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さよなら、既に消えた昨日に  作者: 遊月奈喩多
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夜の駅前ロータリーから

こんばんは、遊月です。

Twitterでも告知しておりますが、今作は『午前0時』というテーマで投稿された作品となっております。まずはこちらが第1話です。

「じゃ、またね~」

「うん! また来週!」

 もうそろそろ日付が変わりそうな、夜の駅前。

 そんな声が近くで聞こえる。楽しそうで、それまで全然気にしてもなかったのに思わず振り返ってしまいそうなその声が私に向いているわけでもないことはわかりきっている。むしろ、全然関わりのない私にそんな言葉が向けられたとしたら何か異常なことに巻き込まれているに違いない。


 突如として訪れた謎の少年、彼と出会って私が巻き込まれた未知の世界……とか?

 

 そんなわけのわからない妄想を吐き出した呼気は、下弦の月が輝く夜空に吸い込まれて消えていく。

 私はというと、いつものようにアルコール臭い最終数本前の電車で最寄り駅で帰ってきた自宅最寄り駅で溜息をつきながら、なかなか来ないタクシーを待っている。

 家までは駅からそんなに離れていないから歩いて帰ってもいいんだけど、前にちょっとしたトラブルがあったから暗い夜に外を歩くのが怖くなってしまった。


 だから、この時間まで外に出た後は絶対にタクシーに乗って帰る。

 それが私と、そのトラブルを聞きつけた友人との約束だった。

 自分が送っていく、とか迎えに行く、とかそういう言葉が一切出てこないのは本当に彼らしいな……としみじみ思っていたら、敢えて出歩いてみせて、できれば大怪我しない程度に何か怖い目に遭って、そのことを報告してみたらどういう反応するかな、とか思い始めた。


 あぁ、ダメだ。

 ちょっとよくない兆候かな。

 仕事中にイライラするものを見てしまったせいで、気持ちがちょっと荒れてる。

 そんなことじゃいけないって、周りからもよく言われてるのにね。特に、無責任に優しい友達たちから。だったらあなたたちが私の気持ちを晴らしてよ。私の気が済むまで時間を割いてよ。

 ……なんて言ったら、困るくせに。


 ふふふ。


 妙にふわふわした頭でそんなことばかり考えて、思わずほくそ笑む。

 お酒とか飲んでないんだけど、もしかしたらちょっと熱でもあるのかな。帰ったらちょっと測ってみよう。

 それにしても、タクシーとか来ないな。

 ロータリーを見渡すと、同じようにタクシーか迎えの車を待っているらしい人が何人か見えた。お昼頃はまだまだ暖かいのに夜風が少しずつ冷えてきているこの時期だからだろう、油断してか薄着で出かけてしまって、いま寒そうに震えている姿も見える。

 そのうち何人かが諦めて歩き始めているのが目に入って、少し胸がぎゅ、っとなった。


『ねぇ、ちょっといいかな』


「――――――」

 駄目だ、思い出すな。

 記憶を押さえつけたくて、別のことを考えようとする。

 黒、月、壁、木、塀、虫の声、……あ、駄目だ。

 だったら物理的に押さえつけようと思って、頭を抱える。それでも思い出すことをやめられそうになくて。どうにかなりそうな心と頭をいっそのこと壊してしまえれば楽になれるんじゃないか、もうそういうことしか考えられなくなって。

 ふと見えた車のヘッドライトはそんな破壊の道具として最適なものに思えて。


 考えるより先に車道に飛び出していて。

 車はそれがわかっていたというようにちょうどよく止まって。

「わぁ、よかった。迎えに来てみて。帰ろうか、なる」

「…………あ、珍しいね、ゆう」

 いつも無責任に窘めてばかりで、ほしいことなんてほとんどしてくれてないのに。

 やっぱり……と呆れたような、だけどホッとしたような顔をして、ゆうは私を車に乗せてくれる。芳香剤のツンとした香りがいつもと変わらず鼻につくけど、シートの柔らかさには敵わない。疲れた体はどこまでも沈み込んでいきそうで。

 そんなわたしを労わるようなゆっくり発進で、車は走り出した。

遊月です♪

今回の「夜の駅前ロータリーから」だけでなく、全話一挙に公開されておりますので、よろしければお立ち寄りくださいませ!

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