第九話 vs魔族?
魔道具の所在を追っていると少しわかりにくい崖の切れ目へとたどり着いた。
調べたタイミングではこの切れ目の中からその反応があった。
すると突然この中から膨大な魔力を感じる。
「リウはここで待ってるか?」
その魔力の他にもう一人、何者かの存在を感じる。
今までの魔物達よりは強いみたいだ。
リウが狙われては心配なので声をかけておく。
しかし、リウは首を横に振る。
「大丈夫です……、私も行かないと」
何か強い決意のようなものを秘めていた彼女を見て、マグナスはこれ以上何も言わなかった。
中に入るとそこには盗人らしき人……いや、もう人と言っていいのかわからないが、赤黒い肌の男が禍々しい魔力を吐き出す剣を構えていた。
そして、もう一人はマグナス達の目的である魔道具を持った魔族であった。
ただ、その能力には違和感を感じた。
まるで力の一部を使って生み出したかのような……。
その違和感について聞こうとしたそのタイミングで、禍々しい剣の男はマグナス達向けて突き進んできた。
人間が出しているとは思えないほどの速度で向かってくる。
どう猛な雄叫び声と人間とは思えない赤黒い肌がそのものの不気味さを更に強調していた。
ただ、自分の行動が阻害されて少し腹が立ったマグナスは手を出して軽く魔力の弾を放つ。
「邪魔だ!!」
ドゴォォォォン!!
初級魔法のその下、魔法を使おうとするものがまず練習する魔力弾。その威力は通常、当たったものを怯ませる程度なのだが、マグナスの放ったそれは男の周囲を爆発させ、意識を刈り取った上で壁まで衝突させるほどの威力だった。
そして、狂戦士の剣を手放した男はそのまま灰になっていった。
「あ、あの人どうして……」
「呪われた武器を使ったからだ。力を使い果たすと灰になって死んでしまう」
口に手を当てて恐怖の色を浮かべるリウ。
やはり連れてくるのは良くなかったかと思ったが、その理由がすぐにわかる。
「お前はリウフラッド……。生きていたか」
少し驚いた表情を見せる魔族だが、すぐに笑い顔へと変わっていく。
「まぁ魔族の面汚しであるお前がいたところで何にも変わるまい。それよりお前だ!」
魔族の男はマグナスを指差す。
「あの魔法は最上級魔法の見えない圧力弾か。お前ほどの魔法使いがこの町にあるとはな。でも今放ったので打ち止めだろう」
不敵な笑みを浮かべ続ける魔族と心配そうにマグナスを見つめてくるリウ。
「そんなことよりそれを盗んでどうするつもりだ?」
マグナスは魔族が持つ魔道具を指差す。
あれは弱い魔物を近づけなくする結界を張ることのできる魔道具だ。おおよそ魔族が使うものではないと思うが。
「やはりこの存在にも気づいていたか。これで貴族の三男を脅そうとしたのだが、町の最大戦力が知れた今、もう必要のないものだな」
「それじゃあもう一つ、本体はどこにいる?」
その言葉に一瞬固まる魔族。しかし、次第に笑い声を上げていく。
「そうかそうか、これにすら気づくか。これは俺自身の固有スキルだ。分身魔法……とでも言おうか?能力は下がるが己の分身が作れる有効な魔法だ」
おおよそマグナスの見立ては当たっていた。しかし、本体の居場所までは教えてくれなかった。
「まぁいい。お前の魔力気配は掴んだからな。それでその魔道具を返してくれないか?」
「いいだろう」
案外すんなりと魔道具を返してくれるようで、マグナスの方へと投げてよこしてくる。
それを受け取ろうとしたその瞬間に魔族はその鋭い爪でマグナス達に攻撃を仕掛けてくる。
ガキィィィン!!
