第十話 魔法の特訓
ある程度お金が増えてきたのでマグナスたちは露店や店が立ち並ぶ商業区域の方まで足を運んでいた。
マドリー商会で買わないのはほんの気まぐれでたまにはこっちの方にも良いものがあるかもしれないと思ったからだ。
それに特に決まったものを買いたい訳ではない。
その場合だとこちらの方が便利だった。
「マグナス様、マグナス様、あれを見てください!」
リウがマグナスの服を引っ張ってくる。
そこには大小、さまざまな色がつけられた魔法の杖が置かれていた。その中にはファンシーなものも置かれており、どうやらそれがリアの目に止まったようだ。
「こんな杖があれば私もマグナス様みたいに魔法が使えるようになりますか?」
少し憧れ目つきでマグナスの方を見てくる。
「いや、杖はなくても魔法は使えるぞ?」
杖の効果は魔力操作がやりやすくなり、その結果うまく強い魔法が使える……と言う程度でしかない。
でも、そうだな。何かあってもリウが自分を守れるくらいに鍛えるのは悪いことじゃないだろうな。
「リウは魔法が使えるのか?」
「はい、簡単なものなら使えますけど、マグナス様の魔法と比べると……」
リウは少し顔を伏せてくる。
「それなら少し魔法を教えようか?」
「ほ、本当ですか!?」
目を輝かせるリウ。
ただ、リウが強い魔法を使えるようになれば、それだけ自分も楽をすることができる。後々の自分のために少しだけ頑張るか。
マグナスは更にぐうたら出来るようにリウに魔法を教えようと決めた。
◇
「まずはリウがどのくらいの魔法が使えるかを知りたい。全力の魔力弾を放ってくれ」
町の外へやってくる。
流石に町中で魔法の練習をしてはまずいだろうと考慮してのことだ。
ただ、本当なら障害物が何かあるところがよかったのだが、そこまで行くには少し距離が空きすぎてる。
自分一人なら問題ないがリウもとなると近場で済ませてしまう方が楽であった。
「で、でもいいのですか? だってマグナス様を狙ってだなんて……」
流石に的がないのはやりにくいだろうと自身が的になったのだが、逆にその方がやりにくそうだった。
「大丈夫だ。魔力障壁を張ってるからな」
先日の魔族との戦いを思い出しながらいう。この時代の攻撃は以前よりはるかに弱いものばかりだ。それは魔物、魔族、攻撃の威力を見ればわかる。
つまりリウの魔法は魔族の攻撃より威力がないだろうから自分にその攻撃が届くことはない。
「わ、わかりました。試しにつかわせてもらいますね」
リウは目を瞑り、精神を集中させ魔力を集める。
そして、それをそのままマグナスの方へと放つ。
しかし、溜めた量もそこそこ、魔力を圧縮することもなく放ったそれはマグナスの障壁に当たると簡単に霧散してしまった。
「やっぱりダメでした」
魔法を放ち終えたリウは少ししょんぼりとしていた。
「リウは魔力を圧縮したりはしないのか?」
「魔力を……圧縮?」
まるで初めて聞いたとでも言いたげに聞き返してくる。
それを見てマグナスは少しため息をついた。
「とりあえずマナを圧縮する訓練からだな」
「はい……」
「とりあえず見本を見せるぞ」
ちょうど近くに魔物の気配を察知したのでマグナスは先ほどリウが放ったものと同量の魔力を極限まで圧縮して放つ。
ボンッ!、!
