さよなら、既に消えた昨日に
こんばんは、遊月です♪
ギリギリで完結です……! 遊月の書く「午前0時」はこんな感じです、ということで!
本編スタートです!!
0時近くなった夜道を走っていると、やっぱり都会とは言えない地域だからか、走っている車とはほとんどすれ違わない。一応駅前通り……の延長線上にある並木道沿いにはいろんな店が立ち並んでいるけれど、24時間営業のコンビニくらいしか開いていない。
だから、そういうコンビニを見つけたら寄って……と言っておいたのを忘れて寝ていたら、運転席のゆうに起こされた。
「なる、なる。ほら、コンビニ着いたよ、なる」
穏やかな声で。
でも、起こし方はあんまり穏やかじゃない。
肩からわっしゃわしゃ揺さぶられる。下手したら酔うから、と言ったことあるけど、それも忘れちゃってるのか、今日もわっしゃわっしゃと揺すぶられた。
「あんまされると気持ち悪くなるし痛いんだけど、ゆう」
「ん、あぁ、ごめんごめん」
……いつもと変わらぬ気の入らない声。ゆうの喋り方がそんななのはいつものことといえばいつものことなんだけど。
でも、何かつまらないっていうか……。
「ていうか、ゆうが迎えに来るとか珍しいよね。そんなにわたしのことが恋しかったんだ」
「……、まぁ」
「っ、飲酒運転とかやめなよ」
「してないけど」
「あー、めんどい。コンビニ行ってくる!」
ほんとに、たまに見せるこういうところが面倒なのがゆうだ。そういうところが心底うざいから、さっさと車を出る。
で、コンビニでいつものタバコとお酒を買って、車に乗り込むまでは数分。だから降りる前の気持ちが消えることはなくて。
「何かあった?」
「…………」
ふーん、人にはあれこれ訊くくせに自分は返事しないんだね。ゆうは本当に自分勝手だ。少し笑ってから前を向くと、信号はもう黄色の点滅だけ。車はすいすいと夜道を走っていく。
「ねぇ、なる」
「…………」
「満希」
「ーーーーーーっ!?」
不意に耳元で名前を呼ばれて、思わず飛び上がる。ドキッとした、とかなら幸せだけど、そんなのじゃないことくらい、ゆうならわかってるよね?
「なに」
だから、不機嫌になるのも仕方ないよね? 普通、そんな不意打ちみたいな声のかけ方しないもんね? 悪意あるよね? だったら普通に相手することないよね?
「何か思い出したの?」
別に答える必要はないから、わたしは窓の外を見て鼻唄することにする。
そうしてると何となく気持ちが落ち着いてくるから、何か面倒なことに直面したら、子どもの頃からこういう風だ。
まぁ、どうかとは思うけどね。
友達だと言い張りにくくなるような奇妙な行動があることを自覚できるようになってしまうと、時々自分を嫌いになりそう。
でも、嫌ったって仕方ないし、それでも好いてくれる人がいないわけじゃないから、わたしはこのままでもいいんじゃない? 開き直ろうとして、つい最近友達じゃなくなった人のことを思い出して、耳たぶに鈍い痛みが走ったような気がした。
『みっちゃん、ちょっといいかな?』
珍しく思い詰めたような声に足を止めたのが悪かったのか、それまでにわたしの知らないところで積み重なって手遅れになっていたのかは、知らない。
『ピアス、しよ?』
そんな笑い声で押し倒された頭がまだ痛い。怯えて、抵抗して、泣いて、やっと拒絶の意志が届いたときには耳に歪な形の穴があいていて。
『ごめんね、ごめん……っ!』
謝るだけ謝って休学してしまった莎綾には、まだ会う気になれないでいる。
思えば、それより少し前から何となくわたしたちのことを心配している素振りだったゆうからは、そのとき色々言われたっけ。
いま隣で、表情変えずにハンドルを握ってタバコを吸っている姿とのギャップを思い出して、つい噴き出す。
「あん」
「いや、佑樹もまぁまぁ面白いな、って」
「改めて名前呼ばれるの気持ち悪いね、さっきはごめん」
「わかればよろしい」
そんなやり取りをしながら、今度はコンビニコーヒーをちびちび飲みながら信号が変わるのを待っているゆうを見る。
当たり前だけど、わたしはゆうの全部を知っているわけじゃない。もちろん逆もまた然り。
ゆうの知らないところでわたしに色々あるように、わたしと知り合う前のゆうにも色々あったらしい。たまにうわ言で「お母さん」と苦しげな声を上げているのとか、たぶんそうなのだろう。
知り合って妙に気が合って、それからの大体は隠してはいないけど、それ以前のことにはお互いあまり触れていない。
気にならないわけではないんだろうけど、何となく。不意に覗く「過去」に、何も思わないわけではないけど。
ただ、今こうしてつまらなさそうな顔でしりとりをして、「ら」攻めに苦しんでいる様子のゆうを眺めているうちにも、時間は過ぎる。
期限付きの魔法は解けるし、いくら賛美しても時間は留まらない。それが嫌でも、どうしたって逆らえない。
そうやっていくうちに、たぶんどこかに安らげる一瞬はそれなりに訪れるから。
素晴らしくても、尊くても。
辛くても、忘れ去りたくても。
今はすぐに過去になり、今日はもうすぐ昨日になる。
そんなことを考えていたら、デジタル時計がゼロで統一された。
「あ」
「12時」
「ちょうど見るのって珍しくない?」
「あんまり見ないかも」
「ね」
いつも曖昧に越えている境界を、はっきりと見たわたしたちが次にしたことは。
「あ」
「ん?」
「来日」
「つべらこべら」
「また『ら』だよ……っ」
まぁ、特別なことは別にしない。
そういう風にして、明日は今日になり、色々詰め込んだままでも、色々なことは過去に飛んでいく。そうやって、目の前の今日を生きていくのだと思う。
夜中の道は、段々家に近付いている。
遊月です♪
午前0時の物語、私の方はこれで終わりです。
この作品は、私たちで進めているある計画のプロモーション企画として執筆されたお話です!(詳細については、もう少し形にしてから公表するかも?)
ということで、以後もよろしくお願いいたします♪
ではではっ!!