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さよなら、既に消えた昨日に  作者: 遊月奈喩多
4/5

メフィストフェレスに捧げる言葉を

こんばんは、遊月です♪

第4話目ですね。この回ではどのような午前0時の物語が描かれるのか……?

本編スタートです!!

 隣の部屋から、人の出て行く音が聞こえた。たぶんすぐ戻るつもりなのだろう、誰もいなくなるのにつけっぱなしのテレビからは、わたしの好きな番組の音が微かに漏れ聞こえている。

 いいよね、わたしにはそういう時間をとる余裕なんかないのに……。


 思わず溜息をつきながら見てしまうのは、つい今さっきベッドに入って、健やかな寝息を立てているひとり息子の姿。この子といると、隣に住む2人組のように自由な時間なんてとりようがない。

 あ、ちなみに隣に住んでる人たちとは全くと言っていいほど関わりがない。それでも2人暮らしで、それで今は誰もいないことがわかるのは、いつもこの時間になると女の方がこれくらいの時間に帰ってきてギャーギャー騒いでいるから。

 それを宥めるような男の声がいつも聞こえて、数分泣き声が聞こえて、その後少し経ってようやく静かになる。たぶん、そのまま眠っているに違いない。

 いい気なものね。

 あんたたちの騒ぎ声で何回この子が起こされて、それでわたしだって眠れなくなったか知れないのに。


 で、そんなうるさい女の声が今日は聞こえない。だからテレビを見ているのはいつも宥めている男のほう。で、その男が部屋を出たということは、今の隣室は無人。

 なんて、推理とも言えない簡単なこと。

 ひけらかす相手なんていないし、いたとしてもそんなことをしたらただ惨めで恥ずかしい思いをするだけだ。だから、わたしはそんなことしない。

 そうやって暇潰しでもしていないと、わたしはこんな毎日を続けちゃいられない。


 チラッと見たときにたぶんわたしと同じくらいの年齢だろうと窺えたあの2人みたいに、自由気ままに過ごしている時間はない。その原因は……。

 健やかな寝息を立てている幼い顔を、何も言えずに見つめる。そんな風に思ってはいけない相手だと、わかってはいるけれど。

 でも、つい考えてしまう。

 考えるべきではない、でも甘い誘惑にも似たifを。



 この子の父親は、もういない。

 死別とかそういうんじゃなくて、ただの蒸発。することだけ散々して、子どもができたと話したら何も言わずにいなくなった。音信不通、所在も不明。清々しいほどに、すっきりとしたクズ男だった。

 そんなやつが残していったこの子。

 わたしにとっての、唯一の家族。

 幼い頃からあまり親の顔を見ることなく育ってきたからなのか、それともそんなときだけ親ヅラして堕ろすことを熱心に勧めてきた両親への反発心からか、わたしはその子を産むことを迷わなかった。

 不安がなかったわけではない。

 この先ちゃんと育てられるか。

 母親ってどういうものなのか。

 わからないことばかりだった。


 だけど、生まれてきてくれたこの子を見たとき、強く思ったのだ。

 わたしは何があってもこの子を守っていこう。わたしの子どもなのだから、もしかしたら人から愛されにくい子なのかも知れない。だとしても、わたしだけはこの子のことを、愛してあげたい。愛せるようになりたい。

 そう思ったあの日から、もう何年か経って。

 憎いわけではない。

 それでも、やっぱり、もしこの子がいなかったらわたしはどういう人生を歩んで、どういう今を過ごしていたのか……。少なくとも、今のように自分じゃない時間に追われて、自分の為に使えない時間が1日を圧迫してきて、そんな日々は迎えていなかったかも知れない。


 そんなことを思ってしまうことすら、許されませんか……?


 誰にともなく問う。もちろん、答えなんて返ってこない。

 だからわたしは、ベッドの上で健やかに眠っている我が子を見つめる。

  日が昇ればわたしが寝てるとかそういうのを構わずに起こして朝ごはんをねだってくるし、ちょうど車とかに興味がある年頃なのか、外を歩けばふらふらと車道に歩いて出そうになったり、どこかの店に行けばミニカーだとか車の図鑑だとかをねだられて断り疲れて少し買ってしまったり、保育園でも些細な理由からお友達と喧嘩したり、家では言うことを一切聞いてくれなかったり。

 もっと小さな――生まれたばかりの頃くらいは、それはそれで夜泣きとかが大変だったけど、大きくなったらなったで別の苦労がある……。

「ふぅ……」

 そう思いながらふと見つめたその寝顔は、だけどそんな疲れを癒してくれるほど清らかに見えて。

 何かを求めるようにわきわきさせている手に向かって差し出した指を握ってくれる温もりはやっぱり愛おしくて。


 こういう瞬間は、やっぱりこの子に出会えてよかった、と心から思えて。

 同時に、いつでもそう思うことのできない自分が心の底から憎らしくて。


「いっそ、このまま時間が止まってくれたらいいのに……」

 時間とともに、わたしの心も。このままの気持ちでずっといられたらいいのに。

 何も答えを返さずに差し込む月明かりが綺麗な夜の部屋で、思わずそんな言葉が漏れていた。

「わたしはね、佑樹ゆうきのこと大好きでいたいんだよ……?」

 届いたかわからない言葉は、夜の空気に溶けた。

遊月です♪

名残惜しいですが、次回で最終回となります。

最後まであと少しお付き合いいただければ幸いです♪ m(_ _)m

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