側に現れた魔物のウルフはまともに魔法を受け次の瞬間には爆散し、跡形もなく消え去っていた。
「す、すごいです! そ、そんな魔法の使い方があるのですね!?」
マグナスの魔法を見てリウは絶賛していた。その様子を見て、マグナスは本当に魔力の圧縮をしていないのだろう……と想像がつき、更に大きな溜息を吐くのだった。
◇
「ふぅ……、やっぱりまだまだでした」
しばらく魔力圧縮の特訓をしていたもののすぐに上手くなるというものでもなく、リウが疲れてきたタイミングで引き上げることにした。
そして、冒険者ギルドの前を通りかかるとちょうどギルド前を掃除していたミグリーを見かける。
「あっ、マグナス様。今日もギルドにご用ですか?」
「……その言い方だとまるで俺がギルドメンバーみたいな物の言い方に聞こえるのだが?」
ミグリーの言い方にマグナスは少し不満を漏らす。するとミグリーは慌てたように手を振って否定してくる。
「嫌だなー、違いますよ。マグナス様はまだギルドメンバーじゃないですよ」
やけにまだの部分を強調して言ってくる。ただ、この話題はこれ以上触れるべきではないだろうと判断し、話を切り上げることにした。
「それじゃあ俺はこの辺りで――」
軽く片手をあげて去って行こうとしたが、その腕をミグリーに捕まれてしまう。
「どうした?」
「いえ、ちょうどマグナス様にお願いがあったのですよ。ちょっといいですか?」
「断る!」
もう今日はリウに魔法を教えるという大役をしたからな。これ以上何かの依頼をするつもりはなかった。
しかし、ミグリーのお願いはそういったものではなかった。
「いえ、もしよかったら何ですけど、今晩に緊急依頼達成のパーティを行うんですよ。マグナス様も参加して行かれませんか?」
「いや、パーティはなぁ……」
あまり気乗りしないマグナスだったが、隣にいるリウが興味深そうに目を輝かせているのを見てため息を吐く。
「あぁ、それなら小さい子もいるから途中までな。あまり長い時間いられないがそれでもよければ参加しよう」
その言葉を聞いてミグリーは自分の耳を疑っていた。
マグナスのことだから頼んだところで断られるだろうと思っていた。でもこういうイベントごとにはきてくれるのか……。
意外とマグナスも騒ぐことが好きなのかもしれない……なんて的外れなことを想像していた。
実際はまぁ、こういう場なら飲み食いは無料でできるし、朝まで付き合わされる面倒なコースはリウがいるから回避できる。つまり損得勘定でまだメリットが大きいから行くことを決めただけなのだが、そんなことはミグリーは知るよしもなかった。
「あっ、こうはしていられない。すぐにギルド長に知らせないと!」
なぜかギルド長に報告しに慌ててギルドの中に入っていくミグリー。
もしかして、自分は早まってしまったのかもしれないと少しだけマグナスの顔には後悔の色が出ていた。
まぁ飯食うだけなら問題ないだろう。
そう自分に言い聞かせながら宿へと戻っていった。
◇
「えっ、マグナスが来るのか!?」
ミグリーの報告を受けてギルド長は思わず声がうわずった。
彼もマグナスは来ないと思っていたのだろう。
「ちょっと待て、今日の料理って……」
「はいっ、今回は緊急依頼が立て続けに起こりましたからかなり値段は抑えめで、安価で大量に仕入れています」
それを聞いてギルド長は顎に手を当てて考え始める。
ないとは思うが、彼が料理を気に入ってギルドへ加入してくれる……という可能性も捨てきれない。
彼は特に欲があまりないようなので別の方向から気に入ってもらうしかないだろう。
そう考えると今日の料理は最悪だ。
下手をすると彼が二度とギルドへ来てくれなくなるかもしれない。
ギルド長は覚悟を決め、大きく溜息を吐く。
「はぁ……、わかった。今から集められるだけの最高級素材を集めてくれ。俺の個人資産から金は出す」
「いいのですか?」
「仕方ない、今回は事情が事情だ。彼と交友を深められるだけで十分すぎるくらいだ。だからこそマイナス要素は省いておきたい」
「かしこまりました。今からダッシュで買い物に行ってきます」
「ちょっと待て! 料理だけじゃないな。彼用に特別席を準備しないと。あー、そういえば彼は少女を連れてたな。彼もまだ酒が飲めないかもしれない。その辺りの考慮も頼んだぞ!」
ギルド長は思いつく限りの指示をミグリーに出す。
それを嫌な顔をせず、すぐに頷く彼女。
それほどまでにマグナスは魅力的な人物であった。
ミグリーが走って行ったあと、ギルド長は改めて別のことで悩み始める。
ギルド勧誘の件は二度断られてる時点であまり口にするべきではないだろう。
それなら彼と話す……彼に聞いておきたいことはないか……それをゆっくりと考えていた。
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