ただ、それはマグナスに触れようかというところで壁のようなものに遮られる。
「な、なにっ!?」
まさか塞がれるとは思っていなかったのだろう。魔族は驚愕の表情を浮かべ、マグナスとの距離を開ける。
自分の爪による攻撃は冒険者達の剣すら軽く切り裂いてきた。それなのにあんな魔力で作った壁程度に防がれるとは信じることができなかった。
「それじゃあ返すものも返してもらったし、帰るか」
マグナスは軽くあくびをしながらリウに話してきた。
ただ、そんな彼の様子と魔族の男を交互に見てリウはどう反応すればいいのか困っていた。
「くそっ、なめるな!!」
その言葉が自分への挑発と受け取った魔族の男は苛立ち、考えなしに再びマグナスへと突っ込んでいった。
ガキィィィン! ガキィィィン!
しかし、それは再びマグナスの魔力の壁によって防がれる。
「リウ、行くぞ!」
少し強めにマグナスに言われる。
マグナスは完全に魔族に背を向けるとそのまま隠れ家から出て行こうとする。
それを小走りで追いかけるリウ。するとその様子にますます腹をたてる魔族。
力を溜めて手に魔力を帯びさせて、全力の攻撃を加えてくる。
しかし、その攻撃はマグナスに届くことなくアクビ混じりに手を後ろにして放った火の魔法によって魔族は跡形もなく消え去ってしまった。
◇
「くっ、なんなんだあいつは?」
魔族の男は暗い部屋の中で口をかみしめていた。
分身で生み出した自身は能力こそ自分よりかなり弱いもののそれでもかなり強い方だ。
それを一撃で……しかも最上位魔法を二発も平気な顔をして放つなんて化け物としか言いようがない。
しかもそんなあいつの隣にはリウフラッドがいた。
魔族の面汚しとしか言えない奴が魔族を滅ぼすために人間と手を組んだ?
いや、もしかして人間の力を増大化させるのがあやつの能力とかか?
それなら奴自身が弱いのも頷ける。
そうだよな、魔族のくせに何も能力がないなんておかしいよな。
実際はあれはマグナスの力とわかっていながらもそれを信じたくない魔族の男は乾いた笑みを浮かべていた。
と、とにかく人間族を滅ぼすためにはあの男をどうにかするしかない。
自分の分身すら倒してしまう相手……おそらく自分と同格の者だろう。
戦えば自分もただでは済まない。下手をすると殺されるかもしれない。
まずは万全の体制で挑めるようにしないといけない。そのためには――。
「仕方ない。少し策を弄するか」
男は不気味な笑みを浮かべてその作戦を考え始めていた。
◇
「どうしてあの人を逃がそうとしたの?」
町へ戻りながらリウは聞いてみた。
「だって、わざわざ相手にするのも面倒じゃないか」
眠りを妨害した盗賊も倒したわけだしもう自分の睡眠を妨害する奴はいない。それにいくら分身を倒したところで本体を倒さないことには意味がない。いくらでも生み出すことができるからな。
極力無駄なことはしたくなかった。まぁあまりにしつこかったからつい魔法で倒してしまったが。
「あっ、あと穴の奥に宝石とかいろんなものが落ちてましたけど、それは拾っていかないの?」
「いらないだろう?重くなるし……」
本当にそれでいいのかなと思うリウだが、マグナスのあまりにも自信ありげに言う様子から大丈夫なんだ……と言う気持ちになってくる。
ただ、少し気になったので「少しだけ拾って来ます」と言うとリウは元来た町を戻っていき、転がっていたものを全て拾っていった。
そして、マドリー商会へと戻って来た二人。
それをミリファリスとユーキリスは安心したように出迎えてくれた。
「その荷物……、もしかして!?」
「はいっ、盗まれたものを拾って来ました」
リウはミリファリスに見えるように拾って来たものを広げていた。
「あ、ありがとうございます」
「あとはこれもそうだよな?」
マグナスは魔道具を取り出すとそれをミリファリスに手渡した。
「はい、本当に何から何までありがとうございます」
ミリファリスは直角になりそうなほど頭を下げてくる。それを見てリウはどこか嬉しそうだった。
「はい、戻って来てよかったです……」
リウがミリファリスに笑みを見せていた。
そして、マグナス達はユーキリスから依頼の報酬として何枚かの金貨を受け取る。
それを乱雑に小袋にしまい込むマグナス。
それを見てリウは苦笑を浮かべていた。