた肉だけを使っているんだ。値は張るがその分は味は保証するよ」
リズドガンドが言ったとおり、目の前に置かれた料理はどれを取ってもその味はよく、ついつい食べ過ぎてしまうほどだった。
そして、それはリウも同じなようでお腹をぽっこりと膨らませて満足げに恍惚の表情を浮かべていた。
リウがしたいことはこれだけと言うことでマグナスは休み方をリズドガンドに相談してみることにした。
「なぁ、リズドガンドは休みたいときはどんなことをしているんだ?」
「そんな、リズドガンドだなんて他人行儀じゃないか? 俺と君の仲だ、リズと呼んでくれて良いんだぞ?」
それだけいうとうずうずと呼んで欲しそうにマグナスの目を見てくる。
それを見てマグナスはため息を吐くと「リズ……」と名前を呼ぶ。
するとリズドガンドは嬉しそうに彼の休み方を教えてくれる。
「そうだな……。私の場合だと――いや、せっかくだ。私の休暇を一緒に体験してみるか?」
彼の提案にマグナスは少し迷ったものの休み方の参考になればと首を縦に振っていた。
◇
リズドガンドに連れられてやってきたのは町から数時間歩いたところにある小さな遺跡だった。
確かに彼は学者で歴史的遺産を見ると落ち着くのかもしれない。ただ、それに全く興味がないマグナスは特に思うことは何もなく、少しは参考になったかな? と思った程度だった。
しかし、リズドガンドの休暇はここで遺産を眺めるだけではなかった。
「それでは中に入りましょうか?」
「へっ?」
それは想定していなかった言葉だった。
マグナスは思わず声を出してしまう。
えっと……、休暇にきたんだよな? どうして遺跡の中に入るんだ?
思わず自分の耳を疑ってしまう。
「俺の聞き違いだよな?」
思わず聞き返してしまう。しかし、リズドガンドはにっこりと微笑むと何も言わずにマグナスの背中を押して遺跡の中に入っていく。
◇
「ここだよ、これぞ人類の神秘……!!」
今すぐに遺跡の柱に抱きついてしまいそうなほど浮かれているリズドガンド。
確かに今の彼の状態ならとても楽しい休暇になっていそうだ。
くるくるとその場で回る彼を見てマグナスは「はぁ……」と大きくため息を吐く。
しかし、その瞬間にこの遺跡に眠るとある魔道具の反応を感知して気を引き締める。
急に真顔になったマグナス。
それを見たリウはきっと何か危険なことがあるのだろうと何かはわからないながらも持っている杖……っぽい木の枝を構える。
これは道を歩いているときにリウが拾って嬉しそうに抱えていた物だ。
先端に幾枚かの葉っぱがついたままの長い木の棒……。
見方によっては杖にも見えなくもない。
「マグナス、一体何があったんだ?」
さすがにマグナスのただならぬ様子にリズドガンドも浮かれていた気持ちを引き締めていた。
「この遺跡の奥の方から魔道具の反応があった……」
思わず告げてしまう一言……。言ったあとでやってしまったと思ったがリズドガンドは魔道具という言葉に反応するだけだった。
「そ、そうか……。確かにここは何年……何十年……いや、何百年も前の遺跡だ。魔道具が眠っていてもおかしくないか……」
すぐに考察に入るリズドガンド。顎に手を当てて考え事に集中する。
その間にマグナスはこの遺跡の中の反応を調べる。
魔物がうろついているな……。それに罠のような物もある気がする……。
ただ、罠は全てが魔力を使って発動する物じゃないため全部が全部わかるわけじゃなかった。
そして、奥深くに祀られた魔道具。それは……。
「いやいや、さすがにこれはないだろう――」
マグナスのやる気が一気にそがれる。
さすがにこれを取るために遺跡を潜るなんてことはしたくない。
そこまでマグナスにやる気をなくさせる魔道具とは……ただの光を発するだけの物だった。
これはわざわざ魔道具を使わなくても蝋燭で事足りる。
「よし、帰るか……」
マグナスは出口の方へ向くが、それはリズドガンドに止められてしまった。